建築途中の現場を模した、一風変わった記者発表の会場に、車輪を搭載したアバターロボット(遠隔操作ロボット)が入場してきた。株式会社log build (ログビルド)が自社開発したロボット「Log Kun」(ログくん)だ。
「Log Kun」の導入は既に始まっていて、40社120台が現場に出ている。iPadでこれを操作しているのは同社の代表取締役 中堀健一氏、建築会社の元現場監督の経歴を持つ。ロボットを開発したのは元ソニーでAIBOの開発やPlayStationの開発に携わった精鋭メンバーたち。
ロボットの頭の上には360度カメラで知られる「RICOH THETA」が装備され、撮影した建築現場は即時にVR画像としてクラウドプラットフォーム「Log Walk」(ログウォーク)に展開される。リアルの建築現場をVRプラットフォーム上にそっくり作り上げる、いわゆる「デジタルツイン」を実現する。
当該工事の関係者がVR空間を共有できるほか、コミュニケーションをはかることもできる。また、将来的にはVR空間で寸法を明示したり、進捗状況の見える化が可能になる。
「建築のミライ」を担う、VRとロボティクスによるデジタルトランスフォーメーションとはどのようなものなのか、詳しく解説していこう。
建築現場監督の業務をテレワークに!VRプラットフォーム「Log Walk」
株式会社log build (ログビルド)は、設計担当者や現場監督がスマホなどからクラウド上のVR空間で現場の状況を共有できるソフトウェア「Log Walk」(ログウォーク)を開発し、2021年6月24日、横浜・元町で記者向けに発表会「建築のミライ」を開催した。
会場には同社が開発した建築現場向けアバターロボット「Log Kun」(ログくん)も用意され、操作体験会も併設された。
現場監督が移動のために費やす時間は全国平均で一日3.5時間
「建築業界の現場はレガシー、DX(デジタルICT活用)は驚くほど遅れている。現場監督の一日の移動時間は全国平均で3.5時間(※)。これは1日の43%にあたり、43%もの非生産的な時間を毎日費やしている。現場との良好なコミュニケーションは維持したまま、ICT技術でこの移動時間を削減することが目標」と中堀氏は語る。(※log build調べ)
「Log Walk」は建築に関わる全てのメンバーが、現場のVR空間と施工管理、コミュニケーションをリモート操作で行うことができるクラウドプラットフォーム。世界的には既に9社が競合していて同社が10社めの参入となるが、日本企業の参入は初めて、日本初のシステムだという。
VR空間「デジタルツイン」を構築、テレワークと情報を共有を推進
多くの企業がコロナ禍の対策や働き方改革によってテレワークが進行しているが、建築業界ではテレワークへの取り組みが遅れていると同社は指摘する。「人手不足の深刻化する住宅業界においては「現場に行かない効率的な管理」によって生産性を高めるソリューションが必要で、これは建築のデジタルトランスフォーメーション」(中堀氏)と強く語る。
中でも、現場監督には作業が集中し、人手不足もあって過酷な状況が続く一面が課題という。現場での施工管理、進捗管理、関係者との打ち合わせ(コミュニケーション)や指示などをこなす。これを「VRとロボットによってテレワーク化、効率化しよう」という考えだ。
具体的には、現場監督はiPadなどのタブレットで現場を高精度に再現した360度VR空間にログインし、施工の確認や進捗管理を行い、課題や問題点をマーキングしたり、文字入力する。特定の担当者に向けた指示も行える。現場では施工担当者がスマートフォンやタブレット等でその指示を確認したり、施工担当者から監督や他の担当者宛に質問や確認事項をやりとりすることができる。これらの情報は関係者全員がフラットに共有することができる。
また、現在開発中の技術、建築現場の採寸をVR空間で実現するデモも披露した。壁や天井の寸法などが可視化され、現状での誤差はプラスマイナス3mm程度だという。更には、AIの機械学習を活用した進捗管理の見える化を実現する技術も開発中で、これが完成すれば壁面や天面など部類別に進捗状況が数値化、グラフ化されるとしている。
■ 「Log Walk」と「Log Kun」のデモンストレーション
アバターロボット「Log Kun」と「RICOH THETA」でVR空間を作成
VR空間作成のための写真データを収集したり、現場を動き回って実際の状況を確認したり、施工担当者との会話をするための役立つのがアバターロボット「Log Kun」だ。エコワークス、アネシス、サンアイホーム、SAKAI、ハウスクラフト、ひかり工務店など、40社に合計120台が導入されている。
複数のカメラやTOFセンサーを搭載し、現場を遠隔操作で移動できる。運用する工事現場にはWi-Fi(モバイルWi-Fi)が必要。
なお、将来的には自律移動機能も装備する予定だ。SLAMなどを検討中。
最新のモデルには頭頂部に「RICOH THETA」を搭載し、360度に近い画像、映像を取得することができる。
導入される現場は住宅も多く、バリアフリーが普及しているため、ロボットの移動に段差はそれほど問題にならないという(乗り越えるのはケーブルや配管類程度)。とはいえ、建設機材や階段などがあってロボットが入れない場所は出てくるため、その場合は、施工担当者がヘルメットや自撮り棒に「RICOH THETA」をセットして歩き回ることでVR画像の取得が行えるという。
■ アバターロボット「Log Kun」のデモンストレーション
7月から本格的に販売を展開
7月から本格的に全国の工務店に向けて展開する。価格はシステム内容によってレンタル料金(サブスク料金)は変わるが、目安としてはロボット「Log Kun」が月額5万円程度から。クラウドプラットフォーム「Log Walk」は規模によって異なるが平均すれば月額7~10万円程度としている。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。