HTML5 Conference 2016が、9月3日に東京電機大学 千住キャンパスで開催された。
次世代のWeb標準技術であった「HTML5」も、今では既に多くの業界に広がり、浸透している。このイベントではウェブを中心に最新情報や最新技術をキャッチアップする貴重なイベントとして、「Web技術者の祭典」を目指して開催されている。
ロボスタはメディアスポンサーとして、このイベントに参加した。
基調講演のトップバッターとして、慶應義塾大学環境情報学部教授であり、W3C/KEIO Site Managerである中村 修氏が登壇。
中村教授は「先日、ソニーの人と会って、たまたまHDRという技術の話になった。カメラや画像処理のあのHigh Dynamic Range。ピクセルごとに輝度が変えられるような技術があるのなら、ウェブでコンテンツを作るときにHDRがどうして使えないのだろう、ブラウザがHDRの技術を取り込んで、ピクセルごとに輝度を制御できればもっと面白いことになるのじゃないだろうか。
こんなことを考えていると、ウェブは雑誌やカタログやニュースなどの既存の媒体を置き換えることが発端で、その結果、既存のメディアに引っ張られてきたのではないか。今、話題になっているVRとかロボットだとか、今日のセッションにはロボットがテーマのものもあるが、ウェブはこれからの新しいデバイスや新しいデータの表現手法を取り込んでいくことが求められていて、それに応えることが大切ではないか」と語った。
更に「ビッグデータ、AI(人工知能)、IoTなど、話題になっている多くのバズワードの基盤とは何かを考えてみると、それはウェブだ。これらはウェブの技術の上に立脚して、もてはやされていると言えるので、言い換えればウェブ開発者がその基盤を支えているということが重要だと思う」と続けた。
「今日、一番言いたいこと、それは、ウェブとは何かと考えたとき、今のウェブは「Distributed Operating System」すなわち「地球をとりまくOS」であるということを再認識して欲しい」と中村教授。
中村氏は今までOSの研究を行ってきて、世界中を包み込むような分散OSを作りたい、世界中のコンピュータを繋いでその上で誰もが自由にアプリケーションを作れる環境をと、ずっと望んできたが、今考えれば、それこそがウェブこそが唯一、本当のDistributed Operating Systemだと感じた、という。
IoTやビッグデータはインターネットやウェブがあってこそ実現するものだが、様々なシステムやデバイス、センサー等を追加してハンドリングしたり、新しい環境に対して新しいセキュリティの方法を議論する必要があるが、それはウェブというOSをまさにみんなで開発していっている、というのにほかならないのではないか、というのが中村氏の視点だと言う。
更に中村教授は「欧州では「HbbTV2.0」が既にHTML5に準拠しているし、自動車業界も情報をウェブプラットフォームとして扱うためのAPIが研究されているし、メーター機器などの情報もウェブ技術を使われるようになるだろう。電子書籍では中心組織IDPF(E-Pub)とW3Cが統合に向けた話し合いを進めている。
電子書籍とウェブは同じようなことをやっているのなら、統合した方がメリットは多いだろう。
ブロックチェーンも興味深い。ブロックチェーンはビットコインなどが知られているが、興味深いのは分散システムで信頼をどうやって確保するのかに取り組んでいるところ。従来、日本で言えば日本銀行がお金を価値の信頼を確保してきたが、ウェブのオープンな考え方からすれば、誰かに信頼を確保してもらうのではなく、ブロックチェーンのように世界中のみんなの合意で信頼をどのように作っていくのか、という点に注目している」と語った。
ほぼ満員の会場は教授の話に熱心に聞き入り、ウェブ開発が相変わらず重要な位置を占めていることを再認識した様子だった。
次回は、グーグルでChrome開発に関わり、ドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)にも登場した及川卓也氏の基調講演をレポート(下記リンク)。
HTML5 Conference 2016