1→10 Roboticsが伝える「体験して覚えるシナリオ制作ワークショップ」に行ってきました。
10月11日(日)、アトリエ秋葉原で開催された「体験して覚えるシナリオ制作ワークショップ」に行ってきました。
Pepper のキャラクター設計や会話開発を行った、ロボアプリ開発の先駆者こと 1→10 Robotics 長井さんによる、ワークショップ形式の勉強会です。
イベントページには、以下の説明がありました。
本イベントでは課題を提示し、その課題をこなすことで実践的な「シナリオ」の作成方法を学ぶことができます。
どのようなPepper アプリを開発するにしても、会話とそのシナリオのクォリティはとても大切な要素となります。この機会にシナリオ作成のコツを学び、アプリのクォリティを向上させてみてください!
https://Pepper.doorkeeper.jp/events/32376
会場はおなじみのアルデバラン・アトリエ秋葉原。一部ではPepper開発の聖地と呼ばれています。
1→10 Robotics 長井さんによるワークショップ、1→10 Robotics(ワン・テゥー・テン・ロボティクス)の自己紹介でスタートしました。
2015年9月発足。Pepperの開発を3年にかけて行ってきたチームが独立して創設された会社です。
1→10Robotics, Inc.
http://www.1-10.com/robotics/
人間とロボットとがやさしさでつながり合う未来の実現を企業理念に、Pepperを中心とした、ロボットテクノロジー全般を専門的に取り扱います。
今日の講師、長井さんの自己紹介です。
Flash技術を中心に、様々な領域での体験づくりをしてきました。 その経験を元に3年前からPepperの人工知能・感情認識に連携した会話エンジンの開発に関わってきました。
Pepper | Works - 1→10design, Inc.
http://works.1-10.com/product/Pepper/
1→10 Robotics、実績の紹介です。
最初に紹介の実績は「ソフトバンクショップ ダイアログ」です。
全国のソフトバンクショップで接客を行うPepperの会話ベースとなるクラウドの部分の開発を担ってきました。開発に携わった会話コンテンツは、最終的な発話に至るまでにクラウドAIや様々なセンサーと連携しています。
次に紹介の実績は「未来の会話。ペッパーとペッパーと、あなた」です。
2人のPepperと人間の3人で会話するというもの。途中人間を差し置いてPepper同士が話し合ったりします。
動いている様子はこちらの動画をご覧ください。
ソフトバンクショップのダイアログをベースに作ったそうなのですが、実物を見ると、格別に面白い体験ができるそうですよ。
次に紹介の実績は「Pepperと対戦ゲーム、やってみた!!」です。
こちらの動画をご覧ください。
Pepperと対戦ゲームを行うのですが、Pepperが劣勢になるとPepperにもパワーアップアイテムがやってきます。
ゲームで人間にはいつもパワーアップアイテムがでるけど、Pepperにしてみると、劣勢になったらパワーアップアイテムを出さないとおかしいよね?というアイデアから生まれました。
こちらのゲームは、次の東京デザインウィークの前半5日間、出展されるそうです。実物を見てみたい方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。
TOKYO DESIGN WEEK 東京デザインウィーク
http://tokyodesignweek.jp/
次に紹介の実績は「アイテムレコメンド(プロトタイプ)」です。
ユーザにオススメのアイテムをレコメンドしてくれるロボアプリです。会話のやり取りから、性別・年齢・身長・服の色・オシャレ度を計測し、Pepperがおすすめアイテムを紹介してくれます。
おすすめアイテムを抽出するアイテムは「センサー情報」「会話による情報取得」「クラウドのビックデータ」から総合して算出されます。
クオリティを高める方法の講義がスタートです。
1-10がいつも行っていることの説明です。
ロボットの体験なんて誰も正解がわかりません。想像するにも限界があります。なので「企画→調査→実装→レビュー→企画…」というサイクルを、どれだけ数多く回せるかがクオリティを高めるための鍵となります。
具体的に言うと以下になります。
