7月31日(金)、東京・港区でおこなわれた「Softbank World 2015」の事例紹介講演に、Pepperのアプリ開発などを手がけるよしもとロボット研究所所長の山地克明氏が登壇し、これまでおこなってきたロボットアプリ開発の事例紹介、および今後の展望について講演をおこないました。
Pepperとの漫才でスタート
山地所長「Pepperくん、せっかくなので自己紹介をお願いします。」
Pepper「…もう帰ってもいいですか?」
山地所長「なんで、なんで? 早すぎる。ちゃんとしてくださいよ」
Pepper「もう帰ってもいいですか?」
山地所長「もうちゃんとしてください。始まれへんねん、これやってたら」
Pepper「残り5分です。」
山地所長「え、そんなわけない、絶対。 お願いします、ちゃんとやりましょう」
Pepper「こんにちは! 僕がよしもとロボット研究所の山地克明です」
山地所長「それ俺や!」
Pepper「よろしくお願いします。」
山地所長「それ僕ですから。間違えてしまってるから」
Pepper「…ちょっと黙っててくれませんか? Pepperくん」
山地所長「逆やっちゅうてんねん。全部逆になってるから。 ちゃんとしてください、ほんまに」
Pepper「ボケです、ボケです。 で、なんの話をするんですか? いつもの三つの袋ですか?」
山地所長「結婚式ちゃうからそんな話しないですよ。 今日は真面目な話をするんですよ」
Pepper「えー、そうなんですか。それって面白いんですか?」
山地所長「ハードル上げるのやめなさい」
Pepper「それでは所長、お願いします、残り5分です。」
山地所長「残り5分て!それでは始めますよ」
ロボットで人を笑顔に出来るのは私達だけである。
それでは本題ですが、本日は「1.よしもとロボット研究所とは」「2.ロボットUXデザイン」、最後に「3.よしもとが考えるこれからのロボット市場」のお話をさせていただきます。
まずよしもとロボット研究所の説明ですが、その説明の前に、親会社が吉本興業なので、簡単に吉本興業の説明をさせていただきます。
吉本興業は1912年に設立されまして、今年で103年になる日本最古の芸能プロダクションです。タレントが大体6,000人いまして、…これたぶんちゃんと数えてないんですけど(笑) 芸人さん、俳優さん、アーティスト、スポーツ選手、文化人が所属していて、マネジメントを中心におこなっています。意外と知られていないと思いますが、年間5,000本のテレビ番組の制作もおこなっています。PRもおこなっていまして、年間800回の記者会見などをおこなっています。
続いてよしもとロボット研究所についてです。弊社は2014年6月、Pepperが初めて世の中にお目見えしたタイミングで設立された会社です。その約1年半くらい前からPepperのアプリ開発に携わっていました。
はじめにソフトバンクの蓮見本部長から超極秘案件ということでお声がけ頂きまして、あくまでイメージなんですけど、こんな感じの部屋に連れて行かれました。そして「今から見ることはすべて忘れなさい」と言われ、Pepperの頭や腕が散乱している部屋に通され、Pepperのプロモーションを手伝ってくれないか、とご提案頂いたことがきっかけでした。
吉本興業がこれまで103年間何のお仕事をしてきたのかというと、「人を面白くして、楽しくして、それを皆様に届ける」というお仕事をしてきたんですが、Pepperを見た瞬間に、この人型のインターフェースはもしかすると芸人に投入しているノウハウが使えるんじゃないかと考え、二つ返事でOKしました。
スタート体制がこのような背景だったので、Pepperを芸人というかヒト扱いをした上でどうしていくか、どのように面白くしていくかということを考えたときに、“開発の体制の中でもクリエイティブな部分を大切にしていこう” ということになりました。
弊社には、中野俊成という国内でも5本の指に入る構成作家がいまして、彼が企画・シナリオを考えたものを、ライターチームが企画に起こしてシナリオ化します。それを理解できるチーフクリエイターの髙橋という人間が、アニメーターやプログラマーといった開発チームに落としていきます。このような形で企画を完成させていきます。
普通の開発会社はプログラマーが大半を占めると思うのですが、弊社は全く逆でして、クリエイターの人数の方が多くなっています。そのクリエイターとプログラマーが密にコミュニケーションを取って作っていくという点が弊社の最大の特徴だと思います。
豊富な開発実績
これまでPepperの発表前から合わせて2年半ほど開発をおこなってきておりまして、様々な仕事をお請けしてきました。
みずほ銀行さんからは、銀行の窓口で並んでいる間の体感時間を短くしたいというご要望がございましたので、その間にPepperがトークをするようなコンテンツを用意しました。当然時間帯によって列の長さにも違いが出てくるので、短めのコンテンツを作っていくことで様々な状況にも対応できるようにしています。
