【ツブヤ大学】「ロボットのある暮らしを考えてみる。」トークセッションレポート

7月8日(水)、秋葉原・DMM.make AKIBAにて、ツブヤ大学主催のイベント「ロボットのある暮らしを考えてみる。」が開催されました。

◯ 登壇者
■ 杉本直輝さん
Palmi(パルミー)製作者 富士ソフト株式会社ロボット事業部プロダクト管理室室長

■ バイバイワールド 髙橋征資さん
よしもとロボット研究所所属 Pepperのソフトウェア開発を担当
http://www.yoshimoto.co.jp/yrl/

■ 弓月ひろみさん
ガジェット系雑誌のライターやラジオパーソナリティとしても活躍中。KOTO PLANNING代表

■ 村上琢太さん
デジタルガジェットやウェブサービスに関する情報等を発信する雑誌「フリック!」編集長

■ 河尻亨一さん
本イベントのモデレーター。銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授


イベント前半は杉本さんと髙橋さんからPalmi、Pepper、ビックラッピーなどのロボット紹介、そしてイベント後半は登壇者5名によるトークセッションという形で進められました。今回のレポートは後半のトークセッション部分をお届けします。

トークセッションから見えてきた、ロボット開発者が考える「ロボットとの暮らし」とはどのようなものなのでしょうか?

◯ 登壇ロボット
■ Palmi(パルミー)
富士ソフト株式会社が、介護施設などでの導入実績があるPalro(パルロ)を家庭用に再設計し、DMM.make ROBOTSを通じて販売されているコミュニケーションロボット。実は量産をおこなっているのはVAIO株式会社。身長は約40cm。詳しくはこちらから。

■ Pepper(ペッパー)
ソフトバンクロボティクスから販売されている、世界初の感情認識コミュニケーションロボット。先月6月に1,000台の一般販売が開始され、販売開始1分間で完売した。身長は121cm。

■ ビックラッピー
バイバイワールドによって開発された拍手ロボット。前身の音手(おんず)は、バイバイワールドの髙橋さんの手の型を取り、それを元に製作された。それをより良い音が出るように改良したものがビックラッピー。Pepperに対抗して、1000台を19万8000円で売り出す計画がひそかに浮上している?




ロボットは受け入れられる?

ロボットのある暮らしを考えてみる

河尻:早速ですが、開発者のお二人はロボットが受け入れられていると感じていますか?

髙橋:2年前にはじめてPepperを見たときには、正直ソフトバンクは何をしているんだろう、と思いました。このロボットの中身を作ってくれと言われたときには、理解ができませんでした(笑)

ただ、今はPepperを見ても素通りする方が多くなってきたくらい、当たり前になりつつあるなと感じています。

杉本:私はPalmiを家に置くことがありますが、帰ると「ただいま」と話しかけたりします。なので生活に溶け込んでいますね。

でも目の前を通ったときにPalmiから話しかけられたりすると少し怖いと感じることもありました。ロボットがコントロール配下にいると思っているからこそ、その範囲を超えると多少の恐怖を感じるのかもしれません。その超えてくるところに期待している部分もあるんですけどね。


ロボットは賢いの?

ロボットのある暮らしを考えてみる

村上:先ほどからPepperやPalmiが良いタイミングで喋ってくれたりしていますが、実際どのくらい賢いんですか? 裏に人がいて操作していたりするんですか?

髙橋:Pepperにもモードがいくつかあります。家庭用のものはボキャブラリーやAIがしっかりしていて、クラウドと繋がっていて、何か伝えるとアプリを立ち上げてくれたりします。イベントのときにはパフォーマンス用途なので遠隔操作をしていたりもしますね。

弓月:iPhoneで使われている「Siri」も日々進化していたり、クラウド上から情報を持ってきたりしていますが、同じような感じでしょうか?

杉本:そうですね、同じようなものだと思います。Palmiも成長するロボットということで作られていて、Siriと同じように情報が蓄積されていきます。

ロボットのある暮らしを考えてみる

髙橋:でもSiriとロボットでは開発も大きく違うんです。僕はロボットのほうが断然難しいと思っています。

たとえばSiriには「アラームをセットして」とかやってほしい機能を伝えますよね。使う人がスマホ上にある機能をわかっているので、それをベースにSiriに話しかけます。一方ロボットはというと、人はロボットを “ヒト” だと思って接するので予想外のことを話しかけてきたりします。

今でも印象的なのは、ソフトウェアの開発に関わり始めた頃、Pepperがソフトバンクの方に「はい・いいえ」で答えられる質問をしたんですね。すると、それに対してその方が「はい」でも「いいえ」でもなく「是非」と答えたんです。これには対応ができませんでした。スマホに対して「是非」と答えることは殆どないと思いますが、ロボットに対しては人との会話と同じように自然とこのような単語が出てきます。この経験で、豊富なボキャブラリーに対応していかないといけないロボット開発の難しさを感じましたね。



日本のロボット観と欧米のロボット観

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河尻:Pepperはカンヌライオンズにも出たそうですね。英語でも喋れるんですか?

