スマートシティでのロボット活用のカギは役割分担の明確化 PARCO、三菱地所、コネクテッドロボティクスが語る

第6回ロボデックス ロボット開発・活用展」が1月25日〜1月27日の会期で東京ビッグサイトにて開催された。会場では展示のほか、講演も行われた。こちらではサービスロボット分野の講演を3本、レポートしておきたい。


役割分担の定義とトライアンドエラーが必要 PARCOでのロボット活用

株式会社 パルコ執行役員 CRM推進部兼デジタル推進部担当 林直孝氏

まずは株式会社 パルコ執行役員 CRM推進部兼デジタル推進部担当の林直孝氏による「PARCOが進める商業施設のロボット活用 」からレポートする。林氏は「アフターデジタル時代のショッピングセンターに求められる役割」という視点でロボットを活用しようとしていると述べた。今後は全ての情報(データ)が統合され、AI が接客の質を高めたり、接客がネット上でも可能になり、さらにはメタバースによって体験までデジタル化できる時代が来るのではないかと考えているという。オンライン時代には顧客行動データも活用が容易になる。

ショッピングセンターの役割も変化する。既にスマホでいつでも買い物ができる時代だが、林氏はこれからのショッピングセンター(SC)は「Serendipity Center」、すなわち「偶然の出会いによる幸福を生み出していく場所」に変わっていく必要があると述べた。そのための課題解決技術の一つとしてロボットがあるという位置付けだ。

パルコのサービスロボット活用は2015年の「Pepper」活用からスタート。マルチリンガル顧客対応や、2016年には仙台パルコ2で他のロボット(Fellow Robots社のNAVii)との連携も行なった。

また池袋パルコでは大阪大学・石黒研のアンドロイドを使ったインフォメーションカウンターの接客対応なども進めた。そのときの実験では多くの客が話しかけた後に、相手がロボットだと気づくということを発見。来客の多くはインフォメーションカウンターの受付の人の顔を見てないことがわかった。林氏はこれについて「従来の制服を来て決まってやりとりをすることは本来の人間らしい接客から遠ざけていたのでは」と感じたと述べ「学びの多い実験だった」と振り返った。

2017年に池袋パルコのほか上野で、日本ユニシスなどと協力して、警備・案内のほか、閉店後はRFIDを使った棚卸しの実験を行なった。

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だがロボットは価格も高く、どのフロアにも置けるようなものではない。そこで「Amazon Alexa」をビル内にたくさん置いて、600パターンくらいの設問に答えられるようにする試みも行なった。このときは「トイレはここです」と答えさせていたら「トイレに行くこと大声でさらすとはどういうことかと怒られた」。そこで「お探しの場所はこちらです」に変えたそうだ。このときは発話データの可視化、どんな時間帯に、どこの場所では、何を質問されて、どういうことを答えたかといったデータを蓄積。PDCAを回した。デジタル化によってデータを蓄積し、高速で改善にいかすサイクルが回せる、これがデジタルのいいところだと述べた。

棚卸しについては、できる場所できない場所があることはわかったが、本当に大変なのは バックスペースであり、役割分担が必要だと語った。そして店の作り方自体を変える可能性も含め、「ロボットを活用するとは、ロボットができることを引き出す環境づくりが大事なんだなと学んだ」と語った。

2019年には渋谷パルコに「temi」を導入。これは必要に応じてインフォメーションカウンターの人とビデオ通話が可能なロボットだが、有人カウンターが混んでいると人が対応できない。人のリソースの確保が重要になる。

2020年には心斎橋パルコがオープン。コミュニケーションロボット「Sota(ソータ)」を使った遠隔接客実験を行なった。大型商業施設のなかでは、こういうスタイルが標準になるかもと感じたという。つまり、コールセンターは必ずしも現場になくてもいい。コールセンターにいるオペレーターが、複数箇所で接客するスタイルになるのではないかと考えているという。そのほか、警備ロボットや掃除ロボットのテストも行なっている。

