【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.24】福祉施設で活躍するPALROと、ロボット相撲大会の魅力と軌跡を富士ソフトに聞く

富士ソフトは資本金262億円超、連結社員数11,099名(2016年3月末時点)、東証一部上場の大企業です。主に業務系ソリューションや組み込み/制御系、プロダクト・サービス等を幅広く手がけています。

ロボット業界では身長約40cmのコミュニケーションロボット「PALRO」(パルロ)のメーカーとして知られています。特に高齢者福祉施設への導入に積極的です。

また、ロボット業界での功績として注目したいのは「全日本ロボット相撲大会」を28年間に渡り主催し続けていること。ロボット相撲大会をはじめた理由やその魅力、勝つことの難しさ等について聞きました。

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富士ソフト株式会社 プロダクト・サービス事業本部 PALRO 事業部長 武居伸一氏(向かって右)と、ロボット相撲大会事務局長 金井健氏。中央がPALRO。


高齢者福祉施設で導入が進む「PALRO」

全長約40cm、重量約1.8kgのPALRO(パルロ)は、会話をしたり、ダンスや歌で楽しませてくれるコミュニケーションロボットです。2010年3月に大学や研究機関向けに「アカデミックモデル」の販売を開始、2012年6月からビジネスシリーズとして高齢者福祉施設向けモデルの販売を行っていて、現時点(2016年5月)では既に330以上の施設に導入されています。

PALROが活躍しているのは主にデイサービスなどの「レクリエーション」(レク)の時間。PALROがレクの内容を考え、司会進行役を務めます。健康体操やクイズ、ゲームを利用者と一緒に行ったり、歌やダンス、落語、占いなどを披露して楽しませながら、介護予防を盛り上げます。利用者を見守ったり補助するスタッフを配置する必要があるものの、次のレクのコンテンツを考えるなどのスタッフの負担は軽減されます。

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レクの時間に利用者と一緒に旗上げ体操をするPALRO。司会進行もPALROが担当する(提供:富士ソフト)

利用者にも好評で「デイサービスでは、PALROがレクをやってくれる日を楽しみにして施設に来てくれるようなパルロファンのご利用者様もいらっしゃいますね」(武居氏)と言います。


■ PALROの特徴

また、PALROはレクの時間だけでなく、受付でのお出迎えやお見送りなども行っています。また、利用者と1対1でコミュニケーションも得意。人の顔を見つけると積極的に話しかけ、友達になろうとします。

誰かと会話することが高齢者の認知症やうつ病の予防になるという研究結果もあり、この数年で高齢者施設では会話ロボットの導入や実証実験が盛んに行われています。
PALROは100人以上の顔と名前を覚える個人認証機能を持ち、会話をしていくと各利用者がどんな趣味があり、どんなスポーツや食べ物が好きなのか趣味趣向を記憶していきます。

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PALROはメカ系デザインなので写真では可愛さが伝わりづらいが、仕草や会話を聞くと実に親しみやすく、独特な魅力を持っている

■ 僕の仕事日記 (PALROの会話機能)

「PARLOの人工知能は基本的にロボット内部で処理されていて、会話のほとんどはPALRO単体で行っています。Wi-Fiを通じてクラウド(インターネット上のサーバ)とも通信していますが、トピックスやニュースなどを取得するためにわずかに使用するだけです。単体で持っていた方が良い情報とクラウドに蓄積しておく情報を適切に切り分けています。ほとんどの会話を単体で行っているのは、よりスムーズなやりとりを実現できるからです」(武居氏)

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リラックスポジション。立っているようにも見えるが膝を曲げて足をたたんでいる。この姿勢は電力消費が少なく、サーボモーターの負荷も減らすことができる

原則として会話によって取得した個人情報をクラウドに送ることはほとんどないとのことです。個人の名前や趣味趣向を覚える行為はほとんどパルロ単体で処理され、それらの情報は専用のアプリ「PALRO Fwapper」(パルロ フワッパー)でPALROにアクセスして、情報を閲覧したり、登録内容の追加や修正などができるようにしています。

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「PALRO Fwapper」の設定項目の例。高齢者用に「話す速度」を遅くしたり、「話しかけの積極性」「ともだちのプロフィールを内緒にする」等の各種設定と変更が、iPad等でできる


ロボット相撲、28年間の歩み

富士ソフトの活動で、もうひとつ注目したいのがロボット相撲です。

正式名称は「全日本ロボット相撲大会」。北海道から九州まで、9つの地区大会を勝ち抜いた強者が集う決勝戦は、相撲の聖地とも言える両国国技館で開催されます。2015年は第27回大会が開催され、決勝戦は12月に行われました。

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世界大会の様子(提供: 富士ソフト)

