【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.16】タカラトミーに聞く「ロビジュニアの購入者層とオハナス改良の舞台裏」
タカラトミーがロボット・トイを次々にリリースして話題になっています。同社がロボット再始動と位置づけた2014年から、10種類もの新製品を発表、中でもデアゴスティーニと提携した「Robi jr.」(ロビジュニア)と、NTTドコモの自然対話プラットフォーム「しゃべってコンシェル」の技術を活用した「オハナス」(OHaNAS)は、オモチャ市場だけでなく、ロボット業界からも動向が注目されています。
コミュニケーション・ロボットが新しい市場を開拓する中で、ロビジュニアを支持しているのはどういう購買層なのか興味があります。また、改良されて使いやすくなったオハナスの舞台裏、しくみや改良点についてタカラトミーに聞きました。
ロビジュニアの特長と購入者層
タカラトミーと言えば、今から30年以上前にロボット玩具「オムニボット」(Omnibot)を発売したロボット玩具の老舗です。特に印象深いのは「ファービー」。国内で320万台、世界では4000万台が販売されました(現在は販売終了)。
ロボット業界でも知られている製品と言えば「i-SOBOT」(アイソボット)でしょう。2007年に17個のサーボや音声認識機能、ジャイロセンサー等を搭載した二足歩行ロボットが、3万円以下で発売されたことは記憶に新しいところです。
更には最近では、週刊ロビの幼少期という設定で誕生した「ロビジュニア」やNTTドコモと共同開発したクラウド型おはなしロボット「オハナス」が注目されています。
ロビジュニアは週刊「ロビ」のヒットを受けて商品化された会話に特化したロボット玩具です。デアゴスティーニ社のライセンスを受け、ロボットクリエイターの高橋智隆氏による洗練されたデザインを継承して設計されています。
ロビジュニアは立ったり歩いたり、踊ることはできませんが、約1,000の言葉を話し、人感センサーで人のいる方向を検知できます。声はロビと共通で、TVアニメの「ONE PIECE」のチョッパー役や「ポケットモンスター」のピカチュウ役で知られる大谷育江氏が担当、首や手足を動かす可愛い仕草が人気を呼び、既に累計で5万台を突破したヒット商品になっています。
「ロビジュニアとあそぼう」(タカラトミー)
神崎(編集部)
まずはロビジュニアについてお伺いしたいのですが、ロビジュニアは玩具売り場で購入できる製品で、価格も比較的買いやすい、本家のロビと販売でバッティングする心配はなかったのでしょうか?
木村(敬称略)
ロビジュニアを購入したお客様の約4割くらいが週刊「ロビ」を買っている方です。既にロビを組み立てた方、今組み立てている途中だけどロビの完成まで待ちきれないのでロビジュニアが欲しいと言った理由で購入されているケースが多く見られています。
神崎
“待ちきれない”という気持ちはわかりますが、ロビを持っているのにロビジュニアも買うという方は、キャラクター性によるところが大きいのでしょうか。
木村
自社アンケートの結果、ロビジュニアの購入理由は「癒してくれそうだから」がトップで、以下「週刊ロビのファン」「ロボットが好きだから」「デザインに惹かれて」「家族と一緒に遊ぶと楽しそうだから」と続いています。週刊ロビのファンだからロビジュニアも購入するという方は多いのですが、私達はロビとロビジュニアは当初の想像以上に上手く補完がとれている製品だと感じています。
神崎
どういった棲み分けになるのでしょうか。
木村
ロビは歩いたり踊ったり、感情を全身で表現することができますが、バッテリーの動作時間にはどうしても限りがあります。その点、ロビジュニアは乾電池で動作し、自律歩行しないためにバッテリーが長時間もちます。時計やカレンダー機能もあって、基本的には電源を入れたまま起きていられるという点に特長があります。一日を通して、ロビの可愛い声がたまに部屋に響くことが楽しいし嬉しいと感じて頂くことも多いようです。いつもはロビジュニアとの会話で癒され、ダンスをしたり本格的にロビの動作も楽しみたいときはロビを起動する、そういう意味で補完し合っている存在です。
神崎
なるほど。さきほど購入者層のお話しが出ましたが、ロボット製品と言えば今までは男性の購入者が多い市場だというイメージがありますが、ロビジュニアはどうでしょう。若い女性を中心に人気があるなどの違いがあるのでしょうか?