・ロボット体験なんて、誰も予想ができない。話し合いで決まらないなら、まず作ってみる。体験してみる。失敗してみる。
・早く試作品をつくる「ラピッドプロトタイピング」が超重要
・初期の仕様なんて、だいたい7〜8割くらいで作り始める。すべての工程において、速度が重要。
・むしろ、開発中は仕様書が存在しない場合も。チームで意識共有ができていれば、手段や方法は問わない(アプリができたらちゃんと綺麗に作っています)
・レビュー至上主義。作っているものはしょせん”タタキ”にしかなり得ない。多くの人の意見に耳を傾け、改善点に真摯に向き合い、次の開発方針を決める
ソフトウェア開発でよく耳にする「ウォーターフォール」は、1-10でのロボアプリ開発では向いてませんでした。
実際の1-10でのダイアログ(会話)開発ワークフローです。
大きく「企画フェーズ」「ライティングフェーズ」「実装フェーズ」の3つに別れます。それぞれで以下のサイクルを回します。
【企画フェーズ】
[企画][技術調査][ラフライテイングプロトタイプ開発]
【ライティングフェーズ】
[ライティング][ライター間レビュー][チェック]
【実践フェーズ】
[演出][ライティング修正][企画実装][レビュー]
この後、最終ブラッシュアップとひたすら実機検証を行い、完成となります。
レビューの心得です。
・なるべくたくさんの人でレビューする。多くの人が体験する。
・多種多様な職能の人を集めてレビューする。
・世代、年齢、性別が異なる人でレビューする。
・それでいて、みんなが同じ課題を共有して、解決に向けて議論する。いろんな意見を言い合える。
・お菓子があると、リラックスして話せる雰囲気になったり。
体験作りで心かげていることです
・Pepperならではの体験を考える。「人とロボット」だからこそのコミュニケーションを考える
・大きなタブレット/大きなスマホ、ではない〜業務用端末でもない。それはみんなが求めている未来ではない。
・人をそそのかす〜人をその気にさせる。
・反応性に気をつける
・より自然な体験を追求する。120cmという大きさは、いままでにない体験作り。でも、失敗も多く茨の道でもある。
長井さんからのレクチャーは以上です。
参加者からの質問を受け付けました。
(質問)
一般の方が作ったアプリを見て、ここを作り込むともっとよくなると思うところはありますか?
(長井さん)
「そそのかしてほしい」です。業務用端末みたいに作られているアプリは、人間とのコミュニケーションではなく作業に見えてしまいます。例えば、牛丼屋でボタンを押した後、サイズを聞くのは業務用端末で、「おおー!牛丼いいですよねー」と言うのはPepperっぽいと思います。ユーザが行ったアクションに対してPepperからお礼を言うのは大事ですね。
(質問)
タブレットについてどうお考えですか?
(長井さん)
社内では「主従の関係」を意識しています。会話が主、タブレットが従です。音声会話で立ち行かないとき、はじめてタブレットを使うようにしています。タブレットにすぐにボタンを出さないようにしています。また、タブレットに何かを表示させても、操作のメインに使わないようにします。
(質問)アプリを作るとき、意識している点はありますか?
(長井さん)BGMやSEを選ぶときには、誰にでもわかるような「いかにも」なものを選ぶようにしています。この点はテレビの演出に似ているかもしれません。
(質問)Pepperのアプリ開発で楽しいことは?
(長井さん)手元で作ったものが、すぐに目で見える形で再生できるのはすごいこと。クリエイトするモチベーションが上がります。また、今Pepperができないことはたくさんあるけど、今後できることが増えてくると人間の代わりにできる仕事が増えてくると思ってます。
(質問)社内での開発の方針は?
(長井さん)ユーザに共感するのはいいけど、Pepperの設定を作らないようにしています。例えば「僕はちょうちょが大好きなんですよ」だったり、「サッカーはhogehogeのチームが好きなんですよ」と言った好き嫌いを明言しないように気をつけています。
(質問)ダイアログをつくるときのコツは?
(長井さん)分かりやすくするために言いたいことを全部書いちゃうと、セリフが冗長になってしまいます。そのためメリハリをつけることが大事と思ってます。また、人間が何を発したら、Pepperは受け取りのセリフをつけるとコミュニケーションが円滑になります。
(質問)ダイアログを実装するときのコツは?