戦いの舞台は直径1,540mmの土俵。参加者が自作したロボット力士が激突し、相手のロボット力士を土俵外に押し出すことで勝敗を決める競技です。ロボット力士に組み込まれたコンピュータプログラムで戦う「自立型」と、プロポを操作して戦う「ラジコン型」の2つの部門があり、高校生の部と全日本の部(一般)が用意されています。
海外ではカナダやアメリカ、メキシコ、ブラジル、コロンビア、オーストリア、スペイン、トルコ、モンゴル等で開催されています。2015年に開催した世界大会には、日本を含めて15ヶ国より62台が出場しました。

このロボット相撲を富士ソフトが始めた経緯、その魅力について全日本ロボット相撲大会事務局長 金井氏に聞きました。

神崎(編集部)

ロボット競技に取り組みはじめた経緯を教えてください


金井(敬称略)

ROBO-ONE(ロボワン)、マイクロマウス、ETロボコン、NHKロボコン、マイコンカーラリー(MCR)など、現在ではロボットを使った競技大会がたくさんあります。ロボット相撲もそのうちのひとつです。歴史は古く、はじまりは1990年、今から28年前です。富士ソフトの20周年の記念イベントとして、「ロボットの基礎・基本を学ぼう」というコンセプトのもと、創業者である野澤(現・代表取締役会長執行役員)が考案。ものづくりの発表の場を提供したいと考えてはじめたものでした。当時当社は店頭公開したばかりで、開発に関わる人材が必要であり、多くの大学生に当社を知って欲しいという思いも少しはありました。



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神崎

高校生部門を用意したきっかけは?


金井

はじめた年の参加者は140台程度の応募しかありませんでした。第4回目の開催時に文部科学省から連絡があり、ロボット技術を学ぶために良いイベントなので、対象を高校生も拡げて欲しいという要望を頂きました。当社の野澤はもともと教育者だったので、教育関連で役に立つなら是非やりたい、という考えで第5回から高校生部門を設けました。それに伴い、高校生の参加を促すために開催地域を関東から全国に拡げました。各地域で会場を借りるには多額のコストがかかりますが、学校の体育館を提供してもらい、運営スタッフとして学校の先生や生徒の方々がボランティアで参加してくれて実現することができました。こうして全国行脚がはじまったのです。昨年のエントリー数は1,100台以上になっています。



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ロボット相撲大会 エントリー数の推移

神崎

第10回に参加者が3300台を超えて、第13回大会(2001年)では4,000台を突破していますね。急激に伸びたのには何か理由があるんですか?


金井

「勝てばアメリカ」というキャッチコピーの古いポスターが今でも貼られている学校があるんですが、第10回大会の記念に何か大きなことがしたいということになり、アメリカの大きなロボット競技大会にコンタクトをとって、ロボット相撲も種目に加えて欲しいという提案をしました。そして国内大会で優勝すればアメリカに連れて行き、そこでロボット競技ができるという企画をたてました。それが噂になって大ヒット、高校生の参加も急激に伸びました。


神崎

第16回大会から急激に参加台数が減少しているのは、何かあったのでしょうか?


金井

「勝てばアメリカ」で、5回の海外遠征を行って大変好評だったのですが、イラク戦争が起こって事情が一変しました。高校生をアメリカまで引率して万が一のことがあったら大変だということで、遠征を中止せざるを得なくなりました。その結果、大きなモチベーションを失ったのか、参加者は減ってしまいました。しかし、現在では世界中、20ヶ国以上でロボット相撲が行われています。それは海外遠征の頃から自然発生的に伸びていったもので、あのときの熱気は決して無駄ではなかったと思っています。

もう一つの理由は、「高校生の部」において、「学校代表制」をスタートさせたためです。自立型とラジコン型、それぞれの部門で1校2台までのエントリーとし、「学校代表」としました。そして、「全日本の部」と「高校生の部」の両部門のエントリーも廃止しました。そのためエントリー数が大幅に減少しているように見えます。



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「ロボット作りを通して『ものづくり』の楽しさを知ってもらう場を提供することを目的にロボット相撲大会を開催しています」全日本ロボット相撲大会事務局 事務局長 金井健氏


ロボット相撲で勝つための技術

神崎

最近の参加者は、高校生と一般でどのような割合ですか?


金井

高校生の部がおよそ300台、全日本の部がおよそ1,000台といった感じです。


神崎

両国国技館で行う全国大会では高校生と一般の社会人が混合で戦うんですよね。コスト的にも技術的にも高校生は不利ではないのですか?


