2016年10月17日(月)〜21日(金)の日程で、「ロボットによる山での遭難救助」をミッションとする新しいロボットコンテスト「Japan Innovation Challenge 2016 コンテスト( https://www.innovation-challenge.jp )」が開催される。
会場は帯広空港から車で80分程度の場所にある北海道 上士幌町内の町有林。土日は休みで、見学自由。主催はJapan Innovation Challenge 2016 実行委員会(委員長:北海道上士幌町長)。国土交通省、内閣府地方創生推進事務局、経済産業省が後援している。協賛は、株式会社JTB西日本、株式会社NTTドコモ、株式会社トラストバンク。
賞金総額は2,750万円。実際の山を使うことで、ロボットのイノベーションを促すことが狙い。現在、参加を表明しているチームが4チームあり、主催者としては10チーム弱の参加を希望しているという。
レスキューロボコンなどはこれまでにも行われているが、「Japan Innovation Challenge 2016」は既存のロボコンその他とは一切つながりがないという。賞金が出る点も、日本のロボコンとしては珍しい。8月19日、その事前説明会が六本木アカデミーヒルズにて開催されたので、その模様をレポートする。
地域活性化とロボット関連技術の発展の二つが目的
今回の仕掛け人である株式会社トラストバンク取締役の上村龍文氏は、長岡高専、新潟大学、東北大学大学院、日本アイ・ビー・エムを経て2014年から現職という経歴。NHK高専ロボコンに出場していた経験がある(オーム社 ロボコンマガジン2016年9月号「ロボコンOB・OGの履歴書」に記事が掲載されている)。
トラストバンクはふるさと納税を地域・特典別に紹介するサイト「ふるさとチョイス(http://www.furusato-tax.jp)」を企画・運営している会社だ。上村龍文氏は、今回のロボコンの狙いは「科学技術の発展」と「地域活性化」だと語った。
スマートフォンや自動運転車の内部には日本製の部品が多くつかわれている。だが目立っているのは海外の企業が多い。上村氏は「日本の良いものをもっと世界に出していきたい」という。国内でロボコンは盛んだが、実用化には課題がある。実フィールドで目立った目標を掲げてトライをすることで実用化につながるのではないかと考えて、今回のロボコンを企画したと語った。
課題が最後まで達成できなかった場合は、翌年以降も実施したいと考えているとのこと。また海難事故や少子高齢化に対応した支援などにも展開していきたいと考えているという。
地域活性化については「魅力的なロボットコンテストを開催することで、参加者・見学者が集まり、大自然を体験してもらい、もしかしたら将来の移住候補にしてもらえれば」と狙いを述べた。
会期中にはインターネットを使った中継実況が行われる。実況のナレーションは声優の有野いくさんが務めることも、あわせて発表された。
協賛社の一つ株式会社JTB西日本 ふるさと納税事業推進室 営業推進課長の永井大介氏は、上村氏に同意を示し、日本の技術を発展させて、これをフックに海外に発展したいという発想と実行力に感銘を受けて協賛したと語った。
永井氏によれば、ふるさと納税について、上士幌町は成功をおさめている自治体の一つ。地域産品ブランディングや人の交流が進んでいるという。「交流文化産業とこのロボコンはマッチするところ。喜んで協賛を続けたい」と語った。
競技フィールドとなる上士幌町とは?
