アシストスーツが効果を発揮する業務とは?「SuitX」のユースケースをIM社が紹介
ロボット専門商社のInnovation Matrixは2021年7月29日、同社が代理店として日本国内で取り扱っている米国製の産業用外骨格型アシストスーツ「SuitX」を紹介するウェビナーを開催した。
「SuitX」は無動力型のアシストスーツで、荷物の持ち上げ作業、屈伸を伴う作業、頭上作業などをサポートし、腰、肩、足の負担を軽減するための3種類のアシストスーツが製品化されている。これまでに空港手荷物取扱い所・物流業務・宅配サービス・建設現場・マテリアルハンドリング・組立ライン・造船業・鋳物工場などで活用されているという。
ウェビナーではInnovation Matrixのほか、SuitX VP – Sales & Business Development のベン・ハリントン(Ben Harrington)氏が同社のアシストスーツの適用範囲の見極め方や利点、ユースケースを紹介した。
■ 動画
腰・膝・肩をサポートするパッシブ型アシストスーツ
概要はイノベーションマトリックス・ジャパン ロボット営業部長の室住康仁氏が解説した。SuitX(US Bionics)はカリフォルニア大学バークレー校スピンアウトとしてホマユーン・カゼローニ(Homayoon Kazerooni)氏らが2011年に設立した会社。従業員は40名。もともとは傷痍軍人を主な対象とした医療用外骨格「PhoeniX」という製品を開発していた。
2016年11月に産業用外骨格スーツ製品の販売を開始。重労働に従事する労働者の身体を守るために腰、肩、足の怪我や負担を軽減する3種類の外骨格型アシストスーツ、背中サポートの「BackX」、腕を支える「ShoulderX」、膝をサポートする「LegX」を開発製造している。それぞれについて現場でのヒアリングを基にした豊富なデータが取得されているという。なお産業現場での怪我の部位のトップ3は腰・膝・肩。米国市場での怪我や事故によるコストは2019年時点で約470億ドルに及んでいる。
「ショルダーX」は頭上で行う作業をサポートする。「ショルダーX」を使うことで腕を台の上に乗せたような状態を作ることができるので速やかに疲労回復することができる。
「バックX」は腰部を使うタスク向けで、スーツを使うことで脊柱起立筋の負荷を減らし、そのぶんハムストリングスを活性化させることで腰の負荷を減らす。「バックX」には「モデルS」と「モデルAC」があり、後者は「ショルダーX」とも併用できる。
重視されているのは作業中の快適さ、動きやすさ。研究と現場、双方の観点で求められる要件を満たしており、サイズやアシスト力は現場やユーザーの身体サイズに合わせて調節できる。なおアシストスーツにはモーターなどの駆動力を用いる「アクティブ型」と、バネやガスなどを用いる「パッシブ型」があるが、SuitXは現在はバネ機構だけでアシストするパッシブ型に注力している。これにより、メンテナンスフリーでどんな場所でも使えるようになったとしている。
また、アシストスーツには異なる場所をサポートする様々なタイプが各社から出ているが、同社は腰・肩・膝をサポートする全てのタイプを自社で作っている。こういった背景もあって、現在世界市場では 54ヶ国で、おおよそ2,100台が出荷されて使われている。特に自動車関連メーカー、シーメンスやGEなどの製造業、物流現場でのパレタイジング作業などで多く採用されているという。
イノベーションマトリックスの室住氏は「日本では外骨格アシストスーツはまだまだ浸透していない状況だが、労働力不足、人のポテンシャルを引き出す上で活用してほしい」と語り、実際に「バックX」を着用する様子をオンラインで実演した。
着用は腰回りのハーネスを骨盤に固定し、胸パッドをゴムバンドで留め、さらにお尻パッドと太ももパッドを繋げる。最後に金具を下ろすとアシストが効くようになる。おおよそ一分程度、慣れていれば30秒程度で着用ができ「他社製品に比べて着脱が簡単」だとアピールした。
