2016年9月8日に開催された「Autodesk University Japan 2016」で、ロボットを使ったある興味深いプロジェクトが行われていた。
プロジェクトを行っていたのはストップモーションロボティクスの谷口直嗣氏と岡崎智弘氏。
展示ブースで実際の制作を行い、その成果を講演で披露した。
たくさんの静止画をパラパラマンガのように再生することで動きを表現するストップモーション・アニメーション。その制作をロボットでやったらどうなるだろう、という試みが「ストップモーションロボティクス」のプロジェクトだ。
主人公は四角い木片。これが少しずつ移動していくだけのシンプルなアニメーションなのだが、それがロボットによって制作されたと思うと不思議と感慨深い。
展示会場のブースでは、KUKAのロボットアーム2基(lbr iiwa)がしきりに動いている。
1台のロボットアームが木片のコマをつかんで持ち上げて、少し移動した位置に置くと、もう1基のロボットアームに装着したカメラがその木片を撮影する。置いたアームが写真のフレームからはずれたタイミングを狙ってシャッターを切っている。再び、ロボットアームが木片のコマをつかんで持ち上げて、少し移動した位置に置くと、またそれを撮影する。
撮影した写真を続けて再生するとコマがひとりで移動しているようなムービーに仕上がる。
コマを動かすロボットアームの動きと撮影のタイミングはすべてプログラムで制御されている。制御はパソコンにインストールしたAutodesk(オートデスク)のMaya(マヤ)で予め設定し、ストップモーション作成ソフトは「Dragonframe」(ドラゴンフレーム)を使用した。
CGの便利な機能を実世界のオーサリングに活かせないだろうか、という発想のもと、Mayaが計算したカメラの移動や向く方向とロボットが連携するしくみなどを開発した。
ロボットと人の協働、ロボット同士の協働
講演では午前中に展示ブース会場で作っていた映像を披露したとともに、作成工程が紹介された。
谷口氏は以前からPepper用アプリの開発などを手がけており、ロボットとの触れあいや協働、協調についての研究や開発に積極的だ。Pepperが子供の頭に手をあてて身長をはかるアプリを開発したり、昨年の国際ロボット展では「ロボットと人間が共同でフラワーアレンジメントを行ってひとつの作品を作る」試みを行って展示した経験もある。
今回のこのプロジェクトも「ロボットと人間が一緒にひとつの映像作品を作る」ことをテーマにしている。
今回使用したKUKAのロボットアームは関節部が保護され、人が周囲にいても挟まれたりしないように安全性が考慮されたデザインをしている。触ったりぶつかったりすると感じるセンサーも搭載している。一般に工場で稼働しているロボットアームは人間にぶつからないように柵で囲われた立ち入り禁止区域で作業しているが、このロボットアームはより人間に協働することが前提にデザインされていると言う。
著者が最も印象に残っている谷口氏の作品が「Pepperだらけの携帯電話ショップ」でPepperとKUKAのロボットアームが協業して商品を来店客に渡すシステムだ。Pepperは人を傷つけないことがコンセプトのひとつなので、モノをつかむことができない。そのため顧客に納品する製品を運んでもって来ることができない。そこで、会話が得意なコミュニケーションロボットであるPepperが顧客との会話を担当し、モノをつかんで運ぶことが得意なロボットアームがPepperからの指示を受けて、顧客の製品を所定の棚から取り出して手元のテーブルに運ぶもの。ロボットがお互いの利点を使って協働する姿だった。
谷口氏は、スターウォーズに登場するロボット「R2-D2」と「C-3PO」の例を引き合いに出し、この両者の関係も同じではないかと気付いたと言う。確かに映画の本編には「C-3PO」が人間との会話を担当し、「R2-D2」が実際の作業や操作を担当するという、いわばロボットの協働シーンが今まで何度が描かれている。
PepperとKUKAのロボットアームもこの関係に似ている。
複数のロボットの協働をアイディアに加えることによって、実現できることは格段に増えるかもしれない。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。