【速報】豆腐もつかめるロボットハンド、天ぷら盛り付け/自律移動式下膳ロボット 立命館大学が飲食業界の自動化研究を発表

立命館大学は、理工学部 川村貞夫教授が研究責任者を務める研究プロジェクト「CPS構築のためのセンサリッチ柔軟エンドエフェクタシステムの開発と実用化」について、報道関係者向けに説明会を開催した。


主に飲食業界に役立つと思われる「モノをつかむ」(把持)作業に役立つ技術研究で、デモ動画ではロボットハンドで、大福、天ぷら、たこの足、豆腐、うずらの卵など、様々の形状や硬さのものを把持する様子を公開して基礎研究技術を発表した。これはロボットによる盛り付け作業の自動化に繋がる技術だ。

大福、はんぺん、豆腐など、次々につかむロボットハンドの動画を公開する立命館大学 理工学部 川村貞夫教授

ベルトコンベアのトレイからお皿に天ぷらを盛り付けるロボット


また、宴会後の下膳作業を移動式ロボットが片付ける様子なども披露した。

テーブルに置きっぱなしの食器類を次々に片付けていく自律移動型の下膳ロボット

なお、これらはROS2環境で開発されていて、研究結果の一部は既にホームページ(https://sip-sses.net/)等で一般公開が開始されている。

https://sip-sses.net/ 等で一般公開を9月から開始している

■天ぷら盛り付け実験

■モバイルマニュピレータによる食器自動回収

■食洗器 最新研究 業務用無人食洗機ロボット

なお、運動知能研究室の発表「食器洗浄と天ぷら盛り付け自動化のためのロボットシステム」がFOOMA2021のAP賞グランプリを受賞した。


食品産業・飲食業界でのロボット活用の課題

川村教授らが携わるこのプロジェクトは、内閣府が中心となり関係省庁・機関が連携して推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤」の一部として実施されている。


解決すべき課題は「労働力不足」。既に工場ではロボットの導入が盛んに行われ、自動化の推進と労働力不足への対策が進められているが、食品産業・飲食業界でのロボット活用はこれまで難しいとされてきた。その最も大きな理由は「人の手のようにきめ細やかで柔軟な作業をつかむ」ことがロボットでは困難だったこと。

人間は持つ対象物によって、どこを持つべきか、どのくらいの強さで把持すべきかを瞬時に判断できるが、ロボットではそれは難しいとされてきた


「センサリッチ柔軟エンドエフェクタシステム」(SSES)はこの課題を解決し、飲食業界の自動化を進める一端となることが期待される。川村教授は「この技術は将来、メーカーやSIerによって飲食業界等のロボットに活用され、自動化による労働力不足の解決に貢献できればうれしい」と語る。



サイバー空間とフィジカル空間のつながりを容易に

このプロジェクトでは、C空間(サイバー空間)とP空間(フィジカル空間)のつながりを容易にするためのシステム開発や、機構的に柔軟性をもつエンドエフェクタ(ロボットアームの先端につけるハンド部分:グリッパ等)などの開発に注力している。
前者はいわゆるデジタルツインで、リアル(フィジカル)な環境の情報をデジタル空間(サイバー空間)に送り、最適な把持や作業をリアル空間にフィードバックする(返す)システムだ。これによって、従来の単一作業が得意なロボットアームに対して、人間に近い「見て・判断して・加減して」つかむ、作業することが可能になる。



なんでもつかめるロボットハンドの研究

後者はロボットハンドで、大福やコロッケ、豆腐など、様々な形状・柔らかさのものを把持する技術だ。考え方で面白いのは「機能と知能に分けて考えた場合、あまり知能に負担を掛けないことが大切」(川村教授)ということ。機能で実現できるものはやろう、言い換えれば必要以上に知能に依存しないこと、と説明する。

大福をつかむロボットハンド。いろいろな大きさ、硬さ、壊れやすいものも次々とつかんでいく

■飲食業界向けロボットハンドのデモ動画(報道発表会にて) 立命館大学提供

川村教授は「ディープラーニングによるモノの判別を必要とする把持技術は、今回のようなケースでは賢い選択ではないと考えている」と続ける。
例えば、AIと画像認識の技術によって、つかむモノに合わせて把持する技術を開発する方法もあるが、それよりもなんでもつかめるハンドができないか、まずはそれに挑戦するという考え方だ。
「モノを判別したり、特性に合わせた把持を工夫しなくても持てるハードウェアがあれば、判断時間も不要になって作業時間も短縮できる。ロボットによる自動化で作業時間が早いということはとても重要なこと。とはいえ、そうは言ってもハンドのハード技術で掴めないものは出てくるので、そのときはAIを投入して対応していく」(川村教授)と語った。

ロボットハンドの構成(試作機)。グリッパの下は金属の薄い板で構成されるが、それ以外は柔らかい伸縮する糸が複数、横に張られていて挟み込むしくみだ。把持する際の上下水平の加減速の運動にも対応できて落とさない(把持するものの画像等による判別はしない)

ロボットハンド(エンドエフェクタ)を柔軟化することで、環境や対象物による違いを柔軟性によって吸収し、ロボットと対象物間に大きな力の発生を避けることが第一の作業だ。

そして、画像では得られない粘弾性や摩擦などの情報を、逆に積極的に対象物や環境に機械的に接触することで取得する。「力/接触の情報を加えたAI/IoT技術」は、従来の視聴覚情報に力/触覚情報を加え、AI技術を活用してエッジコンピューティングによる認識やクラウドでの認識を行うことに繋げることで「認識問題」を解決しようという試みだ。


多数の企業/団体に協力を呼びかけ


このプロジェクトでは、前述のように自律移動型ロボットを使って、全自動での下膳システムの実用化にも取り組んできた。下記の動画ではAlexaを通じて音声コマンドにも対応している。

■モバイルマニュピレータを使った下膳作業(Node-REDを使ってセンサデータの収集)

川村教授は「ロボット/AI/IoTを統合したシステムによって、ハンドリングを伴い労働生産性の低い分野への自動化解決法を提案したい」とし、「これをニーズ駆動基礎研究と位置づけ、オープンイノベーション創出のために多数の企業との連携協力体制で続けていきたい」と語った。

2021年9月より、広く多くの現場で利用できるよう、技術のオープン化を開始している

研究を開始して3年半(全期間は5年)。このタイミングでプレス説明会を行った意図について川村教授は「この研究を事業化として本格的に実現するためには、より多くの実施者や協力者が必要であり、これらの技術が必要な多くの日本企業に広く展開されることが重要」とし、「協力支援企業/法人。推進協力企業/法人など、この技術や実用化に興味のある方は事務局まで連絡をください」と呼びかけた。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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