量子技術と既存の機械学習アルゴリズムを融合した「量子インスパイア型分類アルゴリズム」発表 グリッドが電通⼤と共同で開発

株式会社グリッドは、従来の機械学習アルゴリズムに対して量子アルゴリズムを応用した「量子インスパイア型 分類アルゴリズム」を開発し、シミュレーションと理論によって、その有用性を実証したことを発表した。「量⼦インスパイア型」とは、ランダムフォレストやサポートベクターマシン(SVM)等、一般的に使用されている代表的なアルゴリズムに対して、量⼦の特徴を落とし込んだもの。量子技術として「量子インスパイア」要素を取り入れて進化させる取り組み。

量子コンピュータの実用化は課題が多く、まだまだ先のこと。量子アルゴリズムを従来(古典コンピュータ)の機械学習やニューラルネットワークの代表的なアルゴリズムに応用できないか・・という発想から生まれた

報道関係者向け発表会で、グリッドの 代表取締役 曽我部氏は「量子コンピュータを学習する上で一丁目一番地となる基本的なものに「Deutsch-Jozsa(ドイチ-ジョザ)」アルゴリズムがあるが、このアルゴリズムを活用する方法は今までほとんど明確になっていなかった。そのアルゴリズムを従来の代表的な分類アルゴリズムと融合することに成功したことで、データサイエンティストにとって新たな発展と挑戦のもとになる」と語った。


いわば、量子研究の入門と既存AIの発展とを併せ持つもの。従来型(古典)コンピュータでニューラルネットワークを研究したり開発しているデータサイエンティストにとっては量子技術の領域へ踏み出すものとなり、量子技術を研究しているデータサイエンティストにとっては、量子技術を既存のAIアルゴリズムで活用する技術となる可能性がある。

株式会社グリッド 代表取締役 曽我部完氏

なお、グリッドは2021年7月に「量子コンピュータは過学習しにくい」ことを「ACM」で発表し、話題になった。関連記事「量子コンピュータは「過学習」しにくい グリッドが量子AIの研究結果を「ACM」で発表 量⼦機械学習器のVC次元を初めて確立


量子インスパイア型分類アルゴリズムを開発

グリッドが発表したアルゴリズムは、世界最古の量子アルゴリズムである「Deutsch-Jozsa」(DJアルゴリズム)から着想を得たもの。その原理と古典的なクラスタリングアルゴリズムである「density-based spatial clustering of applications with noise」(DBSCAN)とを融合させ、サポートベクターマシン(SVM)などのように「分類問題を解く」新たな機械学習アルゴリズムになることが期待できる。


データを分類する際、SVMなどの従来型の機械学習アルゴリズムでは「分類の決め手となるデータをひとつひとつ吟味して判定」しているが、このアルゴリズムでは多数のデータから決め手となるデータを少ない回数で判断するDJアルゴリズムの特徴を活かし、効率的に学習することが可能となる。




今回の開発において、機械学習分野で使われる分類問題に対して、本アルゴリズムの有用性を同社が実証。同じ性質の古典的アルゴリズムである「Kernel SVM」と比較して、モデルの学習にかかる計算速度が理論的に優位であることを確認している。また、モデルの複雑性の指標である VC次元の上限値を導き出すことにより、アルゴリズムの学習可能性を理論的に証明したという。


このアルゴリズムは従来(古典)コンピュータのみでも実行可能で、更にはアルゴリズム内の一部の計算を量子コンピュータで行う「ハイブリット型」としても運用できる。古典と量子のハイブリットで計算することによる高速化も期待できる。





量子コンピュータの実用化はまだ先だが、量子アルゴリズムを取り入れることはできる

量子コンピュータの実用化に向けて、実機のハードウェア開発だけでなく、アルゴリズムの開発にも関⼼が高まっている。なかでも量⼦の特性により、従来の古典コンピュータにおける機械学習よりも高い性能のモデル構築実現の可能性も期待されている。「量⼦機械学習アルゴリズム」の開発だ。
一方で、NISQと呼ばれる現在の量⼦コンピュータは、量⼦ビット数の制限やハードウェアのノイズによって計算能力が制限されたり、正確な計算結果が得られないという課題に直面している。

そのため、膨大な計算を一瞬で処理する量子コンピュータ本来の性能を発揮することができない状況で、現状の実機性能では量⼦アルゴリズムを開発したとしても、実⽤化はまだまだ難しいという見方もある。
こうした背景を踏まえて、グリッドは電気通信⼤学の協⼒のもとで、量⼦の特徴を機械学習アルゴリズムに落とし込んだ「量⼦インスパイア型」分類アルゴリズムの開発に着手し、今回の成功にいたった。量⼦の性質を⽣かした計算能⼒をもつアルゴリズムを現在の実用課題に適⽤する可能性を開く、としている。

【再掲】量⼦の特徴を機械学習アルゴリズムに落とし込んだ「量⼦インスパイア型」分類アルゴリズム。量⼦の性質を⽣かした計算能⼒をもつ新しいアルゴリズムで、現在の課題に適⽤する可能性を開く

量子コンピュータの実用化にはまだ年月が必要。しかし、この技術自体は将来の量子コンピュータ技術でも活用できるため、より一層の量子ソフトウェアの進化やハイブリット流用、量子ハードウェアの開発など、環境の革新にも重要な技術となることが見込まれる。

関連サイト
株式会社グリッド

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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