第34回ロボット学会学術講演会(http://rsj2016.rsj-web.org)が、山形大学にて2016年9月7日から9日までの日程で開催中だ。ロボット研究者による発表の場だが、企業による展示のほか、「オープンフォーラム」は一般公開で行われる。
9月7日には「ロボット革命イニシアティブ協議会」主催による「ロボット社会実装促進に向けたロボット革命イニシアティブ協議会からの提案」というセッションが行われた。
「ロボット革命イニシアティブ協議会(https://www.jmfrri.gr.jp)」は、2014年5月にOECD閣僚理事会(http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/oecd/page24_000276.html)にて、安倍総理が世界に向けて「ロボットによる新たな産業革命」を表明した(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0506kichokoen.html)ことに端を発する。
その後、9月に「ロボット革命実現会議」が発足。翌年1月にはアクションプラン「ロボット新戦略」が公表。「ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)」が設立された。実現会議のメンバーは、ロボット研究者だけではなく、ロボットサービスのユーザーやAIの研究者から構成されている。
「ロボット新戦略」では、2020年までに製造分野での市場を2倍に、非製造分野の市場は現在の20倍にすることが目標とされている。具体的には、組み立てプロセスのロボット化率を上げること、介護ロボットの国内市場規模を500億円にすること、情報化施工の普及率3割などが掲げられている。
なお「ロボット新戦略」では、特定のハードウェアだけではなく、システム全体を「ロボット」と位置付けている。IoTによる製造ビジネス変革も視野に入れている。ロボット革命イニシアティブ協議会自体は民間団体だが、国とも緊密な連携をとって活動している。
ロボット革命イニシアティブ協議会では、1)IoTによる製造ビジネス変革,2)ロボット利活用推進、3)ロボットイノベーションという3つのワーキンググループを設置して活動を行ってきている。それぞれのワーキンググループでの活動がレポートされた。
IoTによる製造ビジネス変革ワーキンググループ
IoTによる製造業の革新とは何か。ロボット革命イニシアティブ協議会・事務局長の久保智彰氏は「顧客が欲しい本質に、より近付けるサービスがIoTだ」と述べて、同WGの活動について解説した。
IoTがものづくりに適用されると、工場内の機械、工場の管理、工場と市場などがつながることで全体最適化が行える可能性がある。企業間の関わり合いも変わる。RRIでは150社のメンバーでWGを作り、活動を行っている。月1ペースで議論を行っており、最初の一年は意識を合わせるところからはじめ、2030年のあるべき姿を模索した。欧米を追いかけるだけでなく日本の強みをいかすこと、プロセス変革を行うために、具体的には、製造プロセスの標準化やセキュリティ、基礎インフラ整備などを今後検討していく。
サービス具体像としては、いま、企業に導入されているコピー機では保守サービスがある。あれと同じように、工場のロボットにおいても遠隔保守、予知保全サービスのモデル化を行い、サービス展開を行っていくことになる。中小企業に対しても身の丈にあったIoT活用法があることを示していき、バックアップ・情報集約を行っていくという。
また、ドイツやアメリカなど海外の同様の取り組みとも連携していくための準備作業を進めているとのことだった。
ユーザーとロボットサプライヤーを繋ぐマッチング ロボット利活用推進ワーキンググループ
ロボット利活用推進ワーキンググループは、各分野のロボットの活用を期待する事業者の要望をサプライヤーにつなぐ仕組みの具体化・実現、いわゆるマッチングを掲げるWGである。ロボットを実際の工場に入れるためには、サービス・インテグレーター(SIer)の役割が重要だ。だが日本のSIerはこれまでの経緯によって提案力が低く、その向上を目指した業務プロセスの標準化などを行っているという。
現在、マッチングデータベースを構築中で、10月のJapan Robot Weekで具体的にマッチングすることを目標としている。9月5日現在で96社が登録されており、ロボットを導入しようと思っている企業が、食品やものづくり、農林水産など各分野で検索すれば、それを得意とするSIerが出てくるようになっている。
標準メソッドは「RIPS(Robot system Integration Process Standard)」という名前がつけられている。これを標準的管理手法とし、導入工程を明確化することで、進捗リスクなどを明確化し、顧客も良し悪しが判断できるようになる。業界用語も統一する。リスクアセスメントも含む。また、商習慣にも踏み込んでSIerの資金的負担を軽減することも目指す。
具体的には、作業を定義し、それにどんな何が必要で、担当者はどういう人が必要なのかといったことが示されている。
「ロボット事業支援機関の創設」を目指すグループもあり、ここでは全国の中堅規模の企業にロボットシステムを採用してもらうためのサポートシステムを考えているという。都道府県レベルでの支援機関を作り、情報を共有化する。また、教材としての中古ロボットの確保や調査なども行う。
いわゆる「リーン・スタートアップ」のような考え方で「小さく産んで大きく育てよう」と思っているという。また、産業用と非産業用はまったく異なるので、両者に違いを区分して運用に取り組んでいく。ハード中心ではなく、システムをどうやって入れていくのかというコンサルティングを中心としていく。地域には「スマートものづくり応援隊」というものもできている。そういった仕組みとも連携して地元からのオーダーに応えていく。
ロボットを使うための環境整備も重要だ。電波法については情報通信審議会が「ロボットにおける電波利用の高度化に関する技術的条件」が答申されており、遠隔制御用の新規の周波数帯域の確保などが課題としてある。ドローンについては改正航空法が成立したが、まだ課題がある。道交法についても同様だ。介護ロボットへの保険適用は始まっている。農地法などについてはまだ話が始まっていない。
ロボットの事例の共有のためには、ロボット導入実証補助事が76事例、ロボット導入FS補助事業が40事例あり、ハンドブックが作られている(ロボット導入実証事業ハンドブック2016:http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/pdf/20160426001_01.pdf)。ロボットの導入による労働生産性の向上だけでなく、若手の採用が容易になったといった効果もあるそうだ。
ロボット国際競技大会も ロボットイノベーションWG
ロボットイノベーションWGには、3つのサブWGがある。プラットフォームロボット、安全基準、ロボット国際競技大会だ。プラットフォームを導入することで適用分野の拡大や使い勝手の向上が期待される。
分野としてはものづくり、サービス、生活支援の3分野におけるプラットフォーム化を狙っている。たとえばサービス分野では人間同等程度の動作範囲、可搬重量10kg程度が必要だろうと考えられる。
オープンソースソフトウェアの活用や機能強化によって機能要件を実装することになるが、そのためにはテストやドキュメンテーション、安全規格とのマッチングなど非機能要件を詰めていくことも同様に重要になる。各プレイヤーが集まって協議するコンソーシアムも重要だと考えられる。
スライドではカワダロボティクスの「NEXTAGE」がものづくり分野に、サービス(物流)分野では日立の双腕ピッキングロボット、生活支援分野ではトヨタのパートナーロボットの写真がイメージとして掲げられていた。
安全基準やルール整備も進められている。開発のV字モデルを拡張し、設計、実証実験、社会実装各段階でそれぞれの安全要求事項を検討して検証していこうとしている。
「ロボット国際競技大会(仮称)」は、ものづくり、サービス、災害分野の3つで競技・展示を行うことでロボット技術の飛躍的発展、社会実装の加速をねらおうというものだ。2018年にプレ大会、2020年に本大会を予定している。場所は日本、正式名称は検討中。事業規模は数十億円程度。10−20カ国から100−120チームの参加をねらっている。
競技・展示の展開としては、人材育成はもちろん、ハードウェア、ソフトウェアのプラットフォームの普及や実装加速を狙っている。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!