スタジアムの来場者をロボットがお出迎え、ギャラリーを自律移動ロボットが除菌作業・効果を確認 【ARX レポート(2)】

愛知県が主催するサービスロボット社会実装推進事業「あいちロボットトランスフォーメーション(ARX)」がはじまった。愛知県内の7施設で順次行われるが、その第一弾が11月3日、豊田スタジアムで行われ、10種類のロボットが実証実験や展示に参加した。

AIによる自動警備機能を備えた自律移動のセキュリティロボット「cocobo」(セコム)

この日はJリーグの「名古屋グランパスvs柏レイソル」戦が行われ、多くのサポーターが詰めかけていた。

また、屋外のイベント会場では世界ラリー選手権(WRC)「ラリージャパン2021」関連イベント(ラリージャパン自体はコロナ禍のため中止)が開催され、モータースポーツファンも来場する中、ARC展示ブースなどが設けられ、愛知県が推進しているサービスロボットの紹介を多くの人に紹介することができた。

一方、豊田スタジアムの中では、警備、消毒、配膳、商品PR、マーケティング情報収集など、様々な用途向けに開発されたロボット達の実証実験をがおこなわれていた。今回は豊田スタジアムの入場ゲートで来場者を迎える自律移動型の案内ロボット(THK)と、ギャラリーエリアを除菌・脱臭する自律走行ロボット(ナ・デックス)の様子をレポート。

ギャラリーを除菌・脱臭するロボット(ナ・デックス)


スタジアム来場者を画面付き案内ロボットがお出迎え (THK)

たくさんのJリーグファンがスタジアムに入る入場ゲートに、THKの「案内ロボット」が2機種設置され、稼働していた。子ども連れの来場者も多く、入場ゲートのすぐ先ということもあって、動くロボティクスソリューションに足を止めて見ていく人も多く見られた。

THK株式会社の大型サイネージ搭載の自律搬送ロボット。こちらのロボットはカメラで撮影した画像をAIが解析して属性を推測してマーケティングデータとして集計できる

また、会場を訪れた愛知県知事もこの案内ロボットを体験した。

同ロボットで別タイプのバージョンも展示。こちらはZoomのビデオ会議機能を活用して、遠隔のオペレータと会話ができる機能も備える


メカナムホイールで好きな方向に移動できる

この案内ロボットたちは、自律型の走行台車(自律搬送ロボット)とディスプレイを組み合わせたもの。2機種とも走行台車部「SEED-Mover」は共通で、メカナムホイールを備え、全方向に移動したり、360度旋回できるのが特徴となっている。自律移動と遠隔操作による移動が可能だ。


上部に取り付けられたデジタルサイネージは広告宣伝の動画や画像、音声などを流すことができる。移動台車との組合せによって、例えば人が集まっている場所に移動して「キャンペーン情報」や「ガイドマップ情報」などを提供することができる。


デジタル広告や情報を配信することに加えて、検温モニターを備えたり、カメラ映像からの情報収集を行うことができる。例えば、何人がロボットの前を通過したのかの人数カウントや、何人がデジタル広告に興味を示したかをカウントすることができる。更には来場者の属性をAIが解析、性別や年齢層などに合わせて最適な広告を表示したり、笑っている度合いや表示したコンテンツへの興味・関心度などを判定して、より有効な広告を表示するなどの機能もある。また、それらマーケティング情報の収集も行うことができる。



遠隔のオペレータが会話を通じて案内

もう一台の機種は、ディスプレイにオペレータが表示され、会話することができる。当日はソフトウェアにZoomを使っていて、まさにZoomでの会議のように、遠隔からオペレータがロボットを通じて、来場者からの質問を受けたり、会話するなどの実証実験をおこなった。


このロボットは身長を変更することができる。その利点は、オペレータの顔が表示される高さを低くして、子どもと会話しやすいように変更できること。面白い取り組みだ。



子どもや家族連れに特に好評

THKの担当者に来場者の反応を聞くと「移動しながらデジタルサイネージを流せるので、とても注目されています。今日はJリーグの試合会場ということで、昨年の大名古屋ビルヂングの実証実験とは、また違ったタイプの来場者の方々で、特にお子さんがたくさん近付いてきてくれて、笑顔で手を振ってくれたりと反応がよくて、私達もうれしいです」と語った。


また、広告の分析については「例えば、40歳代男性が画面を観たときにゴルフの宣伝を出したら笑顔になった、とか、20歳代女性の場合は化粧品の方が関心を示した、などのCMの効果測定ができるようになります」とした。

■ 動画 豊田スタジアムの来場者を「案内ロボット」(THK)がお出迎え



ギャラリーエリアをロボットが除菌・脱臭作業(ナ・デックス)

スタジアム内には「スタジアムギャラリー」がある。豊田スタジアムや名古屋グランパスのサッカーに関する記録やグッズ、資料が飾られている展示施設だ。店舗がクローズした後、ロボットによる除菌作業の実証実験がおこなわれた。


使われたロボットはナ・デックスの「TAKUMI CLEAN」(タクミクリン)。オゾンの力で施設の除菌・脱臭をする自走式ロボット。空間のオゾン濃度を高めることで、各種ウイルスの不活性化をおこなう。約6時間程度の連続稼働が可能。


マップとルートを作成すれば、あとはSLAM技術を活用し、障害物を検知したり、周囲の状況を確認しながら、AIを駆使して自律走行をおこなう。



夜間や休業日などの無人環境下でも自走噴霧を行うことができるため、人体に影響を与えることなく除菌作業が行えるという特徴がある。


約80%の除菌効果を確認

実証実験では、前日の夕方に菌の状況を採取しておき、その日の夜中に除菌作業を自律走行で実行、朝に菌の状況を確認すると約80%の菌の不活性化が確認できたという。


ギャラリーの広さは約80平米弱、20分間程度の除菌作業で、空間や壁、床、施設内に展示されているユニフォームの裏側など含め、約80%の除菌(不活性化)の効果が得られる結果となった。マッピング(除菌ルート作成)に要した時間は約1時間程度。

なお、オゾンによる除菌作業が新型コロナウイルスの不活化に効果があるかどうかの一般的な見解として、奈良県立医科大学や藤田医科大学等が不活化に効果があることを確認したという研究結果を発表している。その意味では、今回のような除菌作業が新型コロナウイルス対策に対しての効果も期待できるかもしれない。

■ 動画 ギャラリーエリアを自律移動「消毒ロボット」(ナ・デックス)が消毒作業

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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