空飛ぶバイク「XTURISMO」ついに発売 実用型ホバーバイクが活用されるシーンとは? 操縦免許は? 未来のエアモビリティ社会へ

速報でお伝えしたとおり、日本の企業 A.L.I.Technologiesは、世界初の「空飛ぶバイク」(エアモビリティ)、実用型ホバーバイクの「XTURISMO Limited Edition」の予約受付を10月26日より開始した。価格は7,770万円(税込)。保険料と操縦講習料込み。
出荷予定は2022年前半で、世界限定200台の予定。

10月26日から販売予約の受付が開始された「XTURISMO Limited Edition」。カラーリングはイメージ

ボディには腐食しないCFRPを採用しつつ、御幅な軽量化をはかり、駆動エネルギーを極小化した。
駆動系は戸田レーシング、内燃機関はモーターサイクル分野でノウハウを持つ川崎重工グループ、カワサキモータースが協力している。モーションコントロールユニットはルネサスエレクトロニクスを採用、エッジコンピューティングには「NVIDIA Jetson AGX Xavier」を搭載したエアモビリティ向けユニットを新規に開発した。

前方からのビュー

いよいよ、日本のメーカーによる「空飛ぶバイク」が発売されることになったわけだが、多くの読者は「空飛ぶバイクはどこでどのような用途で利用されるのか」「乗るためにはどのような免許が必要なのか」といった実用性について疑問を持っていると思う。
現時点でのその辺りの動向をこの記事では解説していきたい。

前方やや下よりのビュー

後方やや斜めよりのビュー

後方からのビュー


富士スピードウェイで初のデモ飛行を公開

それに伴い、デモ飛行を報道関係者に向けて「発表会」が開催され、富士スピードウェイで10月26日に公開した。「XTURISMO Limited Edition」は、グランドスタンド前を轟音を響かせて空中に浮き上がり、ゆっくりと八の字を描きながら旋回した(関連記事「【速報/動画】空飛ぶバイク、ついに国内でデモ飛行を公開 富士スピードウェイでホバーバイクXTURISMOを初披露 予約開始 価格は・・」)。関連記事ではデモ飛行のフル動画も掲載している。

発表会に登壇したドローンファンド創業者の千葉氏は「本日「XTURISMO」による有人飛行が披露され、みなさんは今、歴史的瞬間に立ち会いました。なによりも今日から販売開始です。開発チームにはおめでとうと言いたい」と語った。

ドローンファンド創業者 代表パートナー 千葉功太郎氏


実用型ホバーバイクの「XTURISMO Limited Edition」とは

「XTURISMO Limited Edition」(エックスツーリズモ)は、大型のプロペラ2基と、小型のプロペラ4基で飛行するエアモビリティだ。エンジンはガソリンエンジンと電動モーターのハイブリッド。航続時間は最大40分で最高速度は100km/hとされている。

「XTURISMO Limited Edition」と株式会社A.L.I.Technologiesの代表取締役社長 片野大輔氏

重量は約300kg、サイズは全長:3.7m、全幅:2.4m、全高:1.5mで一人乗りの設計となっている。

「XTURISMO Limited Edition」のコクピット

A.L.I.Technologiesは、エアモビリティのソリューション開発企業で、AIやブロックチェーン、クラウドGPUなどソフトウェア開発も手がけている。そのため、エアモビリティ用の操縦関連プログラムや管制システムの開発も進めている。
ちなみに操縦関連プログラムでは、リアルレンダリング技術を活用した「空の道」映像を発表会で公開した。

クラウドレンダリングによる「空の道」の例。パイロットおよび機体カメラ(受信側)サイドバイサイド

同社は、安全な社会実装に向けたアプリケーションや運航管理を行う運航管理システム「C.O.S.M.O.S.」の開発にも積極的に取り組むとしている。「C.O.S.M.O.S.」はエアモビリティ及びドローンなどが多数、飛行・走行する場合に、空の道を構築し安全に運航するためのシステム。ドローンに関するNEDOの実証試験等でも活用されている。


レジャーや救助活動に活用

この発表会では、「XTURISMO」を開発したA.L.I.Technologiesの代表取締役社長 片野大輔氏が登壇し、XTURISMOをはじめとしたエアモビリティが今後のライフスタイルの一部となることを示唆した。また、ホバーバイクの用途として、サーキット飛行や山間部での活用、海上でのパトロールや救助活動、災害時での利用等が想定されていることを語った。


