前半|京都高度技術研究所の「ロボット技術活用セミナー」にいってきたよ
3月9日、京都の産業と科学技術の振興を目的として設立された「公益財団法人 京都高度技術研究所(通称アステム)」が、ロボット技術活用セミナー「ロボット革命の現状と動向及びロボットビジネス」を開催しました。今回はこちらのセミナーの模様をレポートします。開催場所は京都大学 桂キャンパスのイノベーションプラザ 内セミナールームです。
少し早めに現地に到着し、プレス受付をしたところ、運営事務局から「講演内容が分かるような形での写真撮影や取材はお止めください」とのお達しを受けてしまい「今日ワタシは何しに来たんだろう…」と血の気がイッキに引きました。
すると、お一人目の登壇者の京都大学大学院工学研究科の松野文俊(まつの ふみとし)教授が、セミナー終了後の懇親会で「僕は大丈夫ですよ」と気さくにおっしゃってくださいましたので、遠慮なくレポートしたいと思います。
講演タイトルは「ICRTによるロボット革命」です。「ICT」というと、「情報通信技術」として認知されていますが、「ICRT」とは「情報通信ロボット技術」のことを指すそうです。これまでにない学問領域を打ち立てて、切り開いていきたいという研究者としての心意気をお話されました。
冒頭からハンマーで殴られたような衝撃を受けました。松野教授は国際レスキューシステム研究機構でも活躍されていて、今回の講義では様々なレスキューロボットの成果を紹介してくださいました。
こちらが松野文俊教授。今回の講義では、筆者のような「ロボット初心者」にも分りやすいように心掛けてたそうで、鉄腕アトム(自律型ロボット)や、鉄人28号(遠隔操作型ロボット)、ガンダム(搭乗型パワー増幅ロボット)とった馴染みのあるロボットを例に挙げて説明されていました。
レスキューロボットの第一人者にも関わらず、初心者目線で説明されており、すぐにフアンになってしまいました。因みに、アイザック・アシモフの「ロボット三原則」は、アシモフ本人が提唱した訳ではなく、先輩SF作家のジョン・W・キャンベルが「アシモフ君の言ってる事ってこういうことですよね」とまとめたものが広まったみたいなことを仰っていました。さらりと披露したくなる「ロボットトリビア」ですね。
松野教授が説明された中で、最も印象的だった事の一つが「ロボット開発の守破離」でした。守破離とは、弟子が師匠に教えを乞う際に守るべき順序を示す言葉で、師匠の教えや型を「守り」、自分に合わせる為に型を「破り」、そして更なる境地に至るためには師匠から「離れる」ことが大切だという教えです。
松野教授は、ロボット開発においても守破離が大切である考えており、「レスキューロボットを作る際にも意識した」と話します。まず自然界で活動する生物を師匠と見立てその動きの型を「守」ります。そしてロボットならではの動きを実現するために、師匠の型を「破」ります。最後に、更なる進化のために、生物とは全く異なる動作を目指し「離」れることで、レスキューロボットを実現されました。上の写真は、蛇の動きの紹介ですが、師匠である蛇の動作を探究していくことによって蛇型ロボットの実現に繋がったとのこと。
「離」の境地に到達したレスキューロボットの一つがこちらのモジュラー脚型ロボットです。災害現場では「小さいロボットのほうが狭い隙間を進むことができる」という優位性がある一方で、「大きな障害物を乗り越えること」が難しくなります。そこで、複数の小さいロボットが合体することで障害物をクリアし、レスキューロボットの活動範囲を押し広げることを実現しました。
モジュラー脚型ロボットの動きを、当媒体の読者諸氏にもお見せしたいと思い、探していたところ「産経新聞」さんの動画が見つかりましたのでご紹介します。
続いて、災害時に通信インフラが壊滅していることを想定した「兄弟型ロボット」の紹介。「兄ロボット」が通信インフラとなるアクセスポイントを敷設しながら、小回りのきく「弟ロボット」が動き回って、毒ガスや放射能を検知します。様々な現場の情報を、後方の消防隊チームに伝達するそうです。
松野教授は、レスキュー工学という学術分野を立ち上げて20年間第一線で活躍されていますが、レスキューロボットに着手した当初は「倒れている人を助け出して病院まで連れていくロボットを開発すべきだ」と思っていたそうです。しかし、レスキュー現場の意見を聞いたことで、「より早く被災者を見つけること」、「より早く被災者がどのような状態なのかを伝えること」が重要だということを知り、その観点が以降の様々なレスキューロボットの開発に繋がったと話します。
そして、松野教授は、福島原発事故で活躍したロボットを紹介。お掃除ロボットの『ルンバ』で有名なiRobot社の軍事用ロボットが、高放射線で人が近づくことができない原発事故の現場で活躍したという報道は、多くの方が見聞きされたと思います。ただ実際には、日本のロボット技術も現場では活用されていました。遠隔で操作するショベルカーやダンプカーは、一般に想像されるロボットの容姿をしていませんが、立派なロボット技術なんです。
松野教授は、東日本大震災の復興への取り組みのなかで、国際レスキューシステム研究機構のメンバーとして活躍。講義のなかで紹介されたテレビ番組の動画からは「一人でも多くの命を救いたい」という強い気持ちが伝わってきました。
松野教授のチームは災害からの復興のシンボルになるようにと漁港の復旧にも尽力されました。漁師の方々からの要望で、アメリカの海底調査ロボット「SARbot」を活用して海底を調査されていたそうです。被災者の方々からの感謝の言葉で、大きな遣り甲斐を感じられたとのこと。
最後に、ロボット関連の政策に関するお話。雲仙普賢岳で活躍した「無人ダンプカーロボット」の技術を、国土交通省が予算化し、当該技術を継続してアップデートしていたことで、東日本大震災で活躍することができたそう。「ロボットを作って終わりでは、技術は死んでしまいます」という松野教授の言葉には大きな説得力がありました。
松野教授が目指しているのは「サンダーバード」。国際救助隊として世界中の事故や災害のレスキューを行ったサンダーバードのように、松野教授が開発したレスキューロボットが世界中で活躍して欲しいですね。
次回はセミナー後半の「グラン☆ロボティック ロボットビジネス基礎編」をレポートします。