サービスロボットの普及に向けては、「現段階ではロボットが人と同じレベルで商業施設内を自律して活躍するにはいくつものハードルを超える必要がある。役割分担が必要。得意なことと苦手なことを認識して、何を助けてもらうかを定義したサービス設計をする必要がある。そのうえでロボットを運用しやすい環境、ロボットフレンドリーな環境を徐々に整えながら、トライ&エラーを繰り返すことで、やがてドラえもんのようなロボットが登場するかもしれない」と語った。




実地で活用ノウハウを蓄積しユースケースを作る 三菱地所

三菱地所株式会社 DX推進部長 太田清氏

三菱地所株式会社 DX推進部長の太田清氏は、「スマートシティの実現にむけて、ロボットが担う役割と課題」として警備・清掃・運搬ロボットに関する取り組みを紹介した。三菱地所はいま「長期経営計画2030」として、サステナブル社会の実現に向けた取り組みを行なっている。三菱地所は個人の生活導線上の物理的接点を豊富に保有している。将来のスマートシティではエンドユーザーの行動履歴をつなげて街をより使いやすく、安全、快適、効率的にしていくことが求められる。ロボットフレンドリーな街、すなわちロボットが活用しやすい街であることも今後は重要になる。重要なことは、やはり「人間がやることとロボットがやることを定義すること」だという。三菱地所はそのなかで、ロボットをつなぐハブになろうとしている。

2027年には「TOKYO TORCH」が完成するが、2021年7月にグランドオープンした「常盤橋タワー」には警備ロボットや配膳ロボットが導入されている。警備ロボットは18物件程度、清掃ロボットはソフトバンクの「Whiz」を全国で65台活用中だ。運搬についてはEffidenceの「EffiBOT」、パナソニックの自動走行ロボット「X-Area Robo」、NECネッツエスアイが代理店となっているBeijing Yunji Technologyの「YUNJI DELI」を活用している。岡山県玉野市では公道での走行実証を行い社会的ルールづくりや付き合い方などのノウハウ蓄積を行なっている。「自分ごと」とするためには実験を繰り返すしかないという。

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今後の課題については、3点を挙げた。1点目は「ロボット利活用の経験値の蓄積がまだ重要」。ロボットは性能を引き出すのも経験値が必要で導入ハードルが高い。ロボット側に場所や用途、使い方などの制約が多く、コストメリット、スケールメリットが出しにくい。搬送一つとっても、搬送容量やセキュリティ性能などがうまく合わず、ロボットのバリエーションがまだ足らないと感じているという。

二つ目は、「活用範囲が限定的」。エレベーターやセキュリティゾーンとの連携が必須だが、一箇所一箇所、全部を通行できるようにするのは大変だ。扉や段差などもロボットの稼働が前提となっておらず、「ロボットフレンドリー」な環境が必要とされている。業務視点で見ると、現時点では清掃・警備など従前の人間がやっていた機能をそれぞれロボットに置き換えており、建物管理の一機能として再定義されていない。

3つめは「社会実装に向けたルールメイク」。監視ルールの整備や緩和、自己責任問題だ。今はロボットはエレベーターにも一緒に乗れず、屋外を走行させるのも安全監視員を必要とする。ユーザー、管理会社、社会全体の慣れが必要だ。

今後、三菱地所ではフードデリバリーサービスなどを検証して、ニーズがどのくらいあるのか、ロボットがオフィスまで行くにはどんなハードルがあるのか、屋内屋外含めて具体的に検証していく。そして運搬容量の最適化、注文処理や搬送ルートの連動なども検証する。

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例えば昼に弁当宅配のニーズがあるとしても、ランチタイムにエレベーターをロボット一台にとられてしまうと大変なことになるのは目に見えており、どういうルートなら大丈夫か検証する必要がある。そもそも一件だけでは効率が悪い。一度に大量の弁当を運ぶことほうが利便性も高い。どんな使い方が良いのか、ニーズを作り出すことも含めてユースケースをあげていきたいという。

エレベーター連携は大手町グランキューブと大手町パークビルで検証する。どの会社のエレベーター、どのメーカーのロボットでも同じようなかたちで通行できるようなかたちで考えているという。無線による連携だけではなく、ロボットが物理的にボタンを押すような仕組みも含めて検証し、実際にどのくらい移動できるのか探る。