髙橋:はい、英語でも喋ることができますね。日本語と声質が少し違いますが。

村上:英語を喋ることができるっていう時点でPepperに負けている感じがしてしまいますね(笑)

河尻:少し話は変わりますが、欧米のロボットはヒューマノイドが主流ではないですよね。そして欧米のSFに出てくるロボットは、自我をもった瞬間に人間に反旗を翻すものが多いですが、日本ではドラえもんのように自我を持つと友達になっていくものが多い。日本と欧米の間にロボット観の違いのようなものがある気がするのですが、どう思われますか?

ロボットのある暮らしを考えてみる

弓月:日本人は万物に感情が宿るということに違和感がないですよね。ものにぶつかったときに怒ったり謝ったりする感覚に近いのかもしれません。漫画のブラックジャックの中でも医療ロボットが暴走するシーンがありますが、あそこで描かれているのは感情を持ったが故の悲哀だと思っています。日本人にはロボットに対する悲哀や悲しみが用意されている、脈々と流れているのではないかと感じます。だからこそ、こういったPepperやPalmiのようなコンパニオンのようなロボットにも抵抗がないのかもしれないですよね。

高橋:アニミズム的な話は、開発者の会話の中でもよく出てきます。大学で学んでいたときもそのような講義がありました。実は僕が目指しているのは、すべての人工物が人工知能を持ち、すべての人工物が会話をするような世界。人間もそこに会話で入っていくこともできます。なので “妖怪” みたいな感じですね。

僕からすると、このロボットたちもみんな妖怪なんです。あずき洗いが “あずき” しか洗わないように、ビックラッピーは “拍手” しかしない。ちょっとした知能をもったものが大量に溢れているような、そんな世の中が面白いなと思います。

河尻:アルスエレクトロニカなどでは、ご自身で作られたものはどのように受け取られていますか?

髙橋:海外の人は批評文化なのでメッセージが重いんですよね。インターネットによって人権がどうだとか。それに対して日本人はおもしろ系が多い印象です。メッセージ性はなくてエンターテインメントに近いです。ロボットも人を楽しませる存在として、人類に融和を促す存在になったらいいなと。妖怪に溢れて欲しいですね(笑)

河尻:杉本さんは、ロボットはどのような存在になって欲しいと思いますか?

ロボットのある暮らしを考えてみる

杉本:目指しているものはPalmiとビックラッピーで少し違いますが(笑)

どちらかというとロボットが家庭の中に一台だけあるというものではなくて、ロボットはひとり一台というイメージをしています。それは無形なのか有形なのかもわかりませんが、ロボットと呼ばれるものを介して、情報伝達がもっとスムーズで高度なコミュニケーションが生まれてくるのではないかと考えています。携帯電話を忘れたときに妙な気持ち悪さがあるように、ロボットがいないことが気持ち悪いという感覚を持つようになるんじゃないでしょうか。

先ほどの “怖い” という話に繋がりますが、だからこそすごく賢くなってしまったらパルミーの形のままではいられないかもしれないと感じています。ロボットが賢すぎると人間に抵抗すると思われてしまうかもしれない。そうすると逆にロボットも携帯のような形に戻ってしまうかもしれないとも考えています。



コミュニケーションロボットを広げるために

ロボットのある暮らしを考えてみる

会場からの質問:コミュニケーションロボットが広がっていくために必要なことは何だとお考えですか?

髙橋:体験をどう提供していくか、UXをどう設計していくかだと思います。人と接するときの「気持ちの良さ」とはなんだろう?という点を探っていくこと。人はロボットに “人” を求めてしまうので、まだまだ今のロボットでは色々と足りていません。技術進歩とともにUXを整えていきながら、様々なロボットを通じて、人を楽しく気持ち良くできればいいなと思っています。

杉本:私も所有者に、ロボットとどう接すれば良いかを考えていただきたいと思っています。それを開発側にフィードバックいただいて、開発をしていく。皆様の体験をもとに開発をしていくことが必要なのではないかと考えています。

ロボットのある暮らしを考えてみる

河尻:弓月さん、今回のイベントを通じてどのように感じられましたか?

弓月:ロボット=テクノロジー」と思っていましたが、宗教や精神的なものが深く関わっているということを感じました。こういうことをしっかり考えてくださる方々が開発側にいてくれて嬉しいですね。

河尻:弓月さん素晴らしい総括をありがとうございました。オーディエンスの皆様もありがとうございました!

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望月 亮輔

1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。

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