ソフトバンク株式会社は、最先端技術を体感できる技術展「ギジュツノチカラ」の第3弾として「Beyond 5G/6G編」をオンラインで開催した。
5G(第5世代移動通信システム)を拡張した通信システム「Beyond 5G」と、更に次世代「6G」通信システムに関するコンセプトや、同社のアプローチなどについて解説、2030年の6G世界観、キーとなる要素技術、特に「テラヘルツ」と「成層圏通信プラットフォーム」の研究など、「12の挑戦」について解説した。
「Beyond 5G」と「6G」(以下、6Gと総称)は、5Gの特長である「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」のさらなる高度化に向けたもの。それに加えて、高信頼性やエネルギー効率の向上などの新たな技術革新も期待されている。
モバイル通信は高性能計算機がエッジで処理する時代へ
オンラインイベントでは同社の先端技術開発本部長の湧川氏が登壇。「仮想空間と現実空間をリアルタイムに結びつけ、インターネット黎明期に話題になったミラーワールド(デジタルツイン)の実現に近づく」とした。
また「AIによって仮想空間で予測して判断したことが、6Gにより現実空間に超低遅延でフィードバックされるようになる。6Gはもはやネットワークとしての役割だけでなく、AI社会を支えるコンピューターとしても発展する。日本のあらゆる場所にエッジコンピュータが配備されるようになり、AIなどのサーバー処理はインターネットを介さず、エッジコンピュータつまり身近に設置された計算機が処理するようになる」と語った。
周波数は「テラヘルツ」、カバレッジは「成層圏」の領域へ
更に「周波数とカバレッジの拡張」にも触れた。6Gで使用する周波数やカバレッジ(提供エリア)はどんどん「高い」方向へと向かう。具体的な例として、周波数は「テラヘルツ」へ、エリアは「成層圏プラットフォーム」を掲げた。
テラヘルツとは
テラヘルツは主に「100GHz(ギガヘルツ)~10THz(テラヘルツ)」の周波数を示す。周波数の明確な定義はないが、この周波数帯は扱いとして「光」の一部がそれに近くなり、超高速・超大容量通信が期待される一方で、現在の5Gよりも更に直進性が高く、遠くに届きにくい(減衰が大きい)という課題を持った電波となる。
また、テラヘルツに関しては未開拓の分野で、現状では開発に必要な器材や研究環境が充分には揃っていない課題もあげた。
ソフトバンクでは岐阜大学、NICTと連携してテラヘルツの活用について研究を行っている。
NICTとの共同研究については次の内容をあげた。
1.テラヘルツ
・国際標準規格の策定を主導
・携帯端末向けに100Gbps級、基幹網向けに100Gbps@1kmの実現
2.時空間同期
・超小型原子時計を開発し、無線による双方向時刻比較技術を用いて、精密な時空間同期を実現
3.ワイヤレスネットワークの宇宙航空・海洋への拡張
・強靭・セキュアな次世代ネットワークを宇宙航空、海洋へ拡張
・シームレスに統合された多層的なネットワークの実現に向け、基盤技術を開発
4.超大容量光ネットワーク
・1本で極めて大容量の通信が可能なマルチコア光ファイバーや、光増幅器等を用いて、超大容量通信の実現を目指す
5.電波エミュレーター
・様々な電波システムを仮想空間上で高精度かつリアルタイムにエミュレートできる電波模擬システムを開発
なお、テラヘルツを使った通信の実証実験について、ロボスタでは別途、詳細記事で紹介する予定だ。
成層圏プラットフォーム「HAPS」とは
エリアの拡張では、ソフトバンクは衛星や成層圏プラットフォームなど複数のアプローチで研究している。そのひとつが太陽電池を電力源として成層圏を飛行する「HAPS」による通信だ。ロボスタでもこれまで何度か「HAPS」のニュースを掲載し、解説もしてきたが、通信の基地局を成層圏に設置するようなイメージを想像するとわかりやすい。
衛星や成層圏からの通信は今後、とても重要な技術となる。というのも、「従来の通信は電話やスマートフォン等を使って人が利用するもの」だったが、今後は自動運転やドローンなどの移動体デバイスやIoT機器等の利用が拡大すると、人が住まない地域にも通信が必要となる。海上も想定すると固定基地局の設置は難しい。この様な課題をカバーするのが衛星や成層圏の基地局となる。
