製造業・三品産業で活躍する協働ロボット カワダ「NEXTAGE」の活用シーン - (page 3)
協働ロボットを導入する際の課題とヒント ケミコン長岡の場合
「第3回ロボデックス」会期3日目の1月18日には「製造業で活躍する協働ロボット」というセミナーも行われ、こちらではABBの協働ロボットへの取り組みと、ケミコン長岡株式会社の市原博和氏は「協働ロボットを導入する際の課題とヒント」と題した、ロボットのユーザーの立場から見た協働ロボット導入事例の講演が行われた。後者は「NEXTAGE」を活用したものなので、合わせてレポートする。
ケミコン長岡は新潟県長岡市に拠点を置く、キャパシタ応用製品やカメラモジュールなどを製造する企業だ。協働ロボット導入の背景は人口減少による生産年齢人口の減少だ。今後、確実に労働人口は減る。いっぽう、本音としては、品質安定化、単純作業の代替ニーズ、ハンド交換や他ラインへの転用などの汎用性による投資効率、そして若手へのアピール、他社との差別化があったという。
協働ロボットは製造ラインで人と一緒に作業ができる。ロボット自身が小型化し、プログラムが簡便化した。ただし誤解も少なくない。ロボットにはできることとできないことがある。協働ロボットだといっても何でもできるわけではない。人と同じ作業はできないし、速度も人より遅い。画像処理を入れるとタクトはぐっと落ちる。工夫しなければ不良も発生する。ただし繰り返しには強い。プログラムができればすぐ稼働できるわけではない。微調整に時間がかかることが多いのもロボットの課題だ。また、価格が高い、扱える人材がいない、ティーチングが難しい、規格が統一されていないといったことも、よく課題として挙げられている。
10台のロボットを活用 機械的なスイッチは残す
ケミコン長岡では、現在は10台のロボットを導入し、画像処理を使った検査やAGVを使った稼働範囲の拡張などを行なっており、今後は混流生産、ばら積みピッキング、汎用ハンドによる作業範囲拡大、ティーチレスにチャレンジしたいと考えているという。
導入しているロボットは従来型のロボットに近い不二越製の多関節ロボット、カワダロボティクスのNEXTAGEが4台、川崎重工業のduAroが1台、DOBOT Magicianもいまテスト中とのこと。ピックアンドプレイスのほか、半田付け、洗浄、基板分割などに用いられている。ユーザーとして、いろいろなロボットを試しているという。
NEXTAGEについては、2013年「国際ロボット展」の前に流れた、ユニクロのヒートテックのCMで知ったとのこと。市原氏は、問い合わせをしてやってきたハイエースからロボットを下ろして、すぐに動き出したことに感銘を受けたと当時を振り返った。すでに導入後4年経っている。
カメラ部品搭載工程、はんだ付け工程、有機溶剤を使ったフラックスの洗浄工程+基板分割の工程などにNEXTAGEを使っている。最初導入したときには「どれだけ実際に作業できるのか」と懸念して念を入れてチェックしていたが、今では人間よりも優秀な部分があると考えているとのこと。
不二越のロボットはからくりと組み合わせて、ピックアンドプレースとシール貼りに用いている。ラインはロボットが故障した場合に人間に入れ替えられるように、あまりI/Oを使っておらず、機械的なスイッチをそのまま残して使っている。これが協働ロボットを使うときの一つのキーワードになるのではないかと述べた。
目的の絞りこみと分析が必須
協働ロボット導入そのものは目的ではない。市原氏は、目的はロボットを稼働させて「効果を出す」ことだと強調した。品質改善を目的にする場合もあるだろう。その目的をきちっと整理しないと、時間がかかってしまう。工程分析と動作分析が必要だ。またロボットはなんでもできるわけではない。人とロボットの違いを理解しなければならない。ロボットのティーチングの手間、さらにその前後の面倒もある。最初からうまくはいかないので、経営には覚悟が必要だ。リスクアセスメントが必要であることはいうまでもない。
協働ロボットが生きる領域は、単純な作業で少量を生産しなければならない領域だと考えているとのこと。大量に作るのであれば専用設備、複雑なのであれば人手のほうがいい。
陳腐化させないためには専用機にせず、累計稼働時間を伸ばすこと
ロボット導入の課題に関しては、補助金やリースの活用、ロボットメーカーやSIerへの打診などが必要だと述べた。また導入済み企業への見学はイメージを作るためにも重要だ。使い続けるためには若手を中心とした社内での人材育成も大切だ。
陳腐化させないためには、専用機にしないことが重要だという。ハンドチェンジの活用、I/Oレスとしているのもそのためで、ケミコン長岡ではNEXTAGEがトグルスイッチを操作し、専用設備のボタンを押したりして作業している。作業エリアは一列に並べたインライン方式ではなくマルチアクセス型としている。ロボットは向きを変えることで、異なる工程の作業にあたる。体をグルッと回転させられるNEXTAGEならではの使い方だ。
また一時的な仮置き台を使うことで一時的な停止を防ぐことができるし、画像処理はできるだけ使わないほうがいい、使うなら均一なライティングが必須と現場視点でコメントした。また立ち上げ時間の短縮のためにはアルミ架台などを活用して現場に近い模擬ラインを作ったりもしているという。からくりを活用した前後工程の工夫も必要だ。これらの工夫でロボットの累計稼働時間を伸ばすことができる。
メーカーへの希望は操作の共通化/標準化、立ち上げ時間の短縮
最後に市原氏は、ユーザーの立場から、ティーチングの共通化/標準化、自動ティーチングによる立ち上げ時間の短縮、画像認識技術の簡便化、低価格化、操作性などへの対応をロボットメーカーにお願いしたいと締めくくった。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!