「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」(RCAP2021)のロボット競技がAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催され、サッカーや家庭での生活支援(@ホーム)、産業用ロボット、災害支援ロボットなどによる熱戦が繰り広げられた。
コロナ禍で海外チームの実参戦がかなわず、海外からはオンラインのみでの参加となったこともあり、全体的に参加チーム数が少ない点が残念だったが、愛知県のPR活動が功を奏し、緊急事態宣言も解除されたことで、会場には多くの来場者が集まって、競技やデモに声援を送った。
会場全体の様子は前回記事「AI×ロボットの国際競技大会/展示イベントに家族連れ多数、活気で溢れる「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」現地レポート」で紹介したので、今回はロボット競技の概要やルール、実際の様子についてもう少し詳しく、動画等をまじえて解説しよう。
サッカー 小型リーグ(スモールサイズリーグ)
スピード感が魅力のサッカー小型リーグには観戦者が多く集まった。
1チーム、出場するロボットは11台。直径18cm、高さ15cmの円筒形ロボットでサッカーをおこなう。全方向に移動する機構を持ち、2種類のキックを使い分けて、パスやシュートを繰り出す。
この競技の最大の特徴はピッチの上部に設置されたカメラを使ってコンピュータ(画像処理サーバ)にデータが送られ、それを元に両チームがリアルタイムに処理して戦術を展開すること。
複数のロボットによる協調と制御による連携が見どころとなっている。
観客側の視点で言うと、ルールが解りやすいのとスピード展開が楽しいのが魅力だが、ファール(反則)などによってプレイの中断が多いことが難点だ。これは今後の課題に感じる一方で、興業ではなくあくまでロボット競技であることを考えれば仕方がないとも言える。
結果は「ロボドラゴンズ」が「ルーツ」を破って優勝を飾った。
なお、サッカーはオンライン上で行う「Soccer Simulation(2D)」も行われた。
■ロボカップアジアパシフィック2021あいち サッカー小型リーグの様子
サッカー ヒューマノイドリーグ (デモ)
ロボカップの壮大な目標は「2050年に人間のW杯チャンピオンチームにヒューマノイドで勝つこと」。
自律動作するヒト型の二足歩行ロボット(ヒューマノイド)でサッカーを行うリーグ。1チーム最大4台のロボットを連携させて対戦する。ピッチは人工芝でできているため不安定で(以前はカーペット)、二足歩行ロボットでは歩いたり、バランスを保ちながらボールを蹴るだけでも難しい。
■CIT Brainsによる試合形式のデモ
ロボットは頭に装着されたカメラで周囲の環境を認識、自分の位置を推定してボールの認識、正確なパスやシュートが求められる。
今回はロボカップサッカーでは名門、数々の成績を残してきたCIT Brains(千葉工業大学)によるデモとプレゼンが行われた。内容は出場するサッカーロボットの紹介と技術に関するプレゼンテーション、そして試合形式のデモの回が交互に用意されていた。
毎回、観客席は満員となり、立ち見の観客で溢れた。また、ロボットたちの動きに声援と笑いが起こっていた。
■CIT Brainsによるロボットの解説とプレゼン
@Home (アットホーム)
ロボットが日常生活(ホーム)に導入される将来を想定し、リビングルームやキッチンなどを舞台に、共生しながら人を支援していく競技が「@Home」だ。
ドアを開閉して部屋を移動する能力、正確にモノを認識してつかむマニピュレーション技術、人を追尾する機能、音声対話技術などが必要とされる。
カテゴリーはトヨタ自動車製のロボット「HSR」で競う「Domestic Standard Platform」と、自作したロボットで競う「Open Platform」の2つがある。
ロボスタ取材時は「Domestic Standard Platform」の決勝戦が行われていて、九州工業大学の「Hibikino-Musashi」と玉川大学の「eR@sers」が激突。常連チームによる接戦が繰り広げられた。
