三菱地所が経済産業省とともに「ロボットフレンドリー(ロボフレ)な環境・まちづくり」に向けて本格展開を始めた。2022年1月25日(火)、ロボット活用のユースケースの創出や人手不足の解決に向け、施設とサービスロボットが連携した実証実験を行うことを記者発表会で発表した。実証実験の場所は三菱地所が運営管理する大手町フィナンシャルシティ グランキューブや大手町パークビル等。
3種類のロボットがエレベータやフラッパーゲートと自動連携
記者発表会では、NECネッツエスアイの屋内配送ロボット、パナソニックの屋外配送ロボット、パナソニックの清掃ロボットのデモが行われ、それぞれビルのエレベータやドアなど連携して自律走行する様子が公開された。
■すべてのロボットがエレベータなどのビル設備と通信して連携できる社会へ
また、記者発表会には経産省と三菱地所、各ロボットメーカーの担当者らが参加した。
また、人気声優の関智一さんがゲストとして登壇し、配膳(配送)ロボットによるデリバリーのデモを体験。ほかにも屋外に対応した自動運転の配送ロボットや、エレベータと連携した清掃ロボットのデモを報道陣と一緒に見学した。
ロボットフレンドリー(ロボフレ)な環境とは?
ロボットフレンドリーな環境とは「ロボットが導入しやすい環境」を意味する。具体的にはロボットがエレベータ、フラッパー(ゲート)、セキュリティドア、入退管理システムなど、ビルのインフラ設備やシステムと連携(通信)して、ロボットが全自動で稼働できるしくみ(通信手順やAPIなど)を構築し、経産省が主導してそのオープン化を目指す。
現在、サービスロボット導入の課題となっている点のひとつがビルインフラとロボットの連携かをロボットメーカーやSIerが設備メーカー等とそれぞれの導入案件ごとに開発を行っていること。導入時のシステム開発のコストが高額になり、ロボット導入の普及が進まず、結果としてロボットの価格も高止まりしている現状にある。
一方、ロボットフレンドリーな環境はこれら個別に開発していた連携システムを標準化することで開発コストを下げようというコンセプト。ロボットとビルや街の設備との連携が標準化され、ロボットメーカーや設備メーカーもオープンな仕様で開発コストを下げることができ、ロボットの社会実装が促進され、ロボットフレンドリーな社会が実現する。
経産省の発表によれば現在、ロボットフレンドリーな環境の実現に向けた取り組みとして、具体的には4つのTC(テクニカルコミッティー)が設けられている。「施設管理」「小売」「食品」「物流倉庫」の4つだ。今回は、施設管理TCで実証実験とデモが行われた。
また、施設管理TCが目指す姿として「いかなるメーカー製のロボットであっても、いかなるエレベーターやドアと連携し、どの施設でも自律的に搬送・清掃・警備を実施できる世界」と定義し、その実現のために必要なロボフレ環境として次の5つを掲げた。
具体的に言えば、エレベータ連携をしていない現状では、自律清掃ロボットがあるフロアの清掃が終わると、スタッフがロボットをエレベータに乗せて別のフロアに移動し、自律清掃ロボットがそのフロアを清掃する、というワークフローを繰り返すが、ロボットのエレベータ移動の都度、スタッフ清掃作業の中断を強いられている(下図上段)。
ロボットフレンドリーな環境が実現すれば、ロボットは自律的にエレベータでフロアを移動することができ、スタッフは自身の持ち場の清掃に集中できる(上図下段と下図)。
また、入退場ゲートや自動ドアとの連携で自由にビル内を移動できることで、作業の自動化の機能が著しく向上する。
自動ドアと通信して全自動でドアを開ける清掃ロボット「RULO Pro」。この技術が実現すれば、フロア内の自律移動の範囲が広がる
ロボット・エレベーター連携インタフェイス定義を公開
経済産業省の福澤氏にロボフレの開発環境のオープン化について具体的に聞くと「ロボットとビル設備との連携については、将来的にはAPIを公開する領域までいければいきたいが、例えばロボットとエレベータの連携やインタフェースについては現時点でもう既に、RRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)で”ロボット・エレベーター連携インタフェイス定義“を公開しています。エレベータメーカーは世界的に高いシェアを持つOTISさんと連携していますし、日本のエレベータメーカーも多数協力企業に名前を連ねていますので、国内での標準化が進めば世界的にもオープンな規格を目指して策定していきたいと考えています。自動ドアやフラッパー(ゲート)も同様です」と語った。
経産省としては、ロボットメーカーとエレベータメーカーの双方が同じ資料を参照してソフトウェアを開発すれば、デファクトスタンダードの道が開け、双方の開発コストも下げられて、ロボットの導入が進む可能性が高いと提案する。現時点では、インタフェイス定義の公開だが、将来的にはここから世界標準のAPIやSDKが生まれることを期待したい。
■自律配送ロボット「X-Area Robo」(パナソニック)の自律走行のデモ
WRSからのゲスト、「パットくん」と声優の関智一さんも登場
2021年は、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催した「World Robot Summit(ワールドロボットサミット)2020」(WRS)が開催された。そのオンライン会場「WRS VIRTUAL」に登場したオリジナルキャラクター(アバターロボット)が「パットくん」だ。「パットくん」は「WRS」の任は終えたが、今後は経済産業省によるロボット政策推進のシンボルとして引き続き活躍することになった。
また、WRSオリジナルアニメ「WRS へようこそ!」でパットくん役の声で登場した人気声優の関智一さんも登場。
関さんは、実際にスマホのアプリから「寿司弁当」を注文し、エレベータ連携した配膳(配送)ロボット「YUNJI DELI」が関さんの元にお弁当を運んでくるデモを体験した。
■人気声優の関智一さんが自動配送ロボット「YUNJI DELI」を体験
■関智一さんがエレベータ連携の自動清掃ロボットを体験
三菱地所は記者発表会の同日、大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会による「屋内外を結合した3Dデジタルマップによるロボット走行環境形成の実証実験」に協力したことを発表しました。検証テーマとして「ロボットフレンドリー環境」をあげています。そちらの記事「テラス席からスタバに注文、自律搬送ロボットが配達 約100人が丸の内で体験 三菱地所やアイサンが「デジタルツイン」で実現」もぜひ参照してください。
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。