また、災害時には基地局も被害を受けたり、停電によって通信が途絶する状況が発生する。そのような非常災害時にも衛星や成層圏の通信は重要な通信拠点となりうる。
ソフトバンク(HAPSモバイル)は、成層圏での通信試験を成功させ、HAPS向けの周波数の標準化活動やグローバルなアライアンスの設立に寄与しているという。
HAPSモバイルとは
ソフトバンクは米AeroVironment, Inc.との合弁で「HAPSモバイル株式会社」を2017年に設立し、地上約20キロメートルの成層圏で飛行させる成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider(サングライダー)」を開発、それ以来、研究と実証実験を重ねている。
今回発表のあったHAPSについての最新技術も、ロボスタではより詳細な記事を予定している。
Beyond 5G/6Gに向けた12の挑戦
最後に「Beyond 5G/6Gに向けた12の挑戦」に触れ、「ソフトバンクは、6Gに向けた挑戦を実現することで、日本における完全デジタル化を推進して、『情報革命で人々を幸せに』することを目指します」と締めくくった。(以下、同社のリリースより引用)
(1)ベストエフォートからの脱却
これまでのモバイルネットワークでは、スマートフォンをインターネットに接続するベストエフォートなサービスを提供してきた。例えば、ネットショッピングや動画のストリーミング視聴といった、多少の遅延やパケットロスが発生しても生活に支障が生じにくいアプリケーションを提供してきた。6Gのモバイルネットワークでは、さまざまな産業を支える社会インフラの実装が期待されており、各産業が要求するサービスレベルに見合った、品質の高いモバイルネットワークを提供する必要がある。ソフトバンクは、日本全国を網羅するモバイルネットワークに、MEC(Mobile Edge Computing)やネットワークスライシングなどの機能を実装して、産業を支える社会インフラを実現していく。
(2)モバイルのウェブ化
インターネットは、これまで多くのIT企業によってシステムやプロトコルの改善がなされ、進化を続けてきた。一方、モバイルネットワークは、クローズドなネットワークであるため、世界的に標準化される以上に進化を遂げることはない。今後、モバイルネットワークのサービスの幅を広げるために、より柔軟なアーキテクチャーに生まれ変わることが期待される。6Gでは、ウェブサービスのアーキテクチャーを取り込むことで、さらにお客さまに便利なサービスを提供できると考えて、研究開発を進めていく。
(3)AIのネットワーク
AI技術は、画像認識による物体の検知や、音声認識・翻訳だけではなく、ネットワークの最適化や運用の自動化など、幅広く適用されるようなった。同時に、無線基地局を含むモバイル通信を支えるネットワーク装置では、汎用コンピューターによる仮想化も進んできた。AI技術と、ネットワーク装置の仮想化は、いずれもGPU(Graphic Processing Unit)によって効率的に処理できるソフトウエア。モバイルネットワーク上にGPUを搭載したコンピューターを分散配置することで、低コストで高品質なネットワークとサービスの提供が可能になる。ソフトバンクは、2019年からGPUを活用した仮想基地局の技術検証に取り組んでおり、AI技術とネットワークが融合したMEC環境を実現していく。
(4)エリア100%
6Gでは、居住エリアで圏外をなくすことや、地球すべてをエリア化することが求められる。ソフトバンクは、HAPSやLEO(低軌道)衛星、GEO(静止軌道)衛星を活用した非地上系ネットワークソリューションを提供することで、この問題を解決する。これにより、世界中で30億を超えるインターネットに接続できない人々に、インターネットを提供することが可能になる。また、これまで基地局を設置できなかった海上や山間部、さらには上空を含むエリアにモバイルネットワークを提供することが可能になり、自動運転や空飛ぶタクシー、ドローンなど新しい産業を支えるインフラとなる。
(5)エリアの拡張
