株式会社ZMPは物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」を2016年6月末から出荷する予定だ。「CarriRo」は台車型の搬送ロボット。作業者が台車を押すのをアシストするドライブモードと、台車を追従させるカルガモモードの2つの機能がある。最近は自動運転技術で知られる技術ベンチャーであるZMPの知名度と、分かりやすい外見とが相まって注目されているロボットの一つだ。
2014年7月に発表、2015年8月から受注を開始していた。価格は、当初は3年リースで月額 24,000 円(税別)とされていたが、メンテナンス料金などを込みにして、これよりは高めの設定になる予定だ。このような料金体系にすることで、顧客も効果を把握しやすくなるという。「わかりやすさと導入のしやすさ」がCarriRoのセールスポイントだ。株式会社ZMP 新規事業推進室 キャリロ事業担当マネージャーの笠置泰孝氏に話を伺った。
最大積載荷重は100kg、丸一日稼働するバッテリーを搭載
「CarriRo」の本体重量は55kg。サイズは幅60cm、奥行き90cm、高さは20cm。ハンドル部分の高さは90cm。最大積載荷重は100kg。当初は50kg程度の積載重量だったが、100kgくらいあれば物流や製造業のフローのなかでもフィットするという現場からの声に応えた。
バッテリーはリチウムイオン電池で、連続稼働時間は8時間。これも実証実験を行うなかで、顧客からの「丸一日の営業時間は稼働するものにしてほしい」という声に応えたという。充電はオンボードで行い、8割充電するのに2時間、フル充電するには6時間かかる。屋内使用を想定しており、登坂角度は3度で、段差は1cm程度なら超えられる。通常の倉庫内であれば問題なく動けるという。
「CarriRo」は赤外線ビーコンを持った人の後をついていく。そのための追従性も向上させた。だがまだ出荷までに性能を向上させている段階だという。出荷・導入後のソフトウェア・アップデートや改良も引き続き行っていくとしている。ビーコンを用いることで、間違えて別の人に追従することリスクをなくした。レーザーレンジファインダーを使っていない理由はコストだ。
想定出荷台数は月産数十台で、年内で数百台程度を目指す。昨年の11月から公開したプロトタイプを見た顧客からの予約が既にあり、それで今年の生産台数は達成見込みだという。顧客の内訳は6割が物流、3割が製造業、1割がスーパーマーケットなどの小売り。
利用シーンとしては、物流センターでのピッキング作業の時間削減、商業施設等での館内物流、工場での工程間搬送、小売店舗での品出しなどが想定されている。
女性でも100kgの荷物を載せた台車が押せるように
実際に「CarriRo」を体験してみた。ドライブモードの操作はハンドル部分のジョイスティックで行う。速度を設定し、ドライブに入れて、ジョイスティックを押すとその通りに動く。
最初は少しなれが必要だが、すぐになれそうな操作感だ。バックもできるので、案外小回りも効く。
CarriRo ドライブモード
重さ100kgの荷物を載せた状態の台車は、けっこうな重量がある。ある程度、体重をかけないと押せない。現場でも女性だと難しいという。だがアシスト機能を入れると女性でも動かせるようになる。
人に追従させるカルガモモードのときはビーコンを腰のあたりに装着する。製品版では追従時に1.5メートルの通路幅で3台でのカルガモ走行が可能になり、その場旋回もできるという。
CarriRo 追従モード
なお、プロトタイプ発表時に紹介されていたポールビーコンを使った自律移動機能に関しては、現在開発中だ。追従機能を応用してスムーズに機体を制御するようなやりかたを検討中で、複数の方式を現場に即して採用することで実現を目指すという。
なお、6月末の出荷のタイミングで公開される予定のプロモーションビデオでは、現場で活用される様子も公開予定とのことなので、合わせて期待したい。
自律移動機能「CarriRoシステム」のビジネス展開も想定
同社は、まずは「CarriRo」の製品化とブランディング、要素技術を固めるが、今後は、CarriRoに搭載する予定の自律移動機能を「CarriRoシステム」という名前でモジュール化し、抜き出して協業する他社に対して提供・展開する予定ももっている。
