9月4日(金)ワン・トゥー・テン・デザイン 東京オフィスにて、トークセッション「I.C.E CREATIVE LOUNGE」が開催されました。トークセッションには、全高4m・重量4tの巨大ロボット「クラタス」を開発した倉田光吾郎氏、超人的な演奏能力を持つロボットバンド「Z-Machines」を開発した松尾謙二郎氏、そして世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper」の開発に携わった長井健一氏が登壇し、プロジェクトにかける想いの共有や、未来への展望についてのディスカッションが行われました。
◯ 登壇者
倉田 光吾郎氏(水道橋重工 CEO / Co Founder)
1973年 東京生まれ。独学にて鍛造を学び打撃系クリエイターとして活動。2005年 1/1スコープドック、2007年 カストロール一号の製作を経て、2011年人型四脚陸戦型巨大トイロボット クラタスを製作。アメリカの巨大ロボ製作会社のメガボッツ社に喧嘩を売られ、2016年に初の巨大ロボ同士の殴り合いを予定している。
松尾 謙二郎氏(インビジブル・デザインズ・ラボ 代表)
サウンドを軸にしたメディア・アートクリエイターチームとして活動中。”音”という見えないメッセージと”アイデア”という見えないデザインを、”見える”ようにしていくことがコンセプト。”作家として常に新鮮なものを作っていく野生的な姿勢”、をモットーに日々作品を生み出している。
長井 健一氏(1→10Robotics代表取締役 / 1→10design取締役 / 最高技術責任者 / テクニカルディレクター)
およそ3年に渡り、ソフトバンクのコミュニケーションロボットPepperの開発に参画。これまでのFlashでの体験制作やWebシステム開発を経験を基に、主に会話体験やキャラクター開発において、クリエイティブ面・技術面でプロジェクトを牽引してきた。カンヌライオンズ、グッドデザイン賞など、国内外の受賞経験多数。1980年新潟市生まれ。
ファシリテーター:鍛治屋敷 圭昭(AID-DCC Inc. プログラマー、ディレクター)
某広告代理店にてストラテジックプランナー、制作ディレクター、プロデューサーなどに従事したのち、やっぱり自分で手を動かしてつくりたくなり、2014年2月にAID-DCC Inc.に入社。現在はフロントエンドのプログラミングを中心に、テクノロジーが必要とされる業務全般を担当。
ロボットと人工知能
鍛治屋敷
Pepperには人工知能が搭載されているそうですが、実際どのようなことができるんですか?
長井
Pepperは、これまでも人工知能を通じてさまざまなアプローチがされてきていますし、実際に組み込まれています。会話部分もそうですし、先日発表のあったディープラーニングもそうです。これは一般論ですが、ディープラーニングにはそれを解析するために大量のデータが必要で、そこから確率的・統計的に判断を行うという仕組みです。ですから、ディープラーニングは画像解析や音声解析には高い効果があると言われています。一方で、会話などの自然言語処理には今後も研究開発が必要で、プロジェクトにあるAIチームといっしょに、さまざまなアプローチを検討しています。
倉田
ロボットって今まさに夢が現実になってきている段階なんですよね。そして現実になったという喜びと同時に、現実ってこんなものかというがっかり感がついてくると思うんです。なのでロボットが本物になっていくことが果たして結果的に面白いのかどうかは別の話だろうと思っていて、進めば進むほど夢がなくなってつまらなくなるのかもしれないという危惧を持っています。
AIの話を聞いていて思ったことは、昔人工無能というものがあったと思うんですが、それが拡張された程度でしかないと聞くと少しがっかりしてしまうんですよね。まだ夢を持っていたいし、作る側もそれを意識して夢を持たせながら一緒に楽しもうよっていうところをもう少し出していってもらいたいなと思いますね。
松尾
そういう意味ではクラタスってすごく夢が詰まってますよね。
倉田
夢しかないですよね(笑)
松尾
現実的なところから考えると、でかいものを作ろうというのはめちゃくちゃリスクなんですよ。僕らが作ったZ-Machinesも2mくらいありますけど、海外からオファーがあって輸送の見積もりを取ると、400万~500万円くらいの見積もりが返ってくるんです。そうすると、じゃあ無理ですねってなってしまうこともあります。そういう意味で、ビジネスとして考えたら「運べない」っていうのは全然だめなので、軽いものとか小さいものにしようという流れは普通なんですが、クラタスはそういうのをガン無視で作っているのが男だなと思います。
倉田
商売ベースでものを考えたら皆同じ方向を向くじゃないですか。なので作家として逆張りをしていったというだけですよ。ただ、何かをするために小さくしていくということは大事だと思います。クラタスもアトリエの入り口を出れないんですよね。
鍛治屋敷
え、出れないんですか?(笑)出すときはどうしてるんですか?
倉田
分割しているんですよ。でも分割するだけでお金もかかるんです。
松尾
業者を呼んで分割をして、トラックをチャーターするからうん十万はかかりますよね。
ロボットが人型である意味
松尾
数十年前からロボットって結構良いものが作られていますよね。でもそれで残った会社はあまりないので、今後ロボットビジネスの広がりはどうなるんだろうな、という疑問があるんですが、そのあたりはどのように感じていますか?
