「10年前から、いつかARMを買収したいと考えていたわけです」
ソフトバンクグループの孫正義社長は、「SoftBank World 2016」の初日午前中に行われた基調講演の冒頭でこう切り出した。そして、今週月曜日に発表された英・ARMの3.3兆円での買収劇について、講演時間の丸1時間半を使って話し始める。
やっと憧れのスターに会える
10年前から、いつかARMを買収したいと考えていたわけです。買収発表の2週間前、トルコの港町のレストランでARMの会長とお会いし、初めてそこで買収の提案を持ちかけました。2週間で日本の経済史の中での最大の発表。電撃で今回の発表にこぎつけました。
昨年「シンギュラリティ」についてお話しました。人類がこれまで体験した中で、初めて遭遇する、技術的特異点。この先人類は、人間の知性を超えた”超知性”にめぐり合います。
この1年間、シンギュラリティに向けて事業をどうすべきか、私はずっと考え続けました。そして、私なりの答えが「ARMの買収」でした。
それはなぜか。40年前、私が19歳の時に遡ります。
40年前、私は”あるもの”に巡り合いました。サイエンス雑誌のページをめくっていたら、摩訶不思議な写真がありました。未来都市の設計図のような幾何学模様。人差し指に乗っかるような破片。次のページを捲ると、それが「コンピューター」であることを知りました。
コンピューターというと、鉄腕アトムでお茶の水博士が使っていた、大きなコンピューターのようなドデカイものというイメージがありました。それが指先の上に乗っかる小さなものになったということを理解した瞬間に、ジーンと痺れて、感動しました。そして、涙が止まらなくなりました。
僕はその写真を切り取って、クリアファイルに挟んで、枕の下に敷いて寝て、リュックサックに入れて、時々眺めては「にたー」って笑って。
ついに、人類は自らの知性を超えるものを生み出してしまった、と。ワクワクするような感動するような世界でもあります。
僕は19歳のあの感動を思い出します。(今回の買収で)やっと憧れのスターに会える、やっともう一度会ってこの手で抱きしめられる。その興奮で冷め止みません。
IoTのセキュリティの鍵を握るARM
シンギュラリティの重要な鍵は「IoT」です。20年後、ARMは1年間で約1兆個のチップをばら撒くでしょう。
そして、リアルタイムに森羅万象のデータを吸い寄せる。すると、この”超知性”は最も賢く、最も素早く、森羅万象を予知・予言できるようになります。その超知性を持ったスマートロボットが、コンパニオンとして一緒に活動し、これまで人類が解決することができなかった自然の大災害から守ってくれます。不治の病から守ってくれます。そして、平均寿命は200歳を超えると思っています。病から人類を守ってくれる世界。
ARMは、チップの設計をしている会社です。チップのメーカーに設計のライセンスを提供しています。
148億個のチップライセンスを提供している「ARM」のマーケットシェアは、スマホでは95%を超え、タブレット、ウェアラブル、ストレージ、車でも圧倒的なシェアを持っています。皆さん、ARMのことは知らないかもしれませんが、実は使っているんです。
スマートホーム、スマートシティ、その他のデバイスにも、提供する数はどんどん伸びていきます。
ARMには「トラストゾーン」というセキュリティを守る機能がありますが、IoTにおいて一番大事になるのは、セキュリティだと思います。
将来、部屋はIoT機器だらけになります。
そんな世の中が来た時に、誰か悪い人がハッキングをする。ある日突然、世界中で仕掛けられたウィルスが同時に目覚めて悪さをする。すると、どうなるか。世界中の飛行機が同時に全部地上に墜落、世界中の高速道路を走っている自動運転車のブレーキが全部止まり、世界中のハイウェイが大パニック、大事故になります。
IoTの世界、超知性の世界というのは、好む好まないに関わらずやってくるわけですけれども、だからこそ重要になるのが、セキュリティ機能です。
ARMのトラストゾーンは、一般とは別にセキュアな部分として、インターネットからはアクセスできず遮断されています。一般のインターネットから入れない形で鍵がかけられています。
トラストゾーンのすごいのは、100万個のチップ1個ずつに、ハードウェア的に異なった鍵を持っているところです。チップは大量に印刷していきますが、100万回印刷しても100万回全部異なった鍵をハードウェア的に持たせることができます。これがARMの特許であります。
ソフトバンクは、ARMとともに、ARMはソフトバンクグループの中核中の中核の会社として、これからソフトバンクがパラダイムシフトを迎えていくと。パラダイムシフトのたびに、ソフトバンクの主要事業というものは変わってまいりました。
10年に1回くらい、出世魚のように、姿形が、本業中の本業がガラッと変わっているわけです。何屋なのかというと、ひと言で大きくまとめていうと、情報革命屋さんだと。
“超知性”が現れても、それは人類を破滅させるために迎え入れるのではありません。人々に幸せを提供するために生み出されるのです。不治の病をこの世からなくし、事故の起きない社会のインフラに進化させ、自然の大災害から我々人類を守ってくれます。
情報革命というのが、19歳の私のあの涙を流したときからの、自分にとっての生まれた使命だと、生まれた理由だと思っているわけです。この情報革命のために命と情熱を捧げる、生涯を捧げるということであります。