世界初!東芝と英国BT、ロンドンで量子暗号通信の商用メトロネットワークを構築
株式会社東芝、東芝デジタルソリューションズ株式会社と、英国を代表する電気通信およびネットワークプロバイダーであるBTは、量子コンピューティング時代における現在のネットワークセキュリティに対する脅威の高まりに備え、世界初の量子暗号通信の商用向けメトロネットワークを共同で構築し実証試験を開始することを2021年10月5日に発表した。
この新しいネットワークは、ロンドンのドックランズ、シティ・オブ・ロンドンおよび郊外に延びるM4(高速道路)幹線沿いのサイトを結び、量子鍵配送(Quantum Key Distribution:QKD)と耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography)の技術を用いた安全なデータ通信サービスを提供する。
(冒頭の画像:BT公式サイトより)
同実証システムの概要
量子ネットワークインフラの世界初の商用向けの実証環境となるこの新しいネットワークは、BTによって運用される。BTは、BTの子会社であるOpenreach社のOptical Spectrum Access Filter Connect(OSA FC)のプライベートファイバーネットワーク向けソリューションで各拠点をつなぎ、専用の高帯域エンドツーエンド暗号化リンクを含むさまざまな量子暗号通信サービスを提供する。今回の実証システムは、コアコンポーネントとアクセス系コンポーネントの両方を含む量子ネットワーク上で提供。BTの既存のネットワーク運用管理システムに統合され、東芝デジタルソリューションズは、量子鍵配送システムハードウェアと鍵管理システムソフトウェアを提供する。
「刈取り攻撃」のリスクとは?量子が次世代暗号化の鍵
量子コンピューターの実用化に向けた開発スピードの速さは、現在の標準の暗号化された鍵交換、認証、およびデジタル署名に対するリスクを増大させている。
量子コンピューターを使ったセキュリティ攻撃が5年以内に可能になり、10年以内に実際に発生する可能性が高いとする予測もあり、暗号化された通信の保護は、今日の差し迫った課題となりつつある。
これは、長期的に高いセキュリティを必要とするデータが、「将来盗聴することを目的に、鍵交換と暗号化されたデータを、今は保存のみし、量子コンピューターが利用可能になったときに解読する」といった「刈取り攻撃」のリスクにさらされる可能性があるためだ。
QKDに基づくセキュリティは、計算上または数学上の進歩に対しても安全な鍵交換を用いることで、量子コンピューターによる現在または将来の攻撃の影響を受けないものと考えられている。
BTと東芝、東芝デジタルソリューションズ(東芝グループ)は既に2つの商用サイト間でのポイントツーポイントの量子暗号通信リンクを構築しているが、複数のエンドポイントを備えた完全な量子暗号通信メトロネットワーク環境を展開するには、統合と管理のための新しいアプローチが必要だ。
今回の新しいネットワークは、英国ブリストルを拠点とするNational Composites Centre(NCC)およびCenter for Modeling and Simulation(CFMS)向けにBTと東芝グループが構築したポイントツーポイントソリューションを拡張したものであり、大都市圏の複数の顧客にサービスを提供することが可能となる。ロンドンは、金融機関や法務機関など、データの機密性が非常に高く、かつ最大限のセキュリティを必要とする顧客が密集しており、今般の実証試験を展開する場所として理想的な環境にある。BTと東芝グループの初期の目的は、サイト間で、データベースのバックアップなどの機密性の高い通信を行う企業顧客に実証環境を提供し、暗号化されたリンクや「量子鍵サービス」などを将来提供する可能性を含め、そのようなネットワークの商業的ニーズと実現可能性を見極めることだ。
東芝グループは2020年10月、ケンブリッジを製造拠点とするQKD製品を発表しており、これは、市販のファイバーQKDシステムの中で最も高い鍵配送レート(300kbps)と最長の鍵配送距離を実現している。革新的な多重化機能により、データと量子鍵を同じファイバーで送信できるため、コストがかかる量子鍵配送専用のインフラの構築が不要。また、ネットワーク全体でエンドツーエンドの保護を可能にするネットワーク鍵配信および管理ソフトウェアも提供する。
今回の協業における、BTと東芝グループ、それぞれの代表からのコメントは以下の通りだ。
BT CTO ハワード・ワトソン氏
BTと東芝グループは、量子暗号通信ネットワークの開発において世界をリードしています。ロンドンで世界初の商用運用可能な量子暗号通信メトロネットワークを構築することにより、このコラボレーションを次のレベルに引き上げることに大きな期待を寄せています。安全、堅牢で信頼できるデータ転送は、世界中のお客様にとってますます重要になっています。量子コンピューティングの新時代の幕開けを迎えるにあたり、我々の量子R&Dプログラムが世界のネットワークをより安全にする役割を果たしていることを誇りに思います。
東芝 執行役上席常務兼最高デジタル責任者、東芝デジタルソリューションズ 取締役社長 島田太郎氏
安全で信頼できるネットワークを提供してきた長い伝統を持つBTと協働できることを大変嬉しく思います。BTとのパートナーシップが、量子コンピューターからデータを守る量子暗号通信ネットワークサービスを可能とするでしょう。このネットワークは、英国さらには世界へ向けた商用QKDサービスへの道を開きます。
QKDサービスに関する実地検証実績
商用QKDサービスにむけた、各社のこれまでの検証実績は以下の通りだ。
BT | QKDのネットワーク、技術およびアプリケーションの開発において業界をリードしてきたBTは、2017年には、安全な光通信ネットワークに統合されたQKDの最初の実地検証を実施。2018年から2019年には、当時の英国で最も長い距離となった、ケンブリッジとイプスウィッチのアダストラルパークR&Dキャンパスとの間の実ネットワークで2回目のQKD実証を行なった。また、昨年はNCCと共同で、10Gイーサネットを使ったQKDの顧客実証を実施した。 |
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東芝グループ | 昨年BTと協力して、NCCとCFMSの間でデータを送信する英国初の産業用量子暗号通信ネットワークの構築を実現したほか、ケンブリッジ研究所での量子技術の広範な研究を通じて数々のマイルストーンを達成してきた。最近では2021年6月に、先駆的なデュアルバンド安定化技術によって600kmを超える光ファイバー上で量子鍵配送を達成した長距離ツインフィールドQKDシステムの実証を発表。メトロネットワークの既存のインフラを使用できる多重化用QKDと、従来型およびツインフィールド技術を搭載する長距離用QKDの組み合わせにより、英国で商業的に利用可能な量子暗号通信ネットワークへの道が開かれる。 |