イノベーションマトリックス社での販売価格は、「バックX」と「ショルダーX」は65万円(税込)、「レッグX」は75万円(税込)。「業種によっては補助金助成金対象になる」とのことだ。
アシストスーツの現場への適用
SuitXのベン・ハリントン氏は「どういった技術を使っているのか理解してもらって、どういう機能があるのか、どういう現場であればうまく能力を発揮できるのかヒアリングを行いながら開発した」と語った。そしてどのように現場に適用していっているのかを解説した。
外骨格スーツを現場に適用するためには、対象となる作業がどの部位を使うのかを見極め、一番良く使う部分に対する効果のあるタイプのスーツを選ぶ必要がある。適用用途が決まったら、その効果を比較できるようにタスクに対して実際に使用し、記録を取り、実際の効果を評価する。
アシストスーツは持ち上げ作業などに向いている。また頻繁に実行されているタスクでないと効果を発揮しづらい。ハリントン氏は、パッシブ外骨格スーツには「スイートスポット」があると語った。仕事の負荷を総合的に判断して、仕事しやすく効率よく能力を発揮できるポイントだ。そして「装着脱着する頻度、どのくらいの力が必要か、どういう姿勢で力を使うのか。総合的に3つの要素を検討して結論を出していく」と語った。
人間工学には不快感・疲労感を測定するための「OMNI-RES(自覚的疲労スケール)」 があり、これは筋活動や心拍数と正の関係があることが知られている。SuitXではこのスケールのスコアがどの程度低下するかを見て評価している。
テストの結果、効果がある現場では、スーツを着用すると筋活動の削減、知覚的労力の削減、疲労の削減などの効果があった。いっぽう、酸素消費量の変化はほとんどなかったという。
また、色々な身体部位に対してどういった負荷がかかったかを現場の人に直接記入してもらう評価も行っている。導入初日は慣れないために7や8といった疲労度を評価する人も、四週間経つと「だいぶ楽だ」という体験になっていくという。このように、実際にスーツを確認することでベネフィットがあったのかどうかを実際に体験してもらって実証しているという。
アシストスーツが向いている現場とは
では実際にどのような現場が向いているのか。ハリントン氏は実際に航空機の手荷物取り扱いに使われている様子を示した。手荷物カウンターから飛行機まで手荷物を運ぶためにはコンベアベルトやトラックが用いられている。しかしながら機内のなかにはコンベアは入らないので人間が空いているスペースに荷物を持っていく必要がある。このような例はかなりベネフィットを得られるアプリケーションだと言えるという。
また、物流倉庫でパレットに荷物を置くにはフォークリフトをを使う。しかしオペレータは同時に、人間にしかできない手作業を行うこともある。そのため、同社のスーツが脱着をせずにそのままフォークリフトの操作ができる点はメリットだと紹介した。
狭い場所で腕を上げっぱなしで限られた作業するようなケースも、肩をサポートする「ショルダーX」が適してる。そのほか、倉庫業務や建築現場などで同社の「レッグX」や「バックX」が用いられている例を紹介した。
「SuitX」シリーズの特徴は、色々な体型の人にフィットできるように設計されている点だ。身長の低い人から体の大きな人、痩せた人から太った人まで、一つの機種で対応できる。
ハリントン氏は「体に合うような調整をすることが重要。フィットしなければ効果が出ない。自分にあった装着の仕方を学ぶ必要がある。代理店から装着トレーニングを提供している」と語った。ハリントン氏自身も、ウェビナーで話しながら着用する様子を実際に見せた。慣れていると20秒あまりで装着できるようだ。
また、2021年1月に発表された新製品の「shieldX」も紹介された。放射線技師など、重たい抗放射線エプロン(鉛を用いた放射線防護衣)を着用しなければならない医療従事者が使用するための製品で、エプロンの重量を肩や背骨から取り除き、椎間板の負荷を減らすことができるとされている。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!