競技フィールドとなる上士幌町役場の企画財政課 主査 梶 達 氏は、ゆるキャラ「ほろんちゃん」のぬいぐるみを頭にかぶって登場し、町の魅力を紹介した。
北海道の真ん中にある上士幌町は人口およそ 4,900人。総面積は695.87平方キロで東京23区よりも広い。うち、76%が山林。産業は農業、林業、観光だ。港区と同じくらいの牧場や、大規模な農業法人があるという。
アクセスは飛行機とレンタカーとなる。羽田からだと、とかち帯広空港を経由した場合は、おおよそ3時間かかる。
会期となる10月には、気温がマイナスになることもある。初雪を観測するときもあるため、暖かい服装は必須だ。
宿泊先は、「ぬかびら温泉郷」というところに九軒ある温泉宿となる。また、参加ロボットの整備には廃校になった小学校が使われる予定だ。そこの教員住宅は移住体験ができる場所となっていて、先着2チームにはその場所が提供される。現在ほかにも移住体験住宅を宿泊できる場所として提供するため調整中で、4チーム分はおさえてあるとのこと。10月16日にはウェルカムパーティも実施予定だという。
3つの課題「発見」「駆付」「救助」
競技の具体的な内容については、Japan Innovation Challenge2016 実行委員会、株式会社トラストバンクの山下貴史氏から説明が行われた。
課題は3つに分けられている。「発見」「駆付」「救助」だ。
課題1「発見」
まず課題1が、遭難者に見立てたマネキンを発見し、その位置情報(緯度経度)と写真を取得してメール送信する「発見」。
緯度経度の誤差は、±30mまで許容される。スタートから60分以内に達成しなければならない。
課題2「駆付」
課題2が、幅200mm×奥行200mm×高さ200mm、重さ3kgの木製の箱(レスキューキット)をマネキンの周囲3m以内まで運ぶ「駆付」。スタートから180分以内に達成しなければならない。
課題3「救助」
課題3がマネキンを収容し、スタート地点から10m以内まで搬送する「救助」だ。スタートから360分以内に達成しなければならない。
マネキンは25℃〜30℃で外気から隔離された空間に格納した状態で、搬送中にマネキンの受ける衝撃は、上下左右前後方向に1G未満とされている。
それぞれの課題を達成したチームには賞金が贈られる。課題1が賞金50万円、課題2「駆付」が賞金500万円、課題3「救助」が賞金2000万円である。賞金の受け取り拒否はできない。課題1については、発見するたびに賞金が出るため、5日間毎日成功すれば、それだけでも250万円を獲得できる。
マネキンについては後述するが、特に課題2、課題3はかなり難しいと思われる。上村氏も「課題3まで行けるかどうかは未知数だ」と語った。いまでも狙いはドローンや地上のロボットなど、各種ロボットを組み合わせたレスキューへのチャレンジなのだが、課題3はまず実現が難しいため、実際の競技はドローンが主体になりそうだ。
競技会場の山林は3平方キロメートル
競技フィールドの広さは3平方キロメートル。リアルな山林だ。役場からおよそ15分程度の距離にある。標高はおよそ300m程度で、沢などアップダウンもあるし、木々は鬱蒼としている。もともとは携帯電話の電波も届かないそうだが、NTTによる臨時基地局を立てる予定だ。
ロボットの整備会場には、実施会場近くの小学校の教室を8時から20時まで使用出来る。電源、水道、暖房、Wifi回線の使用が可能。宿泊は不可。この整備サイトから競技フィールドまでは車で15分から30分程度とのこと。
コンテストの実施期間は2016年10月17日(月)〜10月21日(金)の月曜日から金曜日(当初は28日までだったが短縮された)。各日の午前10時から午後4時のあいだに競技は行われる。準備・後片付けの時間はそれぞれの前後1時間。
参加チームは初日の参加は必須。2日目以降の競技への参加・不参加は任意となっている。各チームは、上記「発見」「駆付」「救助」の3つの競技課題のうちいずれかに参加しなければならない。
参加チームの要件
参加チームは、以下の要件を満たす必要がある。学生と企業や、複数企業による合同チームによる申込みも可能。チーム編成に人数制限はない。
(2)チームのメンバーである個人、企業、その他の組織及びそれらの構成員に反社会的勢力に属する者が含まれていないこと。
(3)2016年10月14日0時までにコンテストの公式HP(www.innovation-challenge.jp)から事前の登録を完了すること。
競技参加費は無料だが、諸経費は各チーム負担。観覧は無料で、観覧席が用意される。参加者関係者はここで見ることになる。参加者・観覧者の保険は主催者が加入することで対応する。安全ネットも設けられる予定とのこと。
参加ロボット・ドローン
