分身ロボットが接客を行う「分身ロボットカフェDAWN ver.β」常設実験店が6月21日にグランドオープンしたので、早速、見に行ってきました。(一般の入場は6月22日から)
難病を煩っていたり、重い障がいがあったり、家庭の事情等で外出できない人が、自宅から分身ロボットを遠隔操作して接客するカフェが「分身ロボットカフェ」。外出できない人の働く機会や働き方の選択肢が増えると期待されています。
取材した6月21日は報道関係者向けの内覧/体験会。多くの報道関係者が取材に詰めかけていました。もちろん入店前に検温と手指の消毒は必須。テーブル席にもクリア板が置かれていてコロナ対策はバッチリ。
入口では「OriHime-D」からのご挨拶、世界樹にも注目
入口を入ってすぐに「OriHime-D」(身長120cm)から「ようこそ分身ロボットカフェにお越しくださいました」とご挨拶が・・。
埼玉県から参加しているカーリーさん。指定難病「後縦靱帯骨化症」のため車椅子生活ですが「OriHime」パイロットとして受付を担当していました。「OriHimeを通じて多くの人と出会い、自分の可能性を広げたい」と語ります。
受付の「OriHime-D」の横には「世界樹」があります。今回の「分身ロボットカフェDAWN」は今までオープンしてきた分身ロボットカフェのテイストを少しずつ取り入れた、いわば結晶のようなもの。この世界樹は屋久島が思い浮かぶ、オリィ研究所を象徴するかのような大樹です。これはオリィ氏の「お気に入り」、見逃さないで!
この日は世界樹の前にお食事のメニューサンプルが展示されていました(報道関係者向け内覧会は残念ながらお食事の注文はなし)。美味しそう!!
「分身ロボットカフェDAWNは常に変化し続けたい」
これまで数回の期間限定店を経て、ついに「分身ロボットカフェDAWN」がついに常設店のオープンを迎えました。しかし吉藤オリィ所長は今回も「ver.β」(バージョンベータ)の名称を取り払うことはありませんでした。それを報道陣に問われるとオリィ氏は「常設店になるのだからβ(β版の意味)の文字をとってもいいんじゃないか、という意見もありました。しかし、DAWNはこれで完成したのかと自身に問えばそうではありません。もっともっと改良を繰り返したいし、常に変化し続けたい。だから「常設店」ではなく常に「常設実験店」だし、”永遠のβ(β版)”という思いで文字を残しました」と語っています。
テーブルに1台「OriHime」との会話
各テーブルには1台ずつ小型の分身ロボット「OriHime」が設置されています。「OriHime」の向こうにはパイロットの方達がいて、テーブルについたお客さんと遠隔から会話して楽しみます。外出困難な人達が「OriHime」を使うことで働くことができます。
「お客様、ご注文は何にしますか?」という「OriHime」からの会話で始まり、お客さんも「どこからアクセスしているんですか?」「こちらはすごく暑いんです」と楽しげな会話がすべてのテーブルから聞こえてきます。
私たちのテーブルを担当してくれた「OriHime」パイロットはミヨシさん。ミヨシさんは秋田県在住。卵巣ガンを経験されました。娘さんが外出困難の「OriHime」パイロットで、大手町の分身ロボットカフェでパイロットを経験しました。それを見てミヨシさんもパイロットとしての活動を今回からはじめたそうです(なんとミヨシさんの妹も「OriHime」パイロットだそうです!!)。
ミヨシさんは「お仕事を通じて、いろいろな人と出会い、会話ができること、褒めて頂けることが、やり甲斐に繋がっています」と話してくれました。
吉藤オリィ所長が登場して挨拶
注文した飲み物が届くまでの時間を利用して、オリィ研究所の吉藤オリィ所長が登場。吉藤氏が分身ロボットを共同で開発してきた故番田雄太氏(4歳の時に交通事故で頚椎を損傷)とのエピソードを紹介しました。オリィ氏は当時、番田氏と話す中で「カフェで身体を使う作業もテレワークできれば、もっとたくさんの人たちが働くことができる」という考えから「OriHime-D」を開発したと言います。「寝たきりの人にも出会いと発見の場を提供したいという思いから「カフェをやろう」と思いつきました。
「今までは私達の技術を”コミュニケーション・テクノロジー”のひとつと考えてきました。しかし、私達の技術は情報のやりとりだけではないため、”リレーション・テック”と呼ぶことにしました。これは人と人の関係性を築く技術」だとしました。
