NVIDIAがリアルタイムの放射線治療を目指して医療分野で連携 AIが腫瘍と周辺の正常な臓器の輪郭を識別

AIと粒子線治療という二つの先端技術を組み合わせた、がんの新たな治療法の開発に NVIDIA Clara Imagingが活用されている。NVIDIAが同社のブログで公表した。

がんにおける放射線治療では現状、X線の照射が一般的だが、陽子線や炭素イオン線を照射する粒子線治療ではX線よりもピンポイントでがん細胞に照射できるため、周囲の正常細胞への照射により発生する副作用を軽減することができる。さらに、より高い能力でがん細胞を消失させることができるため、国内外で普及が期待されている。

粒子線治療の普及とがんの撲滅を目指して、兵庫県によって設立されたひょうご粒子線メディカルサポートは、放射線業界における長年の課題であるリアルタイムの放射線治療を実現するためにNVIDIA Clara Imagingを活用している。肝臓、前立腺、頭部や胸部の臓器などを認識する独自のAIモデルを2年間で20種類以上開発し、すでに多くのモデルが単純CTのみで高い精度の輪郭を作成することに成功している。最終的に各種AIモデルとNVIDIA GPUを搭載したワークステーションをAIシステムとして開発し、放射線治療のリアルタイム化ための重要なピースとして実用化を目指している。


放射線業界における長年の課題に挑む

リアルタイムで腫瘍と周辺正常組織の位置を把握することは放射線業界において長年の課題で、技術的に解決することが困難だった。現状、治療の照射を行う前に一週間ほどかけて照射範囲や方向を決める治療計画が行われるが、特に腹部の臓器は日々動いているため、治療当日に照射すべき位置や形が計画から変わっている場合がある。しかし現状のシステムではそれらの変化にすぐに対応して照射することができない。

治療計画作成時と治療日当日では、臓器の位置が変わっていることがあり、照射計画の変更が求められる

このブレイクスルーとしてひょうご粒子線メディカルサポートが取り組んでいるのが、治療日に撮影したCT画像上の腫瘍と周辺正常臓器の輪郭を作成するAIシステムの開発。通常は医師がCT画像上でこの作業を行うが、輪郭の作成には概ね3〜5時間を要する。また、この作業は医療知識だけでなく、ソフトウェアのスキルや経験も求められる。ひょうご粒子線メディカルサポートはこの作業をAIの活用により効率化・高速化することを目指している。


医師が納得する精度と機能性を提供するClara Imaging

ひょうご粒子線メディカルサポートは8年前からリアルタイムの放射線照射の実現に向けて取り組んできた。しかしAIの活用に関しては社内で前例がなかったため、社内でAIへの信頼が乏しく、既存の自動識別アルゴリズムを上回ることができるのか、また限られた予算で開発できるかなど、疑問視する声や課題が多くあった。そのような状況の中、出会ったのが「Clara Imaging」。

Clara Imagingは医用画像向けのAI開発プラットフォーム。アプリケーションフレームワークであるClara Train SDKには、臓器や膵臓ベースのセグメンテーション、分類、AI アノテーションのための2D/3Dの事前学習済みモデル15種類以上が含まれ、NGC catalog上で無料提供されている。医療機関はこれらを利用してAI支援アノテーションを行ったり、各機関が所有する独自のデータを使って転移学習や連合学習を行い、モデルをトレーニングすることができる。また、Clara Deploy SDKを利用することで、Clara Trainで構築されたモデルを推論用にエクスポートすることができる。既存の医用画像システムへのAIアプリケーションの統合を効率化し、PACS環境とのシームレスな通信が行えるため、臨床現場に容易に展開することが可能。

株式会社ひょうご粒子線メディカルサポート 支援企画課 主任の原田秀一氏は以下のように述べている。

「Clara Imaging が提供する事前学習済みモデルは臨床現場の医師が納得する高い精度を備えていることが採用の決め手になりました。さらに 3D で学習できるアーキテクチャや医療画像で広く使われている画像フォーマット、DICOM にも対応している利便性も高く評価しています。」


Clara Imagingで90%の精度を実現、実用化を視野に

ひょうご粒子線メディカルサポートは2019年からNVIDIAの支援のもと、Clara Imagingを活用し、放射線治療向けに単純CT画像上の腫瘍と周辺正常臓器輪郭を作成する各種AIモデルの作成、およびトレーニングを開始した。学習環境にはコンパクトなワークステーションながら、AIスーパーコンピューターの性能を持つNVIDIA DGX Stationを導入している。約100,000枚に及ぶCTデータを学習データとして、Clara Imagingで提供される事前学習済みモデルや既存のモデルのアーキテクチャをベースとし、肝臓、前立腺、頭部や胸部の臓器などを認識する独自のAIモデルを2年間で20種類以上開発した。

すでに単純CTのみで高い精度の輪郭を作成することに成功しているモデルも多く、例えば医師が前立腺をCT画像上で抽出する場合、30分程度を要すが、ひょうご粒子線メディカルサポートが開発したAIは、たった1分で90%という高い精度で認識することができる。また、複数の臓器を高速に同時抽出することも実現している。

医師と同レベルの高い精度を実現するAI

ひょうご粒子線メディカルサポートは今後、NVIDIAの協力のもと、各臓器のセグメンテーション モデルのさらなる精度向上を目指すほか、連携している各病院ではClara Imaging をベースに作成した自動セグメンテーション ソフトウェアが試行されているため、病院独自のデータをもとにモデルを再学習させ、病院に最適なオリジナルのモデルを作成することができる。

ひょうご粒子線メディカルサポートは最終的に各種AIモデルとNVIDIA GPUを搭載したワークステーションをAIシステムとして開発し、放射線治療のリアルタイム化ための重要なピースとして実用化を目指している。

※この記事はNVIDIAが公表したブログを元に生成している。

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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