使用するロボットの台数や原価、種類に制限はない。当初は社会への実装を重視していたため原価100万円以下とされていたが、その規制はなくなった。安全性については一般的な規定がある。
ロボットの操作は、競技フィールド近くの山麓に設けられた本部スペースで行う。チームは主催者の開始の合図以降にスタート地点からロボットを起動する。1チームにつき1枚、スタート地点に1m×1m程度の板を設置できる。
有線での操縦は禁止されている。無線での遠隔操作か自律動作かといったことは問わない。使用無線周波数は法律に基づいたものとされている。
複数台のロボットが操作されることが予想されるので、主催者によるチーム間での無線周波数調整はない、とホームページにはあるが、現実的には調整を行う予定とのことだ。海外機の持ち込みによる電波そのほかの対応についても現在検討中で、総務省などに一括で対応するとのことだ。もろもろ検討中のようなので、実際に参加以降があるのであれば、事務局と交渉するのがベターだ。
すべてのロボットは、競技時間中は仮想フェンスで囲われたフィールド内にとどまる必要がある。ただし、ロボットの充電や修理のためスタート地点に戻ることは可能とされている。
各ロボットは位置追跡のために200g程度の位置情報タグを装着する必要がある。仮想フェンスを越えたらロボットは自動的に停止する機能を備える必要があるとされている。回収は主催者が行う。
模擬心拍・模擬呼吸ができる遭難者マネキン
遭難者に見立てたマネキンは、競技開始前までに実施会場のいずれかの位置に設置される。設置場所は毎日変更される可能性がある。競技開始時にマネキンの設置場所は開示されない。マネキンの服の色なども当日発表される予定。マネキンの半径3mの範囲で上空10m以内にロボットが侵入することは禁止されている。
マネキンは以下のようなものだ。
(2)表皮はプラスチック製
(3)服を着ている
(4)場所によっては30℃程度の温度を持つ
(5)頭部から2酸化炭素を放出する
(6)心臓付近で鼓動する物体を有する
(7)加速度計、温度計、GPS装置を胸部に保持する(但し、チームはこれらの装置から得られる情報を利用することはできない。)
(8)重量50kg程度
なお、2016年8月から参加登録者への貸し出しが予定されている。9月5日が第一次コンテスト参加申請情報提出締切。9/16-17日には現地説明会が実施される予定だ。詳細は後日とのことで、それぞれ問い合わせが必要となる。詳細は公式サイトをご覧いただきたい。
マネキンを開発したのは、レスキューロボットで知られる小柳栄次氏が代表を務める株式会社移動ロボット研究所。会見には小柳氏も顔を見せて質疑に答えていた。
新しいアプローチでイノベーションを
大会前日にはプレイベントとして、持ち込みのドローンを使った宝さがしイベントなども行われるそうだ。なお、実際の状況を考えると風雨があるほうが現実的ではあるが、コンテスト当日の天候が雨となった場合、どこまで対応する予定かは検討中とのことだ。
質疑応答では、レスキューロボコンを行っている愛知工業大学 工学部機械学科 准教授の奥川雅之氏から「夕方から夜間に遭難する」という設定になっているシナリオと、実際のコンテスト内容の矛盾や、人が入れる場所で、なぜロボットを使うのか、入れる場所まで人間が踏み込んだあとにロボットを使うといった根本的な疑問も投げかけられた。ヘリコプターが飛べない状況でドローンが飛べるわけもない。
これに対して上村氏は「ロボットを使うことで人が作業できない時間にも探索できるし、二次災害を防ぐこともできるのではないか」と答えた。
また、有線は不可で無線使用のみとされているが、10月とはいえ鬱蒼とした山林内では、無線はすぐに届かなくなる。そもそも実際の現地は細い林道が一本あるだけで、他は慣れない人だとまず歩くのも難しいとなると、現状の地上移動ロボットでは、まず対応が難しい。よって、競技の主体はドローンが担うことになってしまいそうだ。
マネキンは体温にあたる温度を保ち、二酸化炭素を放出するが、あくまで人程度にとどまっている。どんな場所にマネキンを設置するかによって、課題1の難しさは大きく変わってしまいそうである。
多くの疑問があるのは仕方ない。賞金も出る競技会形式ではあるものの、実際にはやりながら競技者と事務局が相談して決めていくことも多そうだ。
何より、実フィールドでロボットを動かしてロボコンをやろうとしている点は面白い。実際のロボット開発では、そこまで持っていくことも大変なことが多いからだ。また、大学の研究者たちとは全く違うやり方でイノベーションを起こそうというアプローチ自体はあっていいと思う。
いずれにしても、今後の技術向上に資するロボットコンテストになることを期待している。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!