「すさみスマートシティ推進コンソーシアム 防災ワーキンググループ」とソフトバンクは「世界津波の日」(11月5日)に合わせて、和歌山県「道の駅すさみ」において防災訓練とICTによる被災者支援の技術展示を11月7日(日)におこなった。前回の記事は前編として、南海トラフ地震による被害や避難所などの想定を解説し、自律ドローンによる緊急物資の輸送に焦点を当ててお届けした。
後編となる今回は、通信や電気、水道などが途絶した状況の災害現場で活用されている「移動基地局車」や「携帯充電サービス」「災害ポータル」などを紹介しよう。被災者を助ける重要な役割を担いながら、あまりオモテ舞台には出てこない知られざる支援ツールたちにスポットを当てる。
通信・通話サービスを早期復旧する「移動基地局車」
スマホや携帯電話など、通信や通話の途絶を解決するために出動するのが「移動基地局車」だ。
災害時には通信キャリアの基地局も被害や影響を受けてしまう。基地局がダウンすれば、一帯の通信・通話環境が途絶され、スマホや携帯電話が使用できなくなってしまう。そのような非常時に出動するのが移動基地局車だ。
移動基地局車は通信設備を備えた自動車で、ダウンした基地局の代わりになって周辺地域の通信・通話をおこなう。ソフトバンクでは移動基地局車としては、大型から小型まで3タイプの車両を約100台持っていて、非常事態に備えている。他に持ち運び可能な可搬型基地局があり、これは200台ある(停電時は移動電源車とともに使う)。
移動基地局車は、光ファイバー等による有線での通信ができる場合はそれを使うが、大規模停電時のように有線での通信が途絶している場合は、車両の屋根に搭載した人工衛星を使って通信・通話をおこなう。1台の移動基地局車が携帯電話やスマホ等と通信できるエリアの目安は約5km。
現時点では4G LTEを中心に通信をおこなう。5Gには対応していない。というのも、5Gはスピードや大容量がウリだが、代わりに回り込みや長距離を必要とする通信は苦手のため、緊急時にスマホや携帯電話で通信・通話する場合は5Gよりむしろ4Gの方が活用度は高い。
衛星で通信をおこなう場合、スマホや携帯電話を多数接続して通信するのは比較的苦手のため、同時に通信することに関してはある程度の制限や順番待ちなどの制御が必要になってくる。
2019年と2020年、千葉県で大規模な停電が発生したが、その際に移動基地局車が出動して活躍している。通信エリアが限られるので、役場などや駅など人が集まりやすい場所に移動基地局車を設置し、そこに来て通信してもらう環境を構築したという。その際には電波が使える場所や時間をアナウンスするなどの告知もおこなわれた。
スマホ・携帯電話の充電切れを解消する「携帯充電サービス」
スマホや携帯電話で情報収集したり、家族や友人とコミュニケーションをとる人が大半を占めている昨今、最も深刻な課題のひとつがスマホや携帯電話のバッテリー残量がなくなることだ。それに対応したサービスが「携帯電話充電サービス」(充電ステーション)だ。
ソフトバンクでは地域一帯が停電になってしまった避難所を中心に、このサービスを設置しているという。ライトニングやUSB-Cなど、スマホ用の標準的な電源ケーブルだけでなく、携帯電話に対応した変換アダプタも数多く用意している(ソフトバンクに限らずドコモやau用のコネクタ含む)。
携帯電話充電サービス自体の電源は発電機(内燃機による)から供給したり、電源車が入れる環境であればそこから供給する。
スマホや携帯電話の充電には数時間かかる場合が多いため、一番の課題はこの場所で管理するスタッフを常駐させることだろう。携帯電話の盗難や間違って持って行ってしまう人がいないよう管理が必要となる。
また、対策のひとつとして、モバイルバッテリーの貸し出しをおこなう対応をおこなうケースもあるという。
水が循環する手洗いスタンド/シャワー「WOTA」
通信や電源の他に、被災地や避難所で必要になるものに「水」がある。飲料水のほかに、衛生環境面でも水は重要視されている。後者(衛生環境面)で、水を循環させて利用する「WOTA」を避難所に導入する計画がある。WOTAの特徴のポイントは貯めた水を循環させ、フィルターでろ過することで浄化し、水を使い続けることができるシステム(飲料用ではない。飲料水は基準や法律が異なる。機能的には飲料水としての水質基準に達する浄化レベルではあるものの飲用にはできない)。このシステムはWOTAが開発し、ソフトバンクが販売している。
今回は災害対策としての展示だが、最近では店頭や施設の入口に消毒液をセットしているケースが多い。そんな中で、手洗いできる機器を設置したいという施設もあり、病院やクリニック等で水道設備のない場所で、WOTAのこれらシステムを導入するケースが増えている。
機器の内部の構造は写真のとおり。髪の毛などをろ過する大きめのフィルターから、細かいフィルター、ウイルスを除去するろ過フィルター/塩素/紫外線等を通して、再利用できるレベルに水を浄化する。