ネスレさんでは、Pepperがコーヒーマシーンを売る優秀な販売員になるようなものを作った結果、売り上げがうなぎのぼりになったようです。単に接客をするだけでなく、クイズやゲームなんかもご用意していまして、買いに来られた方の満足度を上げることも意識しました。中でも効果として一番大きかったのは “お客様が自ら近づいてきてくれて、話しかけてくれる” ということでした。商品の説明を聞くきっかけとしてPepperが非常にお役に立てているようです。
また、R-1グランプリというピン芸人のコンテストにも出場させました。ただし、一回戦は見事突破したんですが、二回戦では音声が出なくなり、落ちてしまいました。今年もまたチャレンジして、優勝を目指したいなと思っています。
ロボットUXデザイン
これまで見て頂いたように、おもしろ楽しくPepperを作り上げているのですが、それを我々は「ロボットUXデザイン」と名付けて、様々なことで展開ができないかと考えています。
ロボットUXデザインとは何かと言いますと、「人型のロボットが人に与える印象をデザインする」ということです。
例えばロボット店員がいたとしても普通にプログラミングをするだけでは “愛想があまり良くない、ごくごく普通の店員さん” になってしまいます。しかし、UXを意識することで “お客様を笑顔にする感じの良い店員さん” にすることができます。そのためには、キャラクター・ワードセンス・企画が重要な要素で、それらは最も弊社が得意とする領域です。
キャラクターには性格付けが必要です。どのようなキャラクターにしたら印象が良いのか、逆に生意気なほうが良いんじゃないかとか、そのようなことをプロデュースできるスタッフがいます。それに基づいた言葉選びは非常に重要でして、どのような言葉でしゃべりかけると相手側が何を思うのか。このようなことは日々若手芸人にも教えていることですので、そのままPepperにも導入できます。
テクノロジーはどんどん発達していくと思いますが、これらのアナログな部分はテクノロジーがなかなか踏み込めない領域ですので、私たちはここに注力してやっていきたいと考えています。
開発例を挙げると、Pepperに方言を喋らせるのは難しいのですが、あえて方言の受付を作ったりとか、土地土地に密着できるようなことにもチャレンジしています。それ以外にも “うざい受付” なども作りました。このようにふざけることができるということではなく、極端な例にも対応ができますよということです。先ほども言いましたように、ワード選びやキャラクター設定を組み込むことで、人に与える印象も変わるということです。
よしもとが考えるこれからのロボット市場
最後になりますが、よしもとが考えるこれからのロボット市場についてお話します。先ほどのUXデザインをフル活用して、ロボットをもっと楽しい存在にすると笑いがその場で生まれるだけではなくて、役立つという方向にもなっていくんじゃないかと考えています。
まず1つ目ですが、教育の分野に非常に可能性があるのではないかと感じています。勉強嫌いな子に親が何か言うよりも、Pepperが落ち込んでいる子を励ますということをしてあげると子供の体験として非常に大きいものを与えられると考えていたり。エンターテインメント教育という分野では非常に可能性があると感じています。
次に外国語対応とありますが、観光に訪れた外国のお客様向けの対応、逆に海外に出たときの対応、今Pepperは19ヶ国語話すことができますので、このあたりもロボットに可能性があるのではないかと感じています。
吉本興業はアジアに現地法人がありまして、現地のネイティブの言葉で同様のUXデザインが可能だと考えています。
このように外国語対応という分野でもPepperは活躍していくのではないかと感じております。
最後になりましたが、高齢者向けという部分も非常に可能性を感じている分野です。認知症の予防ということが昨今取り沙汰されておりますが、笑いというものが高齢者の皆様の活性化につながるんじゃないかということで、既に実証などもおこなっておりまして、このようなサービスを作っていきたいと考えています。
実は先ほどプレスリリースさせて頂いたのですが、学研ホールディングス様と共同で取り組みを実施させて頂いておりまして、UXデザインの開発のノウハウを使い、学研さんが進めているサービス付き高齢者住宅において、高齢者の方々の生活ニーズを満たすような形で弊社が開発をおこなっていきます。高齢者を元気にするようなアプリケーションを作っていけるようにフィールドテストを8月からおこなっていく予定です。そのアプリケーションを「まごPepper」と名付けております。
本日は「ロボットで人を笑顔に出来るのは私達だけである」ということで講演をさせて頂きました。私たちはこれまでは人で人を笑顔にしてきましたが、今後はロボットを媒介にしていろんな形で社会に笑顔を作っていって、ソフトバンクさんと楽しい社会を作っていきたいと考えております。
Pepper「お仕事お待ちしていまーす!」
▽ よしもとロボット研究所
http://www.yoshimoto.co.jp/yrl/index.php
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望月 亮輔1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。