NVIDIAは「GTC 2021」を開催し、2021年11月9日に創業者兼CEOのジェンスン・フアン(JENSEN HUANG)氏の基調講演がおこなわれた。
フアン氏は「AIがあらゆる産業に浸透し、クラウドからエッジにまで広がっている」と語り、300万人におよぶグラフィックス、医療・科学分野、ロボティクスなどのAI開発者に対し、150のアクセラレーションライブラリを提供していて、今では100兆ドルもの産業にサービス提供するに至っている」と続けた。
基調講演で紹介された新技術群
今回の新たな発表のキーワードは「Quantum-2とBlueField3の連携」「DOCA 1.2による分散ファイアウォールの実現」「侵入者をディープラーニングで検出するMorpheus(モーフィアス)」「大規模な言語モデルをトレーニングするNemo Megatron(ニモ メガトロン)」「DNNフレームワークにグラフを投影する技術」「物理情報に基づいた機械学習モデルの構築を可能にするNVIDIA Modulus(モジュラス)」「量子コンピューティングの研究を加速するcuQuantum(クー クアンタム)」「NumPyを加速するcuNumeric」(クー ニューメリック)などを発表した。
物理的なロボットと仮想世界のロボットが共存
印象に残ったのはまず「AIの次の波は企業と産業におけるエッジであり、AIによる実際の環境での自動化」という言葉だ。これはスマートシティ向け「Metropolis」、医療向け「Clara(Holoscan)」、ロボティクスシュミレータ「Isaac」、自動運転「DRIVE」など、身近なエッジ分野で、そして実際に動く環境でのAI活用が加速することを意味する。
エッジコンピューティングでは、クラウドとは大きく異なり、センサーからのデータ、画像や音声のストリーミングデータ、グラフィクス、会話などの多くのデータをAIが判別したり推論をリアルタイムで実行する必要がある。
NVIDIA Unified Computing Framework(UCF)はロボティクスアプリケーション向けに構築されていて、例えば医療の「Clara Holoscan」ではソフトウェア・デファインド(ハードウエアを仮想化で抽象化する技術)の医療機器プラットフォームとなる。
ロボティクス関連では、10兆ドル規模のロジスティクス業界向けの「ReOpt」をあげた。また、これに関連して今後、更に注目されるシステムが「Omniverse」と「Maxine」だ。
■Optimize Route Planning with NVIDIA ReOpt
デジタルツインを構築する「Omniverse」
「Omniverse」はこれから加速することが期待されている「メタバース」「デジタルツイン」を構築するためのアーキテクチュア。
「Omniverse」はひとことで言うと、仮想世界を構築するシミュレーションエンジンとそのプラットフォームだ。
フアン氏は「ロボットや自動搬送車両だけでなく、工場や倉庫、産業プラントが、次々とシミュレーションのための仮想世界として構築されるようになる」と語る。「デジタルツイン」「メタバース」「ミラーワールド」と呼び方は様々だが、いずれも同様の未来を示しているだろう。
そして、デジタルツインの仮想世界は都市全体に広がっていく。なんのために?
BMWが「未来の工場」を加速
Siemens Energy社が廃熱タービンの腐食や故障の予測を工場全体のデジタルツインを構築しておこなっている例を紹介した。
また、BMWは前回の「GTC 2021」で、ローゲンスベルク工場をOmniverseデジタルツイン工場を導入していることを紹介したが、現在では3つの工場をデジタルツイン化、総面積は1000万平米に拡大したという。
BWMは1分に1台の割合で自動車を生産していて、1台あたりの部品点数の平均は25,000個、工場には常に500万の部品がある、という。
ロボットたちはIsaac Gymで新しいスキルを学んでいる。
デジタルツインの仮想世界では、このようなロボットたちのトレーニングや配置、人員や生産ラインの変更など、膨大なケースをシミュレーションして、最適な状況を予測した上で、実世界にフイードバックする。これが最大の利点だ。
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Ericssonは街をデジタルツイン化、通信環境や電波強度等を正確に見える化
また、Ericssonは、都市全体をデジタルツイン化し、5G基地局による電波と通信状況をシミュレーション、継続的な最適化をおこなっているという。
Ericssonは今後5年間で1500万の5G基地局やマイクロセルと世界中で展開していく予定だという。そのためにOmniverseを導入して都市をデジタルツイン化、建物や植林まで仮想空間に再現し、最適なカバレッジとネットワークのパフォーマンスのためにどこに基地局やアンテナを設置するべきかをシミュレーションしている。
レイトレーシング技術を活用し、電波の伝搬や反射を正確に可視化、ビームフォーミングによる通信効果や電波強度、スループット等もカラーで再現している
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そしてフアン氏は”ワン・モア・アナウンス”として「気候変動をシミュレーションし、将来を予測するデジタルツインを構築する」ことを発表している。それは「Earth two」、地球全体のデジタルツイン。Modulusが作成したAI物理モデルをOmniverseで100万倍の高速性で実行するという。
対話型AIアバター「Omniverse Avatar」と「New Maxine」
「Maxine」(New Maxine)は、会話は言語認識/発話ソリューションだったが、今回はアバタープラットフォームとして紹介された。コンピュータビジョン、RivaスピーチAI、グラフィクスによるアバターアニメーションなどを組み合わせることで、リアルタイムの「対話型AIロボット」としてそこに存在させる。
実用例として掲げたのが、Maxineを活用した会話型キオスク「Tokkio」(トッキオ:Talking Kioskの略から)。スマート店舗に導入が進むであろう無人のオーダーシステムとして「対話型AIロボット」のアバターが対応する。
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「Maxine」は自動車のアシスタントとして活用した場合は「DRIVE」と連携した「DRIVE Concierge(ドライブ コンシェルジュ)」として構築できることを示唆した。
「トイ・ジェンスン」に難しい質問を投げかけるデモ
また、基調講演では「Omniverse Avatar」で自身のキャラクターをアバター化する「Toy-Me」を紹介。「トイ・ジェンスン」が登場し、3人のエンジニアがシビアな質問を浴びせるデモが紹介されている。
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「Maxine」の多言語対応、ビデオ会議室ステムでの応用
基調講演の中で、将来的には同様にOmniverse Avatarと、IsaacやClara Holoscanが連携していくだろう、とフアン氏は語っている。
また、Omniverse Avatarはアニメのようなキャラクターだけではなくリアルな人物としても構築できる。ユースケースの一例として「ビデオ会議システム」でのAIアバターの導入があげられる。基調講演では、「Maxine」の言語翻訳機能を使って、多言語にリアルタイム翻訳したり、周囲の雑音をカットする様子などが紹介されている。
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CEOのジェンスン・フアン氏の基調講演はアーカイブ視聴できる
また、CEOのジェンスン・フアン氏の基調講演(日本語字幕可)は11月9日にストリーミング配信され、現在アーカイブで視聴ができる。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。