競技の内容はそれぞれ部屋に散らかった物を拾い上げて、所定のカゴに入れる片付け作業と、言われたものを棚から取って指示した人に正確に届ける内容のふたつ。届ける先にはふたりの人がいて、手を上げている方の人に正確に届ける必要がある。
「Hibikino-Musashi」は序盤でトラブルのため出遅れ、「eR@sers」が得点を積み上げたが、後半「Hibikino-Musashi」が猛烈に追い上げた。
■RoboCup @Home (DSP) League Final, @Robocup Asia Pacific Aichi 2021
「@Home」には入門となる「@Home Education」リーグがあり、@Homeの本リーグよりも難易度を下げて簡単化されたルールで実施される。新規参入の障壁を下げる意味合いを持つ。
また、オンライン上でおこなう「@Home Simulation(OPL)」も開催され、Technical Challengeでは「ソビッツ」(SOBITS)が優勝した。
レスキュー
災害時には、消防や救急隊員でも入っていけない危険な場所があり、人の代わりにロボットが被災地域や屋内に進入して、中の様子を確認したり、要救助者を発見するなどの任務を担うことが期待されている。
そういう背景から災害対策ロボットによる競技として、ロボカップではレスキュー競技が設けられ、実機とオンライン(コスペース)で実施されている。
実機リーグでは、いくつかのステージが作られていたが、観客が近くに入れないステージが多かったため、テレビモニターが設置され、競技状況を放映しながら、観客席の前で実況や解説を行う観戦スタイルが導入された(従来のロボカップやWRSでもこのような手法はとられている)。
また、コスペースでは要救助者を発見する様子などがモニターの中ではわかりにくいため、同じように動作するリアルの小型ロボットとステージが設置され、来場者の質問に回答する方法がとられた。
フライングロボット
また、今回から初めてレスキュー的な内容で、フライングロボット(ドローン)による競技も試験的に追加された(フライングロボットチャレンジ)。ドローンで屋内に進入し、ドローンのカメラで各部屋の状況確認を行い、指定のアイテムを確認したり、ロープに沿ってトレース飛行を行うなどの内容となっていた。
玉川大学と大同大学がリアルで、会津大学がオンラインで参加した。序盤は玉川大学と大同大学の接戦の様相を呈したが、@ホームで実績のあるビジュアルSLAM技術を活用した玉川大学「eR@sers」が加点し、大きく引き離して勝利を収めた。有力視された海外チームの参戦はならなかった。
Industrial Logistics (インダストリアル)
産業用ロボットアームや自律移動ロボットによる物流や倉庫管理をテーマに、「インダストリー4.0」を視野に入れた競技。ロボットとシステムの連携、ロボット同士の協働、人とロボットの協働、急なライン変更の対応など、多品種少量生産に対応した「インダストリー4.0」時代に必要とされる自動化・自律化・移動性などのロボット技術を競う。
3台のロボットが加工機器の間を動き回り、協調して効率の良い生産を行い、出荷するまでの工程を個別に評価していく。
オンラインで参加した「インダストリー4.0」の本場ドイツと、オーストリアのチーム(世界大会で活躍するチーム勢)がチカラを発揮し、リアル参加の日本チームを圧倒。独アーヘンのCarologisticsが優勝した。
■Industrial Logistics
海外との交流
今回は十分に紹介できなかったが、他にジュニアカテゴリーの競技も多数行われていた。競技によってはプレゼンや審査員からの質疑応答(インタビューと呼ばれる)もある。ロボカップ世界大会の場合は国際大会ということで、競技のプレゼンや審査等は英語で行われるという一面もあり、英語でのコミュニケーション能力も求められる。英語のスキルが向上するとともに、大人も子どもも海外のチームやメンバーとの交流ができて、かけがえのない経験となることも最後に付け加えておきたい。
AI×ロボットの国際競技大会/展示イベントに家族連れ多数、活気で溢れる「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」現地レポート
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。