ソフトバンクは「世界津波の日」(11月5日)に合わせて、和歌山県「道の駅すさみ」において防災訓練とICTによる被災者支援の技術展示を11月7日(日)におこなった。「すさみスマートシティ推進コンソーシアム 防災ワーキンググループ」による開催で、幹事会社としてソフトバンクが中心になって訓練と展示という形式で実施されたもの。南海トラフ地震による和歌山県の被害想定を公開し、孤立する避難所やそれらの避難所とどう連絡をとるのか、避難所への自律ドローンによる緊急物資の輸送手順などを詳しく公開した。
大規模な地震や台風などが発生したとき、スマートシティ関連のICT技術が被災地をどのように支援できるのか、現状と今後の課題が詳しくわかるイベントとなっていた。なお、当日は大型のドローンによる支援物資の配送デモが予定されていたが、上空は15m以上の強風が吹いていたため、残念ながらドローンの航行はできなかった(この記事では事前段階でのテスト飛行の動画を掲載)。
「南海トラフ地震」など大規模災害にドローンやICT技術で対応
日本はここ数年、大型の災害が頻繁に発生していて、大型の「南海トラフ地震」が30年以内に発生する確率が70~80%という予想も報じられている。地震と災害を描くテレビドラマ「日本沈没」でも被災者の一時避難場所の様子が描かれ、実際の状況はどうなっているのだろう、と心配になる読者も多いことだろう。
もしも「南海トラフ地震」が発生した場合、和歌山県も地震と津波による大きな被害が出ると予想されるため、シミュレーションに基づいて、それに対する具体的な備えと対策の確認をおこなっている。
観光地で有名な南紀白浜にも近い「道の駅すさみ」は、広域的な防災拠点機能を持つ「防災道の駅」に令和3年6月11日に選定された。すなわち、災害時にこの「道の駅すさみ」は、孤立してしまった場所を含めて、多くの避難所を支援する拠点としての役割を担うのである。
そして津波が発生した場合、津波の規模によるものの、すさみ周辺の交通のライフラインである国道42号線が10ヶ所以上が寸断された場合、避難所が多数孤立することが予想される。
このような事態に陥った場合、次のような課題があげられる。従来からの「インフラ」「衣食住」の確保に加えて、コロナウイルス対策を背景にした「衛星・健康」面での課題も重要となっている。
・情報の取得管理、共有
・各避難所までの物流網の確保
衣・食・住
・汎用的に活用できる衣類の確保
・供給可能な食料の確保
・暑さや寒さの緩和可能な寝床の確保
衛生・健康
・感染症対策を徹底した衛生管理
・体調管理を徹底した健康管理
・体を清潔に保つ入浴環境の確保
・清潔で十分な個数のトイレ確保
自律運航のドローンで緊急物資を輸送
各避難所には緊急時の食料が備蓄されているが、避難生活が続けば温かいものが食べたいと感じるのは当然だ。また、衣類やおむつなど、生活必需品が足りなくなれば補充する必要が出てくる。国道が遮断されていることを前提に考えれば、ドローンによる空輸が有効になってくる。今回は強風のためデモをおこなうことはできなかったが、本来は、下記のルートで「道の駅すさみ」から(孤立してしまったという想定の)「里野避難所」、約4kmの空路を「おにぎりや伊勢エビの味噌汁」「衣類」などを、自律運航で空輸する予定だった。
なお、現在、ドローンは目視での飛行が義務づけられているため(申請によって目視なしの許可をとることは可能)、今回は上図の「★」に船舶を停泊させ、海上からドローンの自律航行を目視で確認する予定だった。
10月14日におこなわれた事前飛行の様子の動画はこちら。
■ 道の駅すさみから離陸するデモ(提供:ソフトバンク)
■ 里野集会所(避難所)に着陸するデモ(提供:ソフトバンク)
自律飛行ドローンはイームズロボティクスが開発している機体。ソフトバンクのGNSSを活用した高精度測位サービス「ichimill」(イチミル)を活用し、わずか数センチの誤差で飛行、着陸することができる。運べる荷物の重量(ペイロード)は5~9kg
ドローンの航行が天候に左右されるのは仕方のないことだが、技術的にはこの日の天候状況でも飛行させることは可能という。今回はデモなので安全が最優先で航行の中止が決断されたが、緊急時の運行で孤立避難所の人命が左右されている状況になれば、ある程度の悪天候でもドローンが飛行する特例や許可が出されると予想している(あくまで取材にもとづく著者の予想)。いずれにしろ、道路寸断時の救援物資輸送のオプション(選択肢)が増えることは心強い。
なお、イームズロボティクスとは同じ和歌山県すさみ町で、名産品「すさみケンケン鰹」を水揚げした見老津漁港から約3km離れた「道の駅すさみ」まで自動航行ドローンで運搬するデモも公開している。
避難所の声をLINEでスピーディに共有
さて、ドローンの物資航行の前に重要なことがある。それは、数10ヶ所にのぼると推定される避難所の情報がスムーズに共有され、的確に処理されることだ。今回のデモで言えば、里野避難所ではどのような物資が足りなくて、どのような要望が多いのかという情報の共有だ。すさみスマートシティ推進コンソーシアムとソフトバンクではLINEを活用して、避難所の自治体の代表者や避難者から声が届くシステム(ウフルが開発)を開発して展示した。
これにより、多くの避難所の声が取り残されることなく情報集積の管理者たちへ共有され、その声に対していつどのように対応するのか、具体的な内容が明示できるようになる。その対応のひとつとしてドローンによる物資の空輸があり、当日の運行デモは下記の流れによって、避難所の要望をすくい上げ、ドローンで食料や物資を空輸し、帰路は避難所に余っている余剰物資を道の駅に空輸するというしくみと流れを実践することが予定されていた。開発に関連した各企業も下記の通り。
災害によって寸断されるインフラはもちろん国道だけではないことも予想しなくてはならない。例えば電気や水道、通信などだ。これらのインフラ寸断に対して、スマートシティICT技術はどのように対処できるのか、このレポートの後編ではそれらに焦点をあてて解説したい。
後編につづく。
知っておきたい被災地で活躍する「移動基地局車」や「災害ポータル」のこと 大地震や津波災害時にICTをどう活用できるのか(後編)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。