「OriHime-D」が飲み物を運んできてくれます
やがて、「OriHime-D」がお盆に飲み物を載せて、運んできてくれます。この時も「OriHime-D」パイロットと会話することができます。
■動画「分身ロボットカフェDAWN ver.β」
「テレバリスタ」も導入
吉藤オリィ氏は「分身ロボットカフェDAWN ver.β」での新たな取り組みとして、真っ先に実験ロボット「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」を導入したことを挙げています。仕事としてバリスタをしていた二人が分身ロボット「OriHime」で参加し、高精度のサービスロボットとして知られる「NEXTAGE」をベースにした「テレバリスタ」ロボットを使ってコーヒーを淹れてくれます。
オリィ氏は「自動販売機やAIの方が手軽だったり、安上がりだったりするかもしれません。しかし、私達は自分好みのコーヒーを淹れて欲しい、誰かのためにコーヒーを淹れてあげたいという思いには価値があると考えています。その仮説検証を、分身ロボットとコーヒーを淹れるバリスタロボットを組み合わせて行なってみたい」と語っています。
「お客様にヒアリングして好きなコーヒーの味や今日の体調を聞いたり、天気や時間帯を加味してバリスタがコンサルして最適なコーヒーを淹れます。今はパイロットが遠隔で18種類のボタンから選択、目の前でロボットが淹れるシステムになっています」(吉藤オリィ氏談)
「OriHime-D」をオープン直前までブラッシュアップ
報道陣から、今回の分身ロボットカフェで技術的にロボットに改良を施した点を尋ねられると「コロナ禍なので、テーブルの「OriHime」との会話においてお客様が大声で話さなくても済むように、マイクやスピーカーの強化を行いました。「OriHime-D」は無線の強度を上げたり、動線を工夫して、移動の自由度を比較的向上させたりしました。また、オープン直前までカメラ映像のチューニングを行って改良を加えました」と答え、「OriHime-D」パイロットの”ふーちゃん”も「最新版ではカメラの映像や音声がとてもきれいになって、使いやすくなりました」と語りました。
カフェラウンジ
テーブル席やテレバリスタコーナーのほかに「カフェラウンジ」もあります。分身ロボットカフェDAWNのコーヒーカップ等のグッズや特選コーヒーなども販売されていますのでチェックしてみましょう。
店舗名 | 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」 |
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開業日 | グランドオープン:2021年6月21日(月)12:00〜(※関係者及びプレスのみ入場可)
一般営業開始:2021年6月22日(火)10:00〜 |
営業時間 | 10:00〜19:00(LO18:30) ※OriHimeが接客する席の営業時間は店舗全体の営業時間と異なる場合がある。 |
定休日 | 不定休(メンテナンスによる休業の場合は公式サイトなどで告知) |
住所 | 〒103-0023 東京都中央区日本橋本町3丁目8−3 東硝ビル1F (※2021/5/1~「日本橋ライフサイエンスビルディング3」に改称予定) |
最寄駅 | 東京メトロ日比谷線 小伝馬町駅 徒歩4分 /JR総武線 新日本橋駅 5番出口すぐ 東京メトロ銀座線 三越前駅 徒歩7分、JR山手線 神田駅 徒歩10分 |
席数 | 約70席 |
面積 | 約300㎡(うち、カフェエリア:190㎡) |
バリアフリー対応 | ・店内段差なし ・店内導線、什器・家具類は車椅子のお客様に配慮した設計 ・ストレッチャータイプ・電動を含む車椅子のご入場が可能 ※介助ヘルパーの方も入場人数に含まれる。 ・人工呼吸器などの医療機器や電動車椅子の充電用に電源貸し出しが可能 ・店内にオストメイト・介助ベッド附設のバリアフリートイレを設置 ・食事対応については後日公式サイトでメニューを公開予定 |
公式サイト | https://dawn2021.orylab.com/ |
OriHimeダイナー席予約ページ
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。