HTML5 Conference 2016が、9月3日に東京電機大学 千住キャンパスで開催され、30のセッションが行われた。
午前中のセッションでは「Webエンジニアもガチでロボットやってみない?」と題して、ロボットの開発と販売を手がける株式会社アールティの中川友紀子氏が登壇した。
中川氏は以前、日本科学未来館でASIMOの関連イベントを企画したり、安全ガイドラインやプレゼンテーションのシナリオ等を作成した経歴を持ち、更に、2015年にロボハブ(海外のロボット情報コミュニティ)が実施する「ロボティクスで知っておくべき25人の女性」に選ばれたことでも、ロボット業界では広く知られている。
中川氏は最近、Googleのディープラーニング(ニューラルネットワーク)を使った機械学習ライブラリ「TensorFlow」の勉強会で、自社開発のロボットアーム「NEKONOTE」(ねこのて)を使ったデモを行った。TensorFlowで機械学習を受けたロボットアームが鳥の唐揚げを選別してつかみ、所定の皿に入れるというデモ内容だった。勉強会に参加した多くのゲストはTensorFlowとロボットの組み合わせで動作するデモを見るのが初めてだったこともあり、話題になった。
HTML5 Conferenceのこのセッションではその「NEKONOTE」と、同社が開発したマイクロマウス製品も展示された。
中川氏は冒頭で自己紹介を行い、自身は当初ロボット等のソフトウェア・エンジニアになりたかったが、その頃は良いハードウェアがなかったため、ないものは作ろうということでハードを始めた結果、現在、会社としてはハードとソフトの両方が開発できる体制ができた、と言う。
最近はクラウドやビッグデータ、人工知能というキーワードとともにロボットも取り上げられるようになってきた。ビッグデータや人工知能とロボットは一見すると関わりがないように感じるが、ロボットで重要な要素はデザイン1割、ハード2割、ソフト7割で構成されていて、ソフトウェア技術の比重が大きい、という。
情報端末の発展を見ると、1980年代のワークステーションや大型計算機の時代から発展していき、パソコン、携帯電話、スマートフォンへの推移して現在に至っているが、今後はIoTが注目されることでセンサーのブームが既に到来していて、その先にはロボットとインダストリ4.0により、未来社会的な情報革命のようなことが起こると言われている。
中川氏は、具体的な課題として「産業用ロボット業界にIT関連の開発者の参入が順調には進んでいない」ことを例にあげた。
「シンギュラリティ」という言葉が注目されているが、シンギュラリティとはバイオテクノロジー、ナノテクノロジー(材料系)、ロボット・人工知能の3つの要素に着目したもの。バイオテクノロジーの進展によって計算機上でマッチングを行い、遺伝子解析もクラウドでできるようになり、更にはナノテクの発展によって材料が変わることでコンピュータやロボットの進化が劇的に起こるというもの。
材料系と計算機の発達が相まって大きく進化することがシンギュラリティのポイントであるとして、ロボットは現在の「Computer Aided」から「AI Aided」へと変わっていく、と説明した。
これは今までは回路やセンサーによって構成された端末に、コンピュータのプログラムが主体となる頭脳が乗っかって動作しているものが主体だったが、これからは頭脳にAIの支援が加わって動作するように変わっていくことを示す。そして、これはスマートフォンや家電なども含め、コンピュータ由来の頭脳を持ったものはAI化へと大きな変革を迎えていると言え、ロボットはその要素が当然含まれた存在として、より大きな発展を期待されていることを示唆したものだろう。(Aided:エイデッドは「支援」の意)
中川氏は、続いて「インダストリ 4.0」にも言及した。インダストリ 4.0(Industry 4.0)はドイツ発の情報革命的な構想だが、同様なことはアメリカでも起こっていてそれは「インダストリ・インターネット」(Industry Internet)と呼ばれている。両社の違いを簡単に表現すると、ドイツは中小や零細企業の工場をIT化する取り組みとしているが、米国はGEが中心となって、いち早くセンサーをつけてインターネットを接続してはじめよう、という点が異なると言う。日本はドイツと同様に中小や零細企業が大きな役割を果たしているが、おそらくインダストリ・インターネットの方が早く起ち上がるだろう、と中川氏は見ている。
ハードとソフトの進化を比較すると、ソフトの方が進化のスピードが早い。パソコンやスマートフォンは既に普及しているので良いソフトを作ればビジネスになるが、ロボットはナノテクなどの材料系の影響を受ける等からハードが進化するのには時間がかかる。そのため、現在のロボット業界では、クラウドやAI技術を取り込み、ハードより先行したソフト開発が進んでいる状況になっていると言う。
ロボットがネットに繋がり、クラウドを巨大な処理装置として使う時代であり、人工知能を活用して進化をしていくフェーズに入っている。だからこそ、多くのITデベロッパーがロボット関連の開発に携わって欲しい、と訴えた。
産業用ロボットでは先進国の日本だが、サービスロボットでは先進国に対して5年程度遅れている、と続けた。リーマンショック以来、投資が進まず、PepperやJiboをはじめとして、日本で開発されたロボットはほとんどないのが実状。ロボットはこれからももっと賢くなって、コミュニケーション能力が上がっていくことが求められているにも関わらず、産業用ロボットのデベロッパーが必ずしもITに強いとは言えないことから、サービスロボット業界を盛り上げるためにはウェブやアプリ、ソフトウェアを開発できるデベロッパーが更に求められていくという。少子高齢化問題を抱え、今後は発展途上国からの労働者人口も減少する可能性もあるため、この課題はロボット産業界にとって深刻だと言えるだろう。
中川氏は、ウェブとロボットの関係も重視している。
同社が開発した小型軽量の自社開発のロボットアーム「NEKONOTE」を紹介した。電動サーボながら俗に言う”柔らかい関節”を持ち、外力に対して柔軟な反応を示すため、人と協業する際の安全性が高い。ウェブ・プログラマーのためのロボットアームという特長を持ち、パソコンやスマートフォンのウェブブラウザからロボットを操作することができ、これを見ると、JSONコードで書けるJavaスクリプトでロボットが制御できる環境が整ってきたと言える。
NEKONOTEの動きはプログラム言語で書かなくても、ロボットを手で動かして動作を記憶させる「直接教示」機能(ダイレクト・ティーチング)も備えている。柔らかいものをつかむ技術もロボットとしてはとても重要な技術のひとつでなかなか制御が難しいことのひとつだが、冒頭で紹介したように、デコボコした形状の唐揚げをつかむことができることでも、技術的に高度なものが導入されていることがわかる。更に、ディープラーニングによる機械学習に対応した動作の研究・開発も中川氏は積極的に行っている。このセッションでもTensorFlow勉強会での動画が紹介され、機械学習の手順などが解説されると、会場に詰めかけていた来場者たちは真剣な表情で聞き入っていた。
ウェブは今後、クラウドとエッジ(端末)、IoTに繋がり、技術的に融合していく。そのエッジのひとつにロボットがあり、ロボットとウェブ、ロボットとクラウドの関係性は今後も確固たるものになっていくだろう。
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ニュースアプリの台頭こそウェブのUXにおけるアンチテーゼ 。及川卓也氏が語るウェブの課題とポイント – HTML5カンファレンス基調講演
ロボットは「Computer Aided」から「AI Aided」に移行、そしてシンギュラリティへ – HTML5カンファレンスでRTの中川友紀子氏が講演
HTML5 Conference 2016
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