ソフトバンクは2021年11月2日、次世代電池に関する「3つの新技術の実証」に成功したことを発表した。これは次世代の高密度バッテリーを開発するためには大きなステップとなりそうだ。
また、それに伴い、報道関係者向け説明会と「ソフトバンク次世代電池Lab.」(ラボ)の見学会を現地で開催、次世代電池に関するビジョンと、内部施設の一部を公開した。
次世代電池に関する「3つの新技術の実証」に成功
まずソフトバンクが発表した次世代電池に関する「3つの新技術の実証」に成功について解説しよう。
現行リチウムイオン電池に代わる新しい電池の素材の開発
ひとつは「(1)高質量エネルギー密度に向けた全固体電池用正極材料の開発」。
現状の電池の主力であるリチウムイオン電池に代わる新しい電池の素材の開発に成功した。リチウムイオン電池は大型になるほど発火の危険性があるが、新素材の全固体電池はその危険性が低く、高容量で軽くなる可能性が高い。
AIで次世代電池の素材の特定を加速
ふたつめは「(2)マテリアルズ・インフォマティクス(MI)による有機正極材料の性能モデルの開発」に成功したこと。
MIとは材料開発をAIなどの機械学習を使って効率を高める取り組みのこと。次世代電池の素材となる可能性を持つ「有機化合物の総数」は10の60乗個ほど存在すると言われていて、その組合せが膨大となる。今回の発表は、電池材料に適する膨大な組合せから有効な材料を予め予測するモデルの開発に成功した(創薬分野で有効なタンパク質の組合せをAIで予測するしくみに似ている)。機械学習はニューラルネットワークのうちの「線形モデル」を活用している。
素材の特定はこれからだが、このモデルが開発されたことで、素材の特定が短時間になり、今後の研究が加速度的に進む可能性がある(素材の候補は既に算出できはじめている)。
550Wh/kgの次世代リチウム金属電池の実現の可能性
3つめは「(3)質量エネルギー密度520Wh/kgセルの試作実証」に成功したこと。現在主流のリチウム金属電池において、密度が高く、充電量が大きい電池を開発した。これにより、550Wh/kgの次世代電池の実現が見えてきた。
次世代電池はこう進化する
ソフトバンクは下記の図のように、次世代電池の開発が推移していくと考えている。左「現行300Wh/kg」が現行の電池で、約350Wh/kgまでの容量のものだ。次のステップが中央の「次世代400~500Wh/kg」で550Wh/kgまでのフェーズへの進化を想定している。上記(3)の成功と、負極をリチウム金属に変える道筋が見えたことで550Wh/kgのフェーズに移行できる見込みが立った。
一番右の「次世代600~1000Wh/kg」が更に次のフェーズとなる。正極に「有機系や空気等」を、負極にリチウム金属を使用した全固体電池だ。(1)によって600Wh/kgが達成できる見込みが立ち、(2)によって正極材料の素材の探索が加速化する見込みが立った。
なお、今回の発表はいずれも共同研究で、(1)が住友化学と東京工業大学(菅野了次教授)、(2)が慶應義塾大学(緒明佑哉准教授)、(3)がEnpower Greentech Inc.と共に達成した成果となる。
また、報道向け発表会では4つめの発表があり、「軽量集電体 次世代樹脂箔の開発」も発表された。
なぜ次世代電池が必要なのか
以前よりロボスタでも報じているように、ソフトバンクは成層圏を飛ぶ基地局「HAPS」の開発と実現に積極的だ。しかし、長期間飛行が求められる「HAPS」には超大容量・超軽量の電池が求められていて、それを実現するためには、先の図で説明したように今までの電池の延長から逸脱した電池技術の進化が求められる。
また、ドローン、空飛ぶクルマ、空飛ぶタクシー、ロボットなど、今後登場が期待されているさまざまなデバイスも、新世代電池が求められるとしている。
多くのエネルギーを溜める「高密度化」と充電回数の増大「長寿命化」が鍵となる。また、現状のリチウム電池は大型化に伴い、発火の危険性が増すため、今後は素材の切り替えも必要となる。
エスペックと協業、「ソフトバンク次世代電池Lab.」を2021年6月に設立
電池の研究・開発は危険度が高いものでもある。そこでソフトバンクは、電池の検証や耐久設備において国内で最も充実した設備を持つエスペックと協業し、「ソフトバンク次世代電池Lab.」を2021年6月、宇都宮市に設立した。質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く、軽量で安全な次世代電池の研究と開発、早期実用化を推進するための施設だ。
次世代電池を含め、世界中のさまざまな電池の評価・検証も行うことができる施設となっている。
浜野寿之氏
発表会当日の見学会では「ソフトバンク次世代電池Lab.」のほか、エスペックの広大な敷地「バッテリー安全認証センター」の一部の案内も実施され、その巨大なバッテリー評価施設が公開された。
現在のスマートフォンなどの小型のデバイスから、ドローンやハイブリッドや電気自動車など、さまざまなサイズや容量の電池を検証するチャンバー機器等が備えられている。もちろん発火や爆発を起こすケースも頻繁にあり、それらの事態に備えて安全に検証できる施設となっている。
ソフトバンクの西山氏は「ソフトバンクは次世代電池の開発を積極的な行っているが、バッテリーメーカーやベンダーになろうとしているわけではない。これらの技術を自ら持つことで将来のバッテリーやデバイス開発に優位に進めたい。また、様々なメーカーや企業、団体との協業が生まれることで、新しい技術の開発が促進される可能性を期待している」と語った。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。