手洗いをしている時間を利用して、スマホを除菌することもできる。スマホを挿入すると自動的に装置に吸い込まれ、UVによる消毒作業がおこなわれる。
LINEを使って避難所から足りない物を迅速に通知
次にはソフトウェアや支援システムに目を向けてみよう。
避難所の状況や情報が中央の管理センターに迅速に届かない、避難所によって足りない物と余っている物がある…こう言った課題に対して、スムーズな情報の流れを実現しようというシステムだ。
避難所の代表者や関係者が、避難所の場所、性別を選択した後、「毛布が20枚足りない」「飲料水が2ケース足りない」「紙おむつが足りない」など、足りない情報をLINEの画面から入力する。
入力した情報は役場や防災管理センターなど、避難所の物資支援を管理しているパソコンの一覧画面に表示される。
避難所からの情報提供の一覧画面(例)。管理センターからは「対応中」なのか、「要望した物がいつ届けられるのか」などを避難所のLINEに返信することができる。
人の密集度や不快度を知らせる「3密可視化システム」
コロナ禍で、避難所で可視化が必要な情報も変わってきた。そのひとつが人の密集を可視化した情報。
「3密可視化システム」自体は、新型コロナウイルス感染症対策の、注意喚起を促すソリューションとしてウフルが2020年に発表したシステムを災害対策用として開発したもの(2020年5月に和歌山県の南紀白浜空港で導入実績があることでも知られる)。
このシステムは環境センサー(CO2/温度/湿度/eTVOC(不快度))を設置した小型のボックス(Raspberry Pi搭載)を設置するだけで、3密になっていないかを可視化する。
測定した数値を見て、エアコンを稼働したり、空気の入れ替えをおこなったり、ウイルス感染のリスクを低減するのに活用できる。なお、センサーが測定した数値はクラウドに送信され、管理者がパソコンやスマホアプリで共有できる。
防災だけのために導入するのはコスト高と判断され易いため、防災と観光をセットで考えて、平時は人の流れや3密の管理に、非常時は避難所等の3密可視化システムとしての活用を提案していきたい考えだ。
3密可視化システム (ウフル)
避難所の場所や通行止めの場所がわかる「災害ポータル」
これもウフルが開発した「データ連携基盤」を「災害ポータル」として活用するもの。2021年10月3日に和歌山県和歌山市で発生した、送水用の橋の崩落によって周辺地域が大規模に断水した被害を記憶している人も多いだろう。その際に、給水所の場所と混雜状況を地図上で可視化して、広く一般にスマボアプリ等で閲覧できるサービス提供をおこなった実績がある。
このシステムを災害時の避難所の位置と詳細情報を表示したり、寸断されている道路が確認できるシステムが「災害ポータル」だ。
例えば、災害時にすさみ町一帯のマップを表示し、どこに避難所があるのかをアイコンで表示する。これはスマホアプリで一般のユーザ(住民など)も利用できる。
避難所をクリックすると、その避難所の設備や状況も確認できる。
道路の寸断情報、冠水、土石流の情報なども表示できる。交通インフラの情報は間違いやイタズラによる混乱を防ぐため、リアルタイム性も鑑みながら、どのような規則で誰による入力を許可するかなど、今後、慎重に検討していく必要があるとしている。
おそらく災害の規模や質によってもリアルタイム性の重要度が変わってくるだろう。
そのほかにも、エントランスにカメラを設置して、顔認証や体温を自動で検温するシステムを展示していた。避難所に設置することで、入所している人数を推定したり(同一人物はダブルカウントしないしくみを搭載)、体温が異常な人は自動でチェックできるシステムとして応用する(人数・性別・年齢などを推定)。現状では避難所の受付は混み合ったり、行列ができるなどの混乱がうあるという。また、行列ができると収容人員を超える見込みかどうかのカウントにさえ時間がかかるため、ある程度の自動化が必要なようだ。
これらのシステムを活用して、緊急時にもスピーディに必要な情報が共有され、足りない物資が迅速に補給されたり、衛生面や環境面、通信環境の確保などをおこなっていくことを和歌山県「すさみスマートシティ推進コンソーシアム 防災ワーキンググループ」とソフトバンクは進めていく。
災害時の取り組みや最新技術の導入等に対して、各自治体や関連する企業が情報を積極的に公開されていくことが望ましい。取材をしながらも、私自身が住む地域がどのような準備や取り組みをしているのかを知らないという面もある。
このような積極的な情報公開が、全国に広がっていくことを期待したい。
関連記事
大地震や津波災害時にICTをどう活用できるのか(前編) ソフトバンクの自律ドローンが避難所に物資を空輸 和歌山すさみ町で
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。