大阪大学の石黒浩教授が代表取締役CEOをつとめる会社「AVITA株式会社」の設立の発表記者会見が都内でおこなわれた。「AVITA」(アビータ)とは、ラテン語やイタリア語で「生命」を意味する「VITA」に遠隔操作ロボットなどの「アバター」の「A」を加えた造語。
AVITAの主な事業としては、アバターの実用的な社会実装を推し進めること。このアバターは物理的に存在する遠隔操作ロボットに限らず、仮想空間のCGアバターを含めたもの。現実社会にある自分の身体に捕らわれず、いつでもどこでもアバターを通じて個々人が環境にあったキャラクターを持ち、空間や時間の制約を超えて活動できる社会の実現を目指すという。
石黒浩氏はアンドロイド開発の第一人者
石黒浩氏は、大阪大学大学院基礎工学研究科の教授であり、20年以上に渡って人と関わるロボットやアバターの研究開発に携わってきた。ロボスタでも人間そっくりな「ジェミノイド」や、性別や年齢を感じさせない「テレノイド」、理想の美人顔を追求した「ERICA」、車輪で移動する子どもアンドロイド「ibuki」、アンドロイドオペラ「オルタ3」など、数々のロボット作品達を紹介してきた。
また、石黒氏がプロジェクトマネージャーを務める「ムーンショット型研究開発制度」や、テーマ事業プロデューサーを務める「大阪・関西万博」でも、様々なプロジェクトや企業との連携によって新たな研究成果が生み出されることが期待されている。
石黒氏は会見で「アバター技術は人々の可能性を拡張する。アバターの社会実装を早期に実現するためには、大学や研究室の中で開発をおこなうだけでなく、社会や企業の中で実際におこなう実証実験を通して、課題や解くべき問題を新たにみつけて開発を進めていくことが必要であり、AVITAはそれを実践していくために設立した」と語った。
AVITAの3つのビジョン
AVITAはこれらを実現するために、3つの概念を提示した。ひとつは最も重要な「Virtualize the Real World」というビジョン。実世界の仮想化と多重化を意味する。
「人は既にSNSなどのサイバー空間では、働く自分、家庭の自分、友達との自分等、複数の自分で活動しているが、アバターを用いれば、実世界でもサイバー空間と同様に多様に拡張していくことができ、状況や目的に応じたいろいろな自分で自由に活動することができるようになる」とした。
そのためには更に2つ「Multiplex Your Personality」と「Interaction by Imagination」のビジョンを掲げた。
5社が合計5.2億円を出資
AVITAは、大阪ガス株式会社、株式会社サイバーエージェント、塩野義製薬株式会社、凸版印刷株式会社、株式会社フジキンが、合計5.2億円を出資し、このビジョンの実現を支援する。各社と事業連携を行いながら、アバターの社会実装に取り組むとしている。
また、創業メンバーとして、日本テレビで「アオイエリカ」を担当した西口昇吾氏(かつて大阪大学大学院では石黒研究室に所属)が取締役COOに就任した。
他には社外取締役として濱口秀司氏、東京大学発ベンチャーのフェアリーデバイセズの藤野真人氏と竹崎雄一郎氏が顧問として就く。
開発中の「バーチャルヒューマン」を紹介
この記者会見では、具体的な製品やサービスの紹介はなかったが、AVITAとしては「アバターサービス事業」に取り組み、まずはコストやメンテナンスの費用を抑えられるCGアバターによってビジネスを育成していく考えだ。
そのひとつとして研究開発中のリアルレンダリング可能な「バーチャルヒューマン」を紹介した(冒頭の画像:実際は動画)。
実際にはリアル系CGに限らず、キャラクター性の高いものや動物をモチーフにしたものなど、実装する環境に合わせたCGデザインのアバターを研究開発し、まずは市場を開拓していく。市場を開拓した上で、リアルのアバターロボットなどの開発にも着手していく考えだ。
各出資社からのコメントは下記のとおり(五十音順)
大阪ガス株式会社
当社は創業以来100年以上に渡り、エネルギー事業を中心に様々なサービスの提供や先進的な取り組みに挑戦してきました。今後、アバター等の新しい技術を活用し、様々なお客さまに対するコミュニケーションの充実化や新サービスの開発・提供を行い、暮らしとビジネスのお役に立つことで、お客さまの明るいミライの実現に貢献して参ります。
株式会社サイバーエージェント
当社は2017年4月より、石黒浩教授と共にロボットをはじめとする対話エージェントを活用した実証実験を様々なフィールドで実施してきました。テックカンパニーとして当社が取組む、各企業の課題解決とDX推進をする上で重要な要素である「最高の顧客体験の実現」をより強化すべく、今後CGアバターやロボットアバターをインターフェイスとした「実世界の接客への拡張」に取り組んでまいります。
塩野義製薬株式会社
当社は、中期経営計画において、従来の医療用医薬品を中心に提供する「創薬型製薬企業」から、ヘルスケアサービスを提供する「HaaS(Healthcare as a Service)企業」への変革を掲げています。アバター技術を活用した医療現場向けの新たなサービスを開発・提供することで、患者さまや社会の抱える困り事の解決に取り組んでまいります。
凸版印刷株式会社
アバターを活用した様々なサービス提供やデジタルツイン事業構想を推進してきました。AVITA社のアバターや対話関連技術、知財などのアセットと我々のアセットを掛け合わせながら、既存事業をより強固なものにしていくと共に、新事業開発及び新サービスの市場投入を図っていきたいと考えております。
株式会社フジキン
当社は特殊流体制御機器メーカーとして各種バルブの開発・製造・販売を行っていますが、人と関わるロボットやアバターにも利用できるアクチュエータの開発も手がけていきたいと考えております。また、病院等でディスプレイを活用したサービスも提供してきました。アバター技術を活用することで、人に寄り添うサービスを提供していきます。
記者会見場にはATRの浅見氏もかけつけ、祝辞を述べた。
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AVITA株式会社 公式ウェブサイト
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。