長井
一個面白いデータがあって、ソフトバンクさんがPepperを店舗に置いている中で満足度のアンケートを取っているんですよね。結果を見てみると、女性は20代~70代までどの世代も80%以上の人が満足したと答えているんです。「可愛い」という反応が非常に多いんですよね。一方男性は20~30代の評価があまり良くないんです。満足したと答えた人は5〜6割くらいでした。でも40代やそれ以上の家庭をもつ年齢になると、7割以上の方が満足したと答えたわけです。
フランスのアルデバラン社がPepperの設計を行っていたとき、女の子として設計していたんですよね。一方で、ソフトバンク側の開発コードは「太郎」。鉄腕アトムやドラえもんの影響もあるかもしれませんが、僕もどちらかというと男の子のイメージを持っていました。しかし、アンケート結果や現場での反応を見る限りでは、アルデバランの女の子という感覚も大切なんだなと感じました。いまは、「可愛い」と感じてもらえるように意識して開発をしています。
松尾
人型というのがいかにキャッチーなのかということを、ロボットを作るとすごく感じますよね。僕はZ-Machinesの開発のときに最初人型にすることは反対だったんですけど、共同開発者が人型が良いと懇願するので泣く泣くやった形だったんです。でも結果、演奏したときにものすごくリアリティがあったんですよね。顔があって頭を動かすだけだったんですけど、それが本当に演奏をしている感じがしたんです。そのときに人型であることの大切さを感じましたね。
松尾
日本はアトムの影響で人型じゃないとだめだというところがあるんですかね。
倉田
僕はアトムではなくて、マジンガーZ派なんですよね。どうして人間と同じ自律するものが必要なんだろう、と。「おれが強くなるためにこれがいるんだ」という気持ちのほうが大きいです。ロボットの友達は特に欲しいとは思わないですね。
鍛治屋敷
事前のアンケートで会場から質問があったんですが、皆さんFavoriteロボっていますか?
長井
Favoriteロボですか(笑) 僕はロボットアニメはほとんど見たことないですね。
倉田
実は僕もロボットアニメとか好きではないんですよね。
鍛治屋敷
え、そうなんですか。ボトムズとか作られていたのは?
倉田
あれも見たことなかったんですよね。
鍛治屋敷
まじですか(笑)
倉田
プラモデルでは作ったりしていたんですけど、造形がでかくなったらどうだろうということで作りました。
長井
聞きたかったんですけど、人型のものを作ったときにモチベーションって変わりましたか?
松尾
僕は動いた後で感じましたね。
長井
僕も最初は気持ち悪いなと感じたんですけど、動いて目の前にきたらこいつ可愛いなって思うようになったんですよね。そのときに心の距離がだいぶ近くなりました。クラタスもそういう感覚はあるんですか?
倉田
これが不思議で、自分で操作しているとそうでもないんですよね。ただアスラテックにいる吉崎航が来たときに、彼の作ったV-sidoというシステムをクラタスに導入したんですが、それを入れると急に動きが変わるんですよね。そのときはゾクっとするものがありましたね。人を模したものが出てきて、でも人じゃないっていう瞬間に、何か特殊な感情が生まれるんでしょうね。
日本とアメリカのロボット観の違い
鍛治屋敷
海外は日本と感覚が違うと言われますが、日本は特別な環境なんですかね?
長井
日本は特殊とは言われますが、でも海外で行われているカンヌライオンズでPepperと話をしたりハグができるという企画があったんですけど、それがものすごく好評で、ハグをしただけで涙を流す人もいたらしいんです。なので共通の感覚はあるのかもしれないなと。
会場
アメリカのロボット観はすごく実利的なものがある気がしています。日本は反対にそこが強みでもある気がしていて、エンターテインメントとかコミュニケーションという部分に特化していったほうが強みを発揮できるのかなと思うんですが。
松尾
元々ロボットは軍事目的だったはずなんですよ。アメリカみたいにそこを露骨にやれるところはガンガンお金を投入してそういうことをやっても誰も批判しないですけど、日本でやったら総叩きですよね。その辺りのモチベーションがまったく違うという意味では、たしかにエンターテインメントに特化していくほうが日本の強みを生かせると思いますが、結局どうやって利益を得るかというところでふん詰まっちゃうんですよね。だから救護ロボットとか介護ロボットとか社会に踏み込めるところを探すというところになって、同じ方向に行ってしまいがちですよね。その点クラタスはまったく別の方向を向いていますよね。
倉田
日本では、まだロボットを夢を持って作れるんですよね。一方アメリカは「まずお金」という考え方です。だから今僕が懸念しているのは、MEGABOTSをやった後で、これって金になるんじゃないのと思った会社がたくさん入ってきてしまったら、僕らがやっていることがつまらないと思われてしまったりするかもしれないということです。一番最初にやれることは面白いし、それが火種になってすごいことになるかもしれない。ただ、それの当事者に自分がなれるかというと別の話なんですよね。
でも一番最初にやった人って一番得なんです。なぜかというと一番最初に作った人は「すごい」って言ってもらえる、でも二番目の人は言ってもらえないんです。だからモチベーションに違いが生まれます。加えて、一番最初に突っ走っていれば、法律の先を越えるので、法律が出来る前になんでもできてしまいます。
勿論あるものを良くしようというのも一つの手だし、もっとすごいものを作ろうっていう考え方もあるとは思うんですけど、とりあえず見たことないことをやって走ってみようっていうのがすごく大事だと思います。で、本人がちゃんとやっていて、やっていることを綺麗に表現できれば、それに手助けしてくれる人が必ず出てきます。なので、自分ができないことがあっても「誰かそのうち助けてくれるや」って思いつつ走っていけば、たぶんなんでも意外とできます。
▽ I.C.E(Interactive Communication Experts)
http://i-c-e.jp/
ABOUT THE AUTHOR /
望月 亮輔1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。