金井

社会人にはロボットメーカーの研究部門や、センサー・メーカーの開発部門の方等、ファクトリーチームも参加しています。しかし、それらの競合を破って、高校生が勝利するケースも多くあります。そこがロボット相撲の醍醐味です。



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神崎

ロボットメーカーのファクトリーチームが高校生に負けるんですか? にわかには信じがたいですね(笑)。


金井

ロボットの基礎/基本での勝負であるが故に、複雑にすると耐久性がなくなったり、様々な環境変化によって勝敗が左右されたりします。例えば、ロボットにはセンサーを使っているため、光の加減でも動作に影響が出ます。センサー・メーカーの方の言葉を借りると「たくさんのセンサーを積んで強いロボットを作ろうと思ったら誰でもできる。しかし、自分たちは如何に少ない数のセンサーでどうやって強いロボットを作るかを研究するために参加している」と言っていました。それぞれの目的と目標の中で戦っているので、勝つためのセオリーのようなものはないと思います。


神崎

センサーの数などがルールで厳しく制限されているということですか?


金井

その逆で、ルールは大きさと重さの制限しかないのです。幅・奥行きが20cm以内、高さ自由で重さは3kg以内です。


神崎

大きさと重さだけですか? そうだとしたら、ものすごくハイテクなロボット力士が出てくるんじゃないですか?


金井

ものすごくハイテクなロボット力士が出て来ます(笑)。しかし、それでも勝てるとは限らないんです。高校生が作ったシンプルなロボットにハイテクロボットが負けるなんてことは当たり前に起こる世界なのです。



ロボット相撲の土俵の材質が、第13回大会で大きく変更になっています。第12回までは土俵が硬質ゴムでできていたので、貼り付くチカラ、ダウンフォースを得るために掃除機の技術を使って、下向きに空気を吸引して土俵に吸着するロボットが登場しました。それはやがてポンプ式になりますが、貼り付く相手に対してそれを剥がすスクレイパー型が登場しました。お互いに吸着と剥がしあいになると硬質ゴムの土俵ごと剥がしてしまうケースが多くなり、第13回以降、土俵の表面は鋼板に変わりました。

土俵が鋼板になると今度はロボットが貼り付くチカラはマグネット、磁力に変わりました。強力なマグネットを使えば貼り付くチカラが強くなり、1トン近いチカラでくっつきます。しかし、貼り付くチカラが強ければ、前後に動くパワーもより大きなチカラが必要になり、一般には貼り付くチカラが大きければ動きは鈍くなります。貼り付き重視かスピード重視か、バランス型か、その他にも様々なコンセプトがぶつかり合ってロボット力士は戦います。高校生達を含めて出場者は皆、それぞれモーター、回路、バッテリー、センサーの数などを工夫してロボットを設計すると言います。

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ロボット力士はマグネットで吸着して1tg近いダウンフォースを得る。相手の吸着を剥がすスクレイパーも装備

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最近の主流となっている腕つきタイプ

金井

最近は腕のついたロボットが多くなり、この腕で挟み込んで相手をはがす技術も使われるようになってきました。


神崎

この競技のチューニングの難しさをもう少し具体的に教えてもらえますか?


金井

レギュレーションに制限がほとんどない分、どんなことが起こるかというと、24V(ボルト)の定格モーターに対して48Vをかけてパワーを出すということを考えます。しかし、そうするとモーターは焼けてしまいます。それを焼けないようにするためには制御コントロールをつけて、どうしたら焼けないかを工夫します。

また、タイヤで駆動する場合、タイヤのグリップも重要ですがグリップ力が高いタイヤを使うとロボット同士がぶつかり合ったときにタイヤの回転は急激に止まります。しかし、モーターは回ろうとしているのでそのチカラをどこに逃がすか、電気の負荷がどこにかかるか…など、様々な課題を解決するために自由な発想で、コンセプトに合わせたチューニングを各チームが行っているのです。


神崎

常勝チームが連勝してマンネリ化するようなこともないんですね。


金井

昨年全国大会で優勝したロボットが、今年は地区大会の一回戦で敗退するということだって起こり得ます。技術を見せたら次年度には研究されて攻略される、それがロボット競技の世界だと思います。


神崎

なるほど、奥が深いですね。ところで、ロボット相撲は現在の御社にとってどんなメリットがあるのでしょうか?


金井

社会貢献活動の一貫です。研究や教育の場であり、高校生や大学生にとっては企業の研究者やファクトリーチームと技術で本気の腕試しができる貴重な場になっていると考えています。ちなみに高校生や大学生にとってはロボット相撲で優勝したり、上位に入ったという実績だけで企業の内定がもらえるケースもあると聞いています。



ロボットの基礎・基本を学ぼうというコンセプトのもとに始まり、28年間、ロボット技術の向上を目指して開催されてきた「全日本ロボット相撲大会」。ニュース報道やビジネスシーンでなにかとロボットが話題になっている今こそ、この歴史あるイベントをぜひ体験してみては如何でしょうか。

■ 全日本ロボット相撲大会 – ALL JAPAN ROBOT-SUMO TOURNAMENT
http://www.fsi.co.jp/sumo/

■ 第28回 ロボット相撲大会 開催概要(スケジュール)
http://www.fsi.co.jp/sumo/tournament/outline.html

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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