建設現場をテレワーク 大仏からガンダムまで手がける川田グループによるアバターロボット建設DX

川田テクノロジーズは、11⽉24日〜26日に東京ビッグサイト青海展示棟で開催された「メンテナンス・レジリエンスTOKYO」内の「i-Construction推進展」で、同グループが推進している建設DXの展示を行った。
そのなかでグループ企業であるカワダロボティクスが製造・販売している産業用ヒト型協働ロボット「NEXTAGE」を使った建設現場用アバター(分身)ロボットが出展されていた。

川田の建設現場用アバターシステム


双腕ロボットNEXTAGE + WHILLの足回り

現場での様子

建設現場用アバターロボットは川田テクノロジーズ、川田工業、芝浦工大が共同開発しているロボットで、「NEXTAGE」を、屋外・屋外での踏破性能に優れた「WHILL」の足回りの上に乗せて、遠隔操作できるようにしたもの。バッテリーやコントローラーも本体に搭載されている。

足回りはWHILL社のもの。踏破性能と旋回半径の小さいオムニホイールが特徴

NEXTAGE自体にももともとカメラが搭載されているが、遠隔操作用に頭部上方、胸部にはIPカメラ(ネットワークカメラ)が追加されており、遠隔操作で事務所から建設現場の品質・出来形管理を行ったり、協働作業を行えるようにすることを目指している。川田テクノロジーズが基本設計を行い、芝浦工大 工学部電気工学科 宇宙ロボットシステム研究室 安孫子聡子教授がロボット用遠隔操作装置の開発、川田工業が橋梁工事向けのアプリケーション開発と現場実証試験を行っている。2020年10月にリリースされたものだ(https://www.kawada.co.jp/general/topics/pdf/20201005.pdf)。

テレワーカーはロボットに搭載したカメラからの画像を見ながら操作する


ロボットを使って遠隔操作で品質・出来形測定、自動帳票作成

ロボットの手先につけられた、塗料膜厚を計測するための検査プローブ。プローブの下には手先カメラ

今回の展示では、塗料の膜厚を計測するための検査プローブをアーム先端につけた状態で出展されていた。遠隔オペレーターはカメラ画像を見ながら、力覚コントローラを使ってロボットアームをリアルタイムで操作することができる。また、手先のプローブ自体にも3点のレーザーがあり、検査面にきちんと垂直が取れているかどうかを確認して検査を行えるようになっている。もちろん手先の装置は必要に応じて切り替えることもでき、多様な検査ニーズに応えることができる。

オペレーターは力覚コントローラを使ってロボットアーム先端位置を操作可能

橋梁建設の現場では施工管理の一環として多くの「品質・出来形検査」が行われている。「出来形」とは建設工事で契約書で示された完成物の寸法のことで、「出来形検査」とは、そのとおりに出来上がっているかどうかを発注者立会いの下で品質検査することである。

建設業は現場主義だ。そのため、人による試験・検査・計測、工事写真撮影が、現場で数多く実施されている。代表的な実測業務は、橋桁の出来形計測、高力ボルト締付確認、塗膜厚検査、現場溶接部の非破壊検査、床板コンクリートの配筋検査、ひび割れ検査など多岐にわたる。これらの業務が全て現場で行われている。

他にも進捗管理、測定データ収集、分析・整理、帳票作成などの業務があり、現場作業者は忙しい。だが他の業界と同じく、少子高齢化による人手不足は深刻化しており、品質保証能力を高めつつ、時間短縮・工数削減のための技術開発が必要とされている。この遠隔操作ロボットシステムはその一環だ。

移動ロボットを遠隔操作して検査作業を行う

具体的にはロボットを使って取得した橋梁の品質・出来形測定データをクラウドサーバに転送して自動帳票化。関係者間で共有することで測定業務のデジタル化・リモート化を図る。これができるようになれば在宅勤務者であっても現場、しかも複数の現場の品質・出来形管理を行うことが可能になる。また発注者の遠隔立会いが可能になれば、工事の生産性と品質保証能力を共に高めることができるという。

また、将来的には BIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling,Management)連携やデータ取得を経ての自動化も視野に入れる。

建設DXを全面に押し出した川田ブース


アバターパイロットで建設DX

ロボットでテレワーカーと現場作業者、発注者が情報を共有できるように

今回の出展ブースでは、2021年3月に行われた、川田工業の実際の施工現場(令和2年度 外環空港線洗地川(下り)上部工事 鋼桁架設現場)での実証実験の様子が、動画で紹介されていた。

今後は、自律型ロボットでは困難な作業を、遠隔操作で人と協働できるアバターロボットを使って解消し、生産効率と品質を高めるコンセプトで開発を推進するとしている。また技術開発によって建設業界にテレワーク主体の働き方を定着させて「デジタル世界の働き手=アバター・パイロット」という魅力ある職域の確立を目指す。アバターパイロット確立により一線を退いたベテラン、育児休業中の社員、クラウドワーカーなど新たな形態の働き手を建設業に参加しやすくさせて、少子高齢化・労働力不足の課題の解決手段とするという。

川田グループは橋梁や大規模工場・倉庫など多様な建築物の設計・施工を行っている

川田グループと大日本コンサルタント、産総研が開発した橋梁点検用ドローン「マルコ」。搭載カメラで橋脚を網羅的に撮影して橋梁点検を行う。橋脚と一定距離を保つ操縦支援システムにより高画質画像を安定して獲得可能


NEXTAGEを使ったソリューション展開

「第5回 自動化・省人化ロボット展」ASPINA/シナノケンシのブース

このほか、同じく東京ビッグサイト青海展示棟で開催された「第5回 自動化・省人化ロボット展」のASPINA/シナノケンシ株式会社のブースでは、シナノケンシ製の電動3爪の「ASPINAロボットハンド」と、「NEXTAGE」を組み合わせたデモンストレーションが行われていた。

■動画

今後、カワダロボティクスでは他社製のロボットハンドを組み合わせたソリューションを顧客に提案していく。カワダでは昨今、10月13日から15日まで開催れた「国際物流総合展」で公開されたNx-Solution梱包箱組立・箱詰めシステム「Cobako」や、兼松株式会社による外観検査自動化アプリケーション「AIPENET」でのNEXTAGE活用など、ソリューション展開を徐々に増やしている。

■動画

なお、横浜の「動くガンダム」こと「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」施設内にある、動くガンダムの詳細や技術を紹介する「ACADEMY」では、NEXTAGEを使ったガシャポンのガンプラ組み立てデモが行われている。「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」では、そのNEXTAGEのネーミングコンテストが行われている。応募期間は11月27日(土)〜12月12日(日)。応募資格は期間中の来場者だ。応募された名前案をスタッフが選出し、最終的に施設内及びTwitterにて一般投票して最終決定されるという。

ABOUT THE AUTHOR / 

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

PR

連載・コラム