また、清掃・警備・運搬と今は用途が分かれているが、様々な用途を混ぜてうまくミックスできないかとも考えているという。太田氏は「メーカーと一緒に開発してユースケースを作っていくことも重要なのではないか」と述べた。

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ルールメイクについては、丸の内仲通りで屋外3D都市モデルと屋内BIMを活用した配送ロボット実証を実施するなど、ロボットが自分でマッピングしなくても動けるように実証実験を行なっている。ロボットが屋内外を自由に動けるようになると活用範囲が広がる。東京都や国土交通省とも一緒に進めることで、社会として「ロボフレ」な社会の形成に寄与するのではないかと考えているとまとめた。

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食産業を最新ロボティクスで革新 コネクテッドロボティクス

コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役 沢登哲也氏

「たこ焼きロボット」や「駅そばロボット」などを開発しているスタートアップ、コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役の沢登哲也氏は、同社のこれまでと現在を紹介した。コネクテッドロボティクスは2014年設立。最初は産業用ロボットコントローラを開発していた。2017年からピボットして、飲食向けロボットを開発している。

ミッションは「食産業をロボティクスで革新する」。以前は「調理を」だったが、最近、より広くなった。食産業分野の労働環境改善、人手不足解消、高い生産性を実現し、いつでも美味しく、健康な食を楽しめるようにすることを目指している。

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沢登氏によれば「自動化が難しいのは調理や加工ではなく、あいだを繋ぐところだ」という。食材の取り扱いや、検品だ。コネクテッドロボティクスでも周辺機器との連携を主眼においており、券売機やボイラーとの連携によって総合的に価値を出そうとしている。コネクテッドロボティクスはソフトウェアの会社で、基本的にハードウェアは開発していない。これまでに「たこ焼き」や「そば」、「ソフトクリーム」のロボットのほか、食洗機ロボットや、ホットスナックロボットなどを開発してきた。

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「今年は飛躍の年になると思っている」という。そばロボットは「そばいち 海浜幕張店」に入っているが、今後、都心の店舗にも数十台単位で入る予定があるとのこと。

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機械学習を用いて食品を検品、不良品を取り除くロボットの開発も行なっている。1時間に8kgの粒状ワークの検査が可能で、既にPoCを完了し、2月から稼働開始とのこと。

フライドポテトロボットはパートナーのタニコーと提携して3ヶ月くらいで製作し、福島県南相馬市の実験店舗で運用した。

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自動食洗機ロボットも開発している。ホシザキとはストレート型を、タニコーとはL字型タイプを開発している。

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コネクテッドロボティクスでは、レストランでは主食にフォーカスし、食品工場では盛り付け・検品に注力している。日本国内ではあまり目立たないフードテック企業だが、海外には多い。アームロボットではなく専用装置を作る流れもある。沢登氏は「最終的にはアーム型も専用型も生き残るのではないか」と述べ「調理スキルをプラットフォーム化するのが戦略だ。スキルをロボットにダウンロードして使ってもらえるようなものにしようとしている」と語った。

同社のビジネスモデルはRaaSで、単なる保守ではなくアップデートも継続的に続けていく。今後は特に、そばロボットのほか、単独でも使えるボイラーエコシステム(BES) 、すなわち「電気式茹で麺機の節電システム」を数百台単位で市場に投入していこうとしているという。

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また、リモートAI技術「REMOTE-OJT」を開発中で、これは人がPC画面で対象をクリックタッチで教師データを作成するものだという。

食品盛り付けロボットについては、経済産業省の「ロボフレ事業」の食品TCに入っており、3月にマックスバリュ東海に4台を納入予定とのこと。

最後に沢登氏は、2023年までにフライドポテト、ハンバーガー、冷凍麺ボイル、茹で麺省エネシステム、盛り付けロボットなどを国内で拡販し、2024年からピザ、寿司、ボウルロボット、おにぎり、丼、食品投入システムなどを開発して世界進出したいと目標を語った。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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