(長井さん)発音の高低や速度をこまめに変えています。会話に抑揚をつけて人間らしくするためです。手順としては、まず平の文をPepperに読ませて誤読を直します。次に全体の文章の構成を見て、抑揚をつけていきます。ここはもっと喜んだ方がいいとか、凹んだ方がいいとかを見ながらです。
質疑応答は以上です。
ここからワークショップの時間です。
参加者全員である設定に基づいた状況でのシナリオライティングを行い、その後レビューを実践して品質を高めていく体験を行います。
課題は2つ。
1つ目は、性格診断コンテンツのシナリオです。いくつかのアイテムの中から2つのQuestionを選んで、その結果をユーザーに伝えるコンテンツのシナリオを書いてみます。
2つ目は、お客様の要件を訪ねるシナリオです。最大3つのQuestionで、お店に初めてお会いしたお客様という設定です。
参加者はどちらかの課題を選び、ライター役・ディレクター役・演出役の3人1チームをつくります。
まず、大枠の構造をつくり、そこに入る台詞を詰めて、最後にブラッシュアップの順で行います。
ラフライティングを行う際には、ExcelやGoogle SpreadSheetを使います。Pepper主導の文脈をつくる際、わかりやすくて便利です。
まず、最初にチームごとで先ほどの課題の「大枠の構造」をつくっていきます。不明点があれば、1-10のフタッフの方がフォローしてくれます。
チームで相談しつつも、もくもくとダイアログの構造を作っていきます。
時間が来たら、長井さんがそれぞれの全てチェックして、シートにコメントをつけていきます。
そして、それぞれのチームのダイアログをプロジェクターに投影しながら、長井さんがコメントを加えていきます。
こちらのチームは「おもちゃ売り場に設置されたPepper」という設定でダイアログの大枠をつくりました。
Peppper「どなたかへのプレゼントですか?」
お客様「はい」→Pepper「わぁ、おもちゃのプレゼント、きっと喜ばれますね!僕にも誰かプレゼントしてくれないかなあ」
お客様「いいえ」→Pepper「今日はゆっくりお好きなおもちゃを選んでくださいね♪」
という具合です。
これに対する長井さんのコメントはこちらです。
「最初にPepperが言う “どなたかへのプレゼントですか” は唐突なので、ロボットやPeppperが初めてで喋り方のわからない人に向けて、Pepperが自己紹介を行うことが必要。」
各チームのダイアログに対し、このように気づいた点を長井さんからコメントを入れ、すべて完了したら、各チームで修正を行っていきます。
これがサイクルを回すということです。
他のチームには長井さんから以下のコメントが。
「ダイアログ作る時に難しいのは、Pepperに会うのが初めての人がいる点。どうやってPepperに話しかけるかがわからない人がいる。
開発者はそこのところ分かっているけど、一般の人は前提となる文脈がわからないので、一般の人に文脈を伝えるアイスブレイク的なものを行う必要がある。
例えば、Pepperの自己紹介や、どうしてここにPepperがいるかというものなどです。」
「好きな色を聞いて、赤は情熱的、青はクールといった診断アプリをつくる際。
ユーザーが喋ったことをPepper聞き取って、「赤ですか!情熱的ですね!」というおうむ返しを入れることでユーザー体験が向上します。
赤(あか)と青(あお)は音が似ていてPepperが誤認識してしまうことが想定されます。なので、もし赤と青を誤認識してもいいようにおうむ返しを追加しておきましょう。
「情熱的ですね!」だけではなく、「赤ですか!情熱的ですね!」とすると、ユーザはPepperが誤認識したかということを理解して、納得してくれます。」
「ネタばらしを後にした場合、ユーザーに納得させるのは難易度が高いのであまりおすすめはしません。最初に設定などを伝えた方がよいです。」
この後、時間の限りサイクルを回し、参加者全員でダイアログの重要性を学んでいきました。
受講した感想です。
長井さんが何度も仰ってたのが「サイクルを何回まわせるかがポイント」というお言葉。今日のワークショップでも、レビューを繰り返し複数回サイクルをまわすことで明らかにダイアログの品質が良くなっていきました。
また「大きなタブレット/大きなスマホ、ではない〜業務用端末でもない。それはみんなが求めている未来ではない」という言葉に深く同感しました。Pepperに担わせるのは業務の効率化ではなく、コミュニケーションを楽しむことが本質というのに同感です。
長井さんのお話を聞きながら、Pepperアプリに対して感じていたモヤモヤが次々と解消していき、受講して大変ためになりました。
もし第二回があるのであれば、全てのPepperアプリクリエイターに受講をおすすめします。
ABOUT THE AUTHOR /
北構 武憲本業はコミュニケーションロボットやVUI(Voice User Interface)デバイスに関するコンサルティング。主にハッカソン・アイデアソンやロボットが導入された現場への取材を行います。コミュニケーションロボットやVUIデバイスなどがどのように社会に浸透していくかに注目しています。