人と機械の「融和」を目指すオムロン 卓球ロボットと新型物流ロボットをCEATEC 2016に出展
「CEATEC JAPAN 2016(シーテック ジャパン 2016)」が10月4日から10月7日の日程で幕張メッセにて開催された。CEATECはもともとは家電見本市だが、今回はAIやIoTをテーマとしており、しばらく姿を消していたロボットたちも各社ブースで復活した。
開会に先立つ10月3日はプレス公開と記者会見が行われた。こちらではオムロン株式会社による卓球ロボット「フォルフェウス」のギネス世界記録認定証授与式と、新型物流ロボット発表の記者会見の様子をレポートする。
「最初の卓球コーチロボット/First robot table tennis tutor」としてギネス世界記録に認定
オムロンの卓球ロボット「フォルフェウス(FORPHEUS)」は、オムロンが描く「人と機械の関係の進化」を紹介するための体験型デモンストレーション。対戦相手の位置やボールの動きを1秒間に80回読み取り、打ち返すことができる。ロボットのコントローラー、センサー、もちろんパラレルロボット本体も特注品ではなく、すべて製品を組み合わせて作られており、オムロンの汎用技術のレベルの高さをアピールするものとなっている。
2013年に中国でのプライベート展示会で初お披露目されたあと、2014年のCEATECで国内デビュー。その後も進化を続け、2016年の今回で3代目。パラレルリンクロボットにラケットをもたせた構造のロボットで、画像センサを使ってボール位置を三次元計測して、狙った位置にボールを打ち返すことで、人とラリーを継続する。最初にお披露目されたときは「機械が自ら考え、人に合わせる」というコンセプトだった。
なお「FORPHEUS」は2015年12月につけられた名前で、「Future Omron Robotics technology for Exploring Possibility of Harmonized aUtomation with Sinic theoretics」の頭文字をとったもの。オムロン独自の未来予測理論「SINIC理論」に基づく、オムロン独自のロボット技術を表現した造語とされている(2015年のリリース:http://www.omron.co.jp/press/2015/12/c1201.html)。
今回、フォルフェウスは、世界初の「卓球コーチロボット/First robot table tennis tutor」としてギネス世界記録に認定された。会見ではギネスワールドレコーズジャパン株式会社 匠ニッポン・プロジェクト・リーダーのヴィハーグ・クルシュレーシュタ氏がプレゼンターとして登壇し、オムロン株式会社の執行役員常務CTOの宮田喜一郎氏に認定証を授与した。
なお『匠ニッポン』とは2014年にギネスワールドレコーズによって立ち上げられたプロジェクトで、日本の技術と職人や技術者を世界に発信することが目的。
ギネスワールドレコーズ社のヴィハーグ・クルシュレーシュタ氏は、フォルフェスについて、「『匠』と呼ぶに相応しい技術。日本の匠を伝えられて嬉しい」とコメントした。
「センシング&コントロール+Think」人と機械が互いに成長する未来
会見では授与式に続いて、オムロン株式会社 執行役員常務 最高技術責任者(CTO)兼 技術・知財本部長の宮田喜一郎氏は、オムロンでは人と機械との関係が、代替、協調・協働を経て、将来は機械が人の判断を支援する「融和」へとつながると考えていると述べて、オムロンの技術戦略について解説した。
オムロンの今回の展示テーマは「センシング&コントロール+Think」。課題を解決するために情報を取り出し、現場データと知見を使ってソリューションを提供することを目指している。
産業、生活、社会いずれの分野においても課題がある。それらに技術を適用する。
たとえば産業分野での例として、プリント基板に電子部品を実装し最後にはんだづけする工程である「基板実装ライン」での実際の改善例を示した。途中までは順調に流れているラインが、あるところで時間がかかっていることなどを工場の現場データから見える化したところ、ベテラン技術者でも案外気がついていない課題が見つかり、解決したところ、このような成熟されたラインでも30%の改善を実現することができたという。
今後は、機械を制御するPLC による現場データ収集などを通し、ベテラン技術者の知恵をAI技術に置き換えていくことで、ベテランがいない現場でも故障予知、予防保全などを行い、さらに生産性を改善する。
また、生活領域においては、心疾患リスクを血圧管理する例を紹介。従来型の朝晩だけに計測を行っていた血圧計ではわからなかった、24時間連続測定、一拍毎の血圧変動を測定できる新たな血圧測定によって、これまでは見逃してきたピーク血圧によるリスクを可視化できるという例を示した。
実は正常な人でもイベント発症者は多いのだそうだ。つまり、いま「安全」とされてる人のなかにもリスクが高い人がいるということだ。心疾患はいったん発症するとQoLが著しく低下するし、医療財政の悪化を招く。いままで見えてなかったリスクがわかるようになる「イベントゼロの実現」は、圧力センサ、センサ角度を適切に制御する技術によって実現できるという。
社会領域においては、高齢者ドライバーの事故は認識判断の速度低下によって起こると指摘し、それをいかに機械で補完するかがポイントだと述べた。これからは自動運転技術が普及することが予想されるが、自動運転技術導入にあたって重要なことは、「ドライバーがどのくらいの時間で運転に復帰できるのかということ」をシステムが把握することだという。たとえば、ドライバーがもし寝ていたら、自動運転を解除することはできない。システムは自律的に別の動作に移る判断をする必要がある。そのような判断のためのセンシング技術と判断技術の開発を行っており、様々なアプリケーションを検討中だと述べた。
また、IoT時代において、各種センサーのデータを自由にとってくることができたらどんなことができるか。現状、センサーのデータは閉じられた空間に閉じ込められているが、センシングデータをもし自由に、シームレスに流通できたら「点から線、面へと広がり、新しいサービスや事業が生まれてくるのではないか」と述べて、「センシングデータ流通市場」の実現を目指していると述べた。
センシングデータ流通市場とは、株式市場のようなマッチングを想定したもので、売りたい人がデータを市場に出して、購入者とマッチングすることができるようなものだという。このようなプラットフォームができれば間接的にセンサー市場も大きくなるし、様々なオープンイノベーションが生まれる可能性がある。
宮田喜一郎氏は、このような未来像を示すことで、共感するパートナーと技術開発を加速していくことを、同社では「バックキャスト型オープンイノベーション」と呼んでいると語った。
オムロンの新型モバイルロボット
会見では続けて、新型物流ロボットとして、「屋内用モバイルロボットLDプラットフォーム」の発表とデモが行われた。レーザーセンサーを使ってSLAM(Simultaneous Localization and Mapping。環境地図作成と自己位置推定を同時に行う技術)を行い、簡単設置で動的環境での運転、すなわちライン敷設やレールなどを不要とした搬送ロボットで