片野氏のコメントからは、最終的には公道を飛行するホバーバイクの姿をイメージしているものの、安全性や法整備の問題から、まずはサーキット飛行やジェットスキーなどの海上スポーツとしてのモビリティから実用化していく様子だ。そして、社会貢献としては何よりも災害関連での活用に期待を寄せる。


具体的には、この日登壇したドローン議連の山本氏のコメントに一例が含まれている。山本氏は「ホバーバイクについては人命救助での活用に期待している。日本は海に囲まれ、網の目のように川が走っている。災害が多く水難者が絶えない。海水浴場で流されるなど水難者が発声したらすぐにホバーバイクが駆けつけ、水難者に浮き輪や救命具を投げる・・それだけでもどれだけの水難者の命が救われるだろう、と考えている。山や海での災害や遭難・水難での活用に期待している」と語った。

自由民主党 無人航空機普及・利用推進議員連盟(ドローン議連) 副会長 山本拓氏

自民党の政調会長 高市早苗氏からの祝辞も読み上げられた。高市氏は大型バイクの愛好者で、エアモビリティ産業とホバーバイクについての期待を込めて、空の移動革命に向けた官民協議会や次世代航空モビリティ企画室を設置したことを告げた。


実証実験の環境を山梨県が提供へ

また、この日、A.L.I.Technologiesと山梨県は「リニアやまなしビジョン」に基づき、新たなモビリティとして移動手段、災害時を含めた幅広い分野での活用が期待されるエアモビリティの社会実装と発展に向けて共同で取り組むことも発表した。
具体的にどのような協力や実証実験を行うかはこれから協議していくということで、現時点では決まっていない。

株式会社 A.L.I.Technologies代表取締役社長 片野大輔氏と山梨県知事 長崎幸太郎氏(右)による調印式

ただ、山梨県知事は「まずは山間部での使用に期待している」として、「山梨県は大雪に見舞われて交通が途絶した経験がある。台風で道路が寸断されることもある。そういう事態ではエアモビリティがすぐにでね役立つと考えている。他には、山間部で鹿の狩猟を行いジビエの鹿肉を得る際に、鹿を運べないために95%は山間に埋めている。命を奪って得るのだからもっと有効にするためにもエアモビリティは利用できるのではないかと感じている」と語った。

「XTURISMO」に乗り、撮影に応じる長崎幸太郎知事




「XTURISMO」に必要な免許、動向、将来のエアモビリティ社会について聞く

今回発表されたホバーバイク「XTURISMO」は新しい乗り物のため、運転するための免許は今はまだ設定されていない。A.L.I.Technologiesの取締役 Air Mobility本部長 三浦和夫氏に聞いた。

編集部

「XTURISMO」を操縦するにはどのような免許が必要になる見込みなのでしょうか

三浦氏

今の時点では免許や申請は必要ないのですが、許可がないところでは利用できません。レギュレーション上、指定された飛べるエリアを飛行しながら、実績と安全性を積み上げていくことになります。先ほど調印式が行われた山梨県では、そのようなエリアを限定して活用しながら、徐々にエリヤや用途を広げて、次のステップに移行していくという流れになるでしょう。

編集部

法整備がこれからという点では日本は遅れているのでしょうか。それとも世界の事情も同様なのでしょうか?

三浦氏

私の知る限りでは海外でも同様だと思います。というのも、ホバーバイクとして安定したレベルで飛行できる製品は「XTURISMO」のほかにはまだないと思っています。そのため、海外でもレギュレーションはこれから、今はまだ定まっていない段階でしょう。

編集部

航空会社や自動車メーカーが、将来の空飛ぶクルマが都市部の交通手段として活用するイメージ動画等を公開していますが、ALIも同様に都市部を飛ぶモビリティの実現がひとつのゴールとなっているのでしょうか

三浦氏

「XTURISMO」のモビリティは、「空を飛ぶ」というよりはむしろ、レギュレーションを守りながらある高さで走って楽しむ、ある高さで走って活用するもの、という表現が近いと思っています。地上数mを走るということだけでも新しいエクスペリエンスを感じて頂けると思います。その上で、もっと高いところを飛びたいというニーズがあれば、ゴーグルをつけてARを使って空の道路や標識などを表示しながら安全に飛行する次のステップへの可能性を考えていくものだと思います。ドローンもこの先どんどんと増えていけば、空の管制が必要になるでしょう。空の管制は必ず必要になりますし、誰かがやることになるでしょう。
技術は後ろには進みません。将来のエアモビリティ社会に向けて、これからルール作りが議論されていくでしょう。



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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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