テスラのロボット「Tesla Bot」に見る期待と課題、現実度 自動車メーカーがなぜロボットを開発するのか?

Tesla(テスラ)がヒューマノイドロボットを開発する。先週のグローバルニュース最大のトピックのひとつになった。

同社のCEOのイーロンマスク氏(Elon Musk)が8月19日(米国時間)、「Tesla AI Day」のプレゼンテーションの中で発表した。名前は「Tesla Bot」、身長は約173cm、体重は約57kg。実機は披露されていない。約20kgの荷物を運搬し、8km/hの移動性能ということなので、デザインを含めて人間と同等の能力を意識している。顔は情報が表示できる黒いスクリーン(ディスプレイ)。


プロトタイプは2022年に登場すると予告した。主に肉体労働で人の代替になるロボットの開発を目指し、マスク氏の言葉では「繰り返す退屈だったり危険な仕事を代替する」役割を担う。


プレゼンテーションの時間は、序盤にTesla Botをイメージさせるようなダンサーが登場してパフォーマンスをおこなう余興の時間も含めて約6分間だった。(全体動画の2時間5分あたりから)

■動画Tesla AI Day




なぜ自動車メーカーが人型ロボットを開発するのか

ではなぜ自動車メーカーのTeslaがヒューマノイドロボットを開発するのか。
最大の理由は、マスク氏が語るように「自動運転車はロボティクスの技術が活用されたもの」で、技術的な共通点が多いことがあげられる。例えば、カメラやLiDARで周囲を見て(視覚)、センサー(感覚)で状況を把握し、コンピュータやAIで判断(頭脳)する点、そして経験によって(ビッグデータ)、より正しい判断をおこなう可能性が高まっていく。そしてそれらの機能を伝える役割(血液・生体信号)が通信(5G/4G LTE)だ。すなわち、その身体(デバイス)が自動運転車かロボットであるかの違いだけで、構成する要素技術は同じであることから「自動運転を開発するならロボットが作れないわけがない」ということだ。


このように、自動運転機能を持ったコネクテッドカーの開発には今まで培ってきた自動車メーカーのノウハウではなく、ロボティクスとAI、ビッグデータと通信といったICT技術が重要になる。そのため、トヨタ自動車もICT企業と連携したり、膨大な開発費をかけてAIとロボティスクの研究所TRI(Toyota Research Institute)を米国に設立した(2016年)。


コンセプトモデルの課題

しかし、今回の発表には大きな課題もある。それは自動運転車が移動を目的にした機械であるのに対して、ヒューマノイドロボットはある意味で万能性(汎用)が求められることだ。人間の社会や環境は人間の身体に合わせてデザインされているため、「人型」は人間の社会で共存していくロボットとしては理想型だ。例えば、ドアノブは人の手に合わせてデザインされているし、車輪をもったロボットでは階段を登ることは困難だ。
一方で、二足歩行は高度なバランス性能が必要で、ロボティクスの中では最も難しい技術のひとつ。転倒すればロボットはダメージを負うし、周囲の人を巻き込んで傷つけるかもしれない。転倒を防止するには重心は低くして、二足歩行よりも車輪機構を採用する方が現実的だが、今回発表のデザインは極端に人の肢体を意識したものになっている。「R2-D2」よりも「C-3PO」を目指すという現れだろう。

人型ロボットと言えば、ボストンダイナミクスの「Atlas」が世界最高峰の技術として知られている。Atlasは走るだけでなく、バク宙やパルクールなど、華麗な動きをYouTube動画で披露しているが、あのような動き(ある意味で超人的な動き)が環境に合わせて常時できるほど熟成されてはいない。

マスク氏の発表はコンセプトの段階であり、どのようなデザインのロボットが2022年、実際に登場するかは誰にもまだ解らないが、さまざまな分野でイノベーションを生み出してきたマスク氏だけに、来年の実機発表がとても楽しみではある。

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ロボスタ編集部

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