ダイナミック・プライシングはタクシーをどう変えるのか!? Uber Japanが海外での知見からしくみと導入の効果を公開

Uber Japanは、タクシー業界の「ダイナミック・プライシング」に関する記者勉強会を2021年6月1日に都内で開催した。勉強会では、ダイナミック・プライシングの導入の利点、仕組みの概要、期待される効果、海外での事例等について紹介した。
2021年2月22日には河野太郎規制改革相が国土交通省へ提起し、国土交通省は年内を目途に制度設計を進める考えを示していることもあり、タクシー業界では、料金へのダイナミック・プライシング導入が注目されている。

Uber Japan株式会社 モビリティ事業 ゼネラルマネージャー 山中志郎氏


新型コロナウイルスの影響により状況が悪化するタクシー業界

国土交通省が発表した資料によると、新型コロナウイルスによって、タクシー業界の業績が悪化している状況が見て取れる。
2020年12月においては、運送収入が30%以上減の事業者が62%、輸送人員が35%減となるなど、夜間の会食・外出の自粛や感染再拡大の影響により状況が悪化している。
2021年1月以降、緊急事態宣言の影響等により、63%の事業者が30%以上の運送収入減を見込むなど、引き続き厳しい状況となる見通しだ。

支援制度については、資金繰り支援を98%の事業者が活用しており、97%の事業者が給付済み。雇用調整助成金を約82%の事業者が活用しているという背景もある。約75%の事業者が給付済み。

タクシー業界全体の1ヶ月あたりの運送収入は減少にあり、想定では前年の収入約1,218億円に対して、約3割の約365億円が減少すると見られている(業界全体の売上金額と、12月の減少率から推計)。

また、新型コロナによる悪化がなくても、1990年以降、タクシー業界は悪化の傾向にあり、なんらか大きな施策の導入が必要とみられている。

30年間右肩下がりにあるタクシー産業を復活させる鍵がダイナミックプライシング。全国タクシー営業収入の推移(2019年以降は試算値):一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会統計資料をもとにUber Japanが作成

こうしたことを背景に、悪化するタクシー業界の需要を喚起するための施策のひとつとして提案されているのが「ダイナミック・プライシング」の導入というわけだ。


Uber Japanの業務内容

世界で知られている「Uber」(ウーバー)は、米国サンフランシスコに本社を置くウーバー・テクノロジーズだ。現在ではフードデリバリー(Uber Eats)や配送事業など幅広く手がけているが、中でも最も有名な事業はタクシー事業を改革した「ライドシェア」プラットフォームによる「UberX」事業だ。
Uberのしくみを簡単に解説すると、ユーザーはタクシー(移動するための運転手つき車両)を利用する際に、利用する開始地点と目的地、車両の種類(サイズ)等をスマホアプリ等で指定する。指定に応じて利用料金と配車・到着の見込み時間等が表示され、オーダーすればまもなく配車される。その際、乗客を運ぶ際の料金はUberが設定・提示し、その時の受給のバランスに応じて料金が決定する「変動料金制」(ダイナミック・プライシング)が採用されている。


「ダイナミック・プライシング」の有効性とメリットとは

では、なぜ「ダイナミック・プライシング」が有効なのか?
現在、日本では地域によって一律のタクシー料金が定められている。その状況下にあって「ダイナミック・プライシング」は主にタクシー料金(運賃)を利用時間によって値下げする施策として注目されている。一方、既に実施されている海外の例では主に、タクシーの基本料金が安く設定されていて、需要が大きい地域と場所にダイナミック・プライシングで追加料金(料金アップ)が適用される。そのケースを例に説明すると利点を説明しやすいという。

下記はシドニーのボンディビーチにおける「ダイナミック・プライシング」の例。タクシー利用者が一時的に増えて混雑が発生する(surgeと呼ぶ)と、通常の料金より料金が高くなる。

平日の2月4日(木)は17:30-18:30くらいに一時サージが発生している。一方、休日はイベント開催などの影響等で利用者が18時前後と22時前後に大きく増加して、大きなサージが発生している。