「我々は台車を作っているメーカーではありません。強みはあくまで自律移動のシステムです。現場は色々なものを自律移動化したいというニーズを持っていますので、CarriRoのシステムを外出しして展開していきたいと考えています」(笠置氏)
他にもCarriRoのような半自動化製品を、より安く手軽に出していきたいという。ZMPは自動運転やドローンも進めている。将来的な技術融合やイノベーションは外部からも期待されている。CarriRoも「ZMPのキャリロ」として注目されている。
「量産の壁」を超えてバリエーション展開を狙う
ZMPが独自開発にこだわっているのも今後を考えてのことだという。「最終的にコストを抑えるためには独自開発で試作開発を刻みつつ、製品の機能性を高めていくアプローチを取らざるを得ません。ただ、一旦出来上がれば、その後の量産化や性能アップはフレキシブルに進めることができる。ですから今は助走にやや時間を掛けているかたちになっています」(笠置氏)
今後は、自律移動の技術をコアにしていろんなバリエーションも展開していく。物流現場では手押しよりも300kgくらいのパレットで運ぶことも多い。パレットはフォークリフトを使って運搬するが、もしパレットを丸ごと運べれば、運搬はロボットに任せることができる。そうすればフォークリフトも人の数も減らせる。現在はCarriRoのローンチに集中しているが、その大型機の開発も急ピッチで進めているという。
「人の面でもお金の面でも体力を使うところですが、量産技術を蓄積できれば、バリュエーション展開も容易になります」。
今が踏ん張りどころ、というわけだ。
IoTによる業務効率化ソリューションも狙う
4月20日には、SAP ジャパンと凸版印刷と共同で、IoTを使って、企業の基幹業務システムと連携させ在庫管理や工程管理などのソリューションを提供するとリリースを発表した。
CarriRoにRFIDリーダーや各種センサーをつけることで、作業環境を見える化することを目指す。ロボットが情報をとって、その情報を提供するビジネスモデルだ。
具体的には、CarriRoの荷台かごにアイテムを入れるだけで一括で検品まで終了するようなピッキング業務の効率化や、無人在庫卸などを狙う。また、受注伝票をCarriRoが読んで、作業員を誘導することもできる。在庫情報とロボットが把握する情報を連携することでいろんなバリエーションができてくるという。
ロボットのメリットが最大限活かせるための提案を積極的に行う
ロボットとしての「CarriRo」を起点として、今後、ソリューションをブラッシュアップしていくと笠置氏は語る。「最初のモデルは最初のスタート。将来はいろんなことが可能になると思っています」(笠置氏)。
CarriRo事業の展開の柱は3つあるという。一つ目は「CarriRo」そのものや自律移動システム「CarriRoシステム」の販売。二つ目はIoTによる業務効率化ソリューション。3つ目はコンサルテーションだ。
「ロボットは使う環境によって効果が変わります。モノだけ売って『あとは自由に使ってください』だと使えないことが多い。ですので、我々のようなロボットメーカーが現場に入り込んで作業フローや現場のレイアウトを理解して、ロボットを使いやすい環境のコンサルテーションや業務フロー提案をする。そうすれば効果も分かりやすくなるし、導入規模も大きくなるので、お互いにメリットがあります」(笠置氏)
たとえば現場のレイアウトをどう変更すれば一番効率的な動き方ができるか提案もできる。実際に、そういった部分を求めている顧客も多いという。たとえば、CarriRoを3台導入することで人の作業時間を一定量減らせたとする。その減らせた時間をどの仕事にふったらいいのかをメーカーが提案できるようになると、顧客の納得感も出やすいという。
「わかりやすさと導入のしやすさ」でどこまで現場を変えられるか。台車という性質上、そのためには実機がどれだけロバストに、ラフに使えるかが一つのポイントになると思う。出荷までのどれだけタフなロボットに仕上げられるか、期待したい。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!