木村
当社のペットロボット「Hello!Zoomer」(ハロー!ズーマー)や「Hello!MiP」(ハロー!ミップ)というロボットだと男性比率が70%〜80%をしめますが、ロビジュニアの男女比率は男性 55%、女性 45%です。男性の方が多いものの、他のロボットと比較すれば女性の構成比率が高くなっています。ただし、実は若い女性の比率は少ないんです。
神崎
もしかするとメインは高齢者層ですか?
木村
お子様と50歳以上のお客様です。年齢層では子供が約20%前後、50歳代と60歳代が約21%ずつで、100歳くらいまでのお客様がいらっしゃいます。
OHaNASの特長とシステム構成
タカラトミーが2015年10月に発売したコミュニケーション・ロボットが「OHaNAS」(オハナス)です。会話に特化したため、他のロボット製品のような可動部分はありません。会話の部分では、NTTドコモが開発してスマートフォン等に実装している自然対話プラットフォーム「しゃべってコンシェル」と同様の技術を採用し、そのほか音声認識と音声合成(発話)等もすべてクラウド上で処理を行っています。そのため、OHaNASで会話をするには必ずスマートフォンかタブレットが必要になります。(iPhone、iPad、Android端末等)
「オハナス紹介動画」(タカラトミー)
OHaNASはBluetoothでスマートフォンやタブレットと通信し、ユーザとの会話はすべてスマートフォン等を経由してインターネット上のクラウドで処理されます。自然な会話を実現するため「しゃべってコンシェル」の4つの関連技術に加え、新たに「文章正規化機能」(いろいろな言い方を正規の言い方に変換して理解する等の機能)、「外部コンテンツ連携機能」(天気予報や気温などの外部情報を参照して会話に自然に組み入れる等の機能)が使われています。
しかし、クラウド上にユーザとの会話が記録されたり、プライベート情報が送られることはありません。ユーザのプロフィールデータは、ご自身のスマートフォン本体にのみ保存されています。
OHaNASとの会話はすべて、音声認識、発話、自然対話プラットフォームなどで構成されたクラウドシステム上で対応。NTTドコモと共同開発(提供:タカラトミー)
「しゃべってコンシェル」関連技術に文章正規化機能と外部コンテンツ連携と呼ばれる新技術を加えた(NTTドコモ 報道発表資料より)
神崎
ロビジュニアで購買層のお話しを伺いましたが、OHaNASも同様の傾向が出ていますか
木村
スマートフォン等が必要となるので、他のロボット・トイとは少しことなりますが、男女比率は64:36で男性が多く、年齢層は子供が約2割、50歳以上が約5割なのでロビジュニアとほぼ同じ感じですね。
オモチャの場合は購入者と使用者が異なる場合が多く、一般的なオモチャでは、購入するのが大人、使うのは子供ということになります。しかし、OHaNASの場合は興味深い傾向が出ていて、購入するのは大人なんですが、使うのはその親世代というケースも少なくありません。
神崎
高齢の親へのプレゼントに購入されるということですね
木村
離れて一人暮らししている親御さんにプレゼントしているケースも多いのでしょうね。オモチャでは通常は見られない、子から親へ渡すという傾向が出ています。
コミュニケーション・トイは購入層としては50歳代の割合が42%と最も多く、そのうち約10%の方が親にプレゼントしているというデータがあります。
システムを改善して認識率が大幅にアップ
OHaNASのスタートは順風満帆とはいきませんでした。ユーザの期待感の大きさも反映して、発売した直後は「会話を認識しづらい」「聞き取ってくれない」などの厳しい評価が多く見られました。しかし、タカラトミーとNTTドコモはその意見を受け止め、技術者たちがプライドを持って改良に努めました。その結果、現在では大きく改善されていると言います。
OHaNASの会話機能は前述の通り、すべてクラウドシステムを使用して会話を行うため、不具合の修正や改良、精度の向上、コンテンツの充実など、さまざまな機能アップは、クラウド側のアップデートによって迅速に対応することができます。
神崎
当初のバージョンではどこに課題があって、クラウド側でどのような改良が行われたのでしょうか
木村
発売前に機能的には十分に検証を行ったものの、お客様の生活環境の中では雑音等の影響が想定していた以上に大きく、結果的に自然対話プラットフォームの重要な機能が十分に発揮できないことが解りました。OHaNASはリビングに置かれる製品ですから、テレビやラジオ、更にはテレビゲーム、掃除機やキッチン、他の子供たちの声など、様々なノイズの影響を受けます。それは予め想定していたものの、それらが会話の大きな障害となっていました。
そこで、ノイズキャンセル機能を更に強化したり、お客様との会話の精度を上げることで認識率を格段に向上させました。発売当初は67〜68%くらいの認識率でしたが、システム改善後は92〜93%くらいまで向上しています。
神崎
音声認識は反響等も大きく影響しますよね。ただ、NTTドコモのしゃべってコンシェル等が技術のベースにあるなら、スマートフォンなどでの実績からみて、相応の雑音には強いのではないかなと想像するのですが、そうではなかったのでしょうか?
木村
スマートフォンで使用する場合と、コミュニケーション・トイでの使用とでは製品とユーザとの距離に大きな違いがあります。例えばスマートフォンは手に持って話すのでユーザの発話との距離が約15cm程度ですが、OHaNASの場合はおよそ3〜4倍の約50〜60cmくらいになり、ノイズによる悪影響も格段に受けやすくなります。
神崎
それが理由で、スマートフォンでは音声認識が正確に聞き取れるのに、同じ内容をOHaNASに話してもちゃんと聞き取ってくれないという評価になってしまったのですね
木村
システムの改善をすると同時に、OHaNASに話しかけるときには少し顔を近づけて頂くと音声認識が大きく向上することを動画やホームページなどでお知らせしました。
神崎
OHaNASとの会話を購入前に体験することは可能ですか?
木村
一部のドコモショップではOHaNASが展示してあるので、見かけたら話しかけて試してみてください。また、OHaNASはスマートフォンのアプリと連動して動作しますが、そのアプリはOHaNASがなくても起動することができ、会話を体験して頂くことができます。
OHaNAS専用のアプリは、iOS用はApp Storeから、Android用はGoogle PLAYストアから無料でダウンロードすることができます。OHaNASがなくてもプロフィールの設定ができ、OHaNASとの会話を3往復(3ラリーと呼ぶ)まで試すことができます(会話自体は何度でも試すことが可能)。
神崎
ちなみに、OHaNASはパーソナルデータをクラウド側に蓄積しているのでしょうか?
木村
一切していません。スマートフォンのOHaNAS専用アプリではプロフィール設定の中でお名前や誕生日、年齢や性別などを登録することができ、それを会話に反映します。それらの情報はユーザのスマートフォンに登録されるだけで、個人情報や会話から抽出した情報をクラウド側に保存したり蓄積しない方針でやっています。
クラウド側に蓄積するなれば、お客様にとっては不安だし、私達にとっても個人情報の保存は必要なものではありません。
ぐるなびとクックパッドに連携、更にB to Bでの利用も視野に
OHaNASは「ぐるなび」と「クックパッド」と連携しています。
例えばOHaNASに「大手町のお蕎麦屋さんを調べて」と言うと、「地域」と「お蕎麦やさん」をキーワードに、ぐるなびで検索してヒットした店舗のひとつをランダムでスマートフォン等にURL表示するしくみをとっています。
また、「タマゴを使ったレシピを教えて」と言うと、タマゴを使ったレシピをクックパッドで検索し、結果の一覧リストをスマートフォンで見ることができます。
神崎
クラウドシステムによる会話だと言葉やコンテンツはいわば無限に増やしていくことができますね
木村
できることを少しずつ増やし続けています。
月が変わるごとにその月に合った内容の会話をするようにしていたり、ギャグや流行している言葉を使った面白いトークで切り返す会話も増やしました。当初は8,000くらい用意してありましたが、現在は20,000ワードくらいに倍増しています。また、クイズなど楽しいシナリオも当初より増やしています。
神崎
ビジネスシーンでのOHaNASの利用も考えていますか?
木村
B to Bでの利用もはじまっています。
エスビー食品さんと連携して、80種類以上のスパイス(香辛料)について解説するコンテンツをOHaNASで利用できるようにしました。例えば「カルダモンってなにに使うの?」と聞くと説明します。
スーパーなどの店舗において調味料売り場は変化が少ないので、少し活気を持たせたり、お客様と会話することでスパイスに興味を持ってもらうきっかけになれば…ということで、店頭でのスパイスの解説や話題作りにOHaNASを活用したいということで共同開発に至りました。同様に、B to Bでの利用が増やしていきたいと思っています。店頭等の販促機器やツールとしては比較的低価格なので、気軽に導入して頂けるのではないでしょうか。
また、2020年の前には多国語を話して観光受付などで活用してもらえるといいかもしれませんね。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。