平日でも日によっては突発的にサージが発生するケースも多い。


天候やイベントによって「タクシーが捕まえづらい」という経験は誰にでもあるだろう。突然、降り始めた夕立で多くの人がタクシーを求めたり、野球観戦終了後にスタジアムから出てくる大勢の観客でタクシー乗り場に長蛇の列ができるなどだ。また、電車が何かの理由でストップしたときも駅前のタクシー乗り場は一瞬にして大混雑となる。そんなときは「タクシーがもっとたくさん走っていればいいのに」と思うだろう。


ダイナミック・プライシングが需要と供給のバランスをとる

サージの動きと料金の変動は、利用者と運転手の両方にリアルタイムに伝えられる。利用者は主に「比較的高額の料金であってもすぐ利用したいという人」と「サージ(割高)が収まるまで時間を潰して待とう」(需要のマイナス)という層に分かれる。

タクシー利用者に現在のサージ状況を伝えるアプリ画面のイメージ例。(1.2倍の割高料金)

タクシー運転手にはどう伝えられるのか。運転手がいる近辺で発生しているサージ状況がヒートマップとして伝えられる。


運転手は利用客がすぐにみつかり、かつ少しでも利益が多い割増運賃が適用されるサージ地域へタクシーを向かわせる。こうした行動によって、サージ地域にはタクシーが集まり、大きな需要に対して供給も増えていくことに繋がる。

運転者の近くでサージが発生していることを示すことて゜多くのタクシーが利益を求めて集まってくる(右図)。ダウンタウンの周りでは1.3倍だが、ダウンタウンの中心地では1.7倍の運賃であることを示す例(右)


これがダイナミック・プライシングによって、需要と供給のバランスが調整されるしくみであり、Uberのフラットフォームで実現している内容だ。海外では70ヶ所を超える国と地域でダイナミック・プライシングは導入されている。





Uber Japanの事業

日本法人として2013年9月に設立されたのがUber Japan株式会社だ。事業としては大きく、モビリティ事業としてタクシー配車の「Uber Taxi」、ハイヤー配車の「Uber Premium」等、そしてフードデリバー事業の「Uber Eats」を展開している。


今回のテーマとなる「Uber Taxi」は、2018年5月に淡路島でサービスを開始し、以降、9月に名古屋、2019年1月に大阪、2月に仙台、3月に青森/郡山、4月に広島/京都、10月に福岡/高知、2020年7月に東京と、サービスを拡大している。

ちなみに東京では6月1日時点で、都内15区でサービスを行い、車両数増加に伴ってサービスエリアを拡大中だ。


また、最近の活動として、新型コロナのワクチン接種にかかる移動をサポート。高齢者向けにワクチン接種会場まで安全に移動するため、タクシーの無料乗車を提供するプログラムを全国11都市で実施している(最大2,000円)。


現在、Uber Japanは全国約80社のタクシー会社と提携して事業を展開している。Uber Japanと連携しているタクシー会社の多くは、タクシー市場が下がっていることもあって、ダイナミック・プライシングの導入に賛同している傾向にあるという。

日本では「ダイナミック・プライシング」の導入でタクシー料金の値下げ(割引)が期待されているが、同社が実際に行った実証実験では、料金を下げても売上げは下がらず、利用者が増えたり、利用距離が伸びるなど、着実に売上げのアップが見込まれる結果が出たという。


同社で政府への渉外と、公共政策部長を担当する西村氏は「効果最大化のため、”Fake”ではない“Real”なダイナミック・プライシングの導入を目指すべき」という指針を示した。

Uber Japan株式会社 政府渉外・公共政策部長 西村健吾氏

現状では政府の動きを見ると、タクシーの利用料金は20%アップ/10%割引の変動レンジで検討されるようだ。これは深夜割増が20%、障がい者割引が10%、という料金がひとつの目安となっていると指摘する。


実は、タクシーに限らず、電車やバス等、MaaS全体で検討が進められている「ダイナミック・プライシング」。同社と政府の動向には今後も注目していきたい。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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