ソフトバンクの子会社であるHAPSモバイル株式会社は、2017年から成層圏プラットフォームと通信システムの開発に取り組んでいる。2020年にはソーラーパネルを搭載した成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider(サングライダー)」が、ニューメキシコで成層圏フライトおよび成層圏からのLTE通信に成功し、HAPSが実現可能であることを証明した。このフライトテストで得た膨大なデータを基に、商用化に向けて機体や無線機の開発、レギュレーションの整備などを進めていく。
(6)周波数の拡張
5Gでは、これまで移動体通信で利用されることがなかったミリ波が利用できるようにした。6Gでは、5Gの10倍の通信速度を実現するため、ミリ波よりも高い周波数のテラヘルツ波の活用が期待されている。一般的に、100GHzから10THzまでがテラヘルツ帯とされ、2019年に開催された世界無線通信会議(WRC-19)では、これまで割り当てられたことがなかった275GHz以上の周波数の中で、合計137GHzが通信用途として特定された。この広大な周波数を移動通信で活用することで、さらなる超高速・大容量の通信の実現を目指す。
(7)電波によるセンシング
ソフトバンクは、これまで電波を主に通信用途で活用してきたが、6G時代では通信以外の用途でも活用することが可能になる。例えば、Wi-Fiの電波を使用して、屋内で人の位置を特定する技術はすでに実用化されている他、Bluetoothを位置情報のトラッキングに利用するケースもある。6G時代では、電波を活用して、通信と同時にセンシングやトラッキングなどを行うサービスの提供を目指す。
(8)電波による充電・給電
スマートフォンなどのデバイスは、Qi規格による無接点充電技術が多く使用されているが、距離が離れてしまうと充電・給電ができないという欠点がある。6G時代には、電池交換や日々の充電から解放される未来がやってくると期待し、距離が離れても電波を活用した充電・給電を行える技術の研究開発を進めていく。
(9)周波数
周波数は、これまで各事業者が占有して利用することを前提に割り当てられてきましたが、IP技術を無線区間に応用することで、時間的・空間的に空いている帯域を複数事業者で共有することも可能になると考えている。Massive MIMOやDSS(Dynamic Spectrum Sharing)などの多重化技術がすでに確立されているが、これらを含めた技術をさらに発展させて周波数の有効活用を進めていく。
(10)超安全
2030年には、量子コンピューターの実用化まで開発が進むと言われている。量子コンピューターが実用化されると、現在インターネットの暗号化に使われているRSA暗号の解読ができるようになり、通信の中身を盗まれる可能性がある。将来、通信インフラの上に成り立つ産業全体を守るために、耐量子計算機暗号(PQC)や量子暗号通信(QKD)などの技術検証に取り組み、発展させることで、超安全なネットワークの実現を目指す。
(11)耐障害性
モバイルネットワークは、5G以降により一層社会インフラとしての役割が強くなってくると考え、通信障害が発生した場合でも社会インフラとして維持し続ける必要がある。そこで、従来のネットワークアーキテクチャーを見直すことで、障害が起こりにくいネットワークを構築するとともに、万が一、障害が発生した場合でもサービスを維持できるようなネットワークの技術の研究開発を進める。
(12)ネットゼロ
大量のセンサーやデバイスからのデータ、あらゆる計算機によるデータ処理によって、CO2排出量を常時監視・観察ができるようになると、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするネットゼロの達成に大きく寄与できると考えられる。しかし、常にセンサーなどで監視されることになるため、プライバシー情報の取り扱いや情報セキュリティーといった課題を解決することも必要。また、基地局自体もカーボンニュートラルな運用を目指す。現在、災害時でもネットワークを稼働させるため、基地局の予備電源の設置が義務付けられているが、電源を普段から活用することや、日中に充電した電気を夜間に使うことで、温室効果ガスの排出量を抑えることができる。さらに、通信量に応じてリアルタイムな基地局の稼働制御を行うことで、消費電力を最小化することも可能になる。カーボンフリーな基地局の実現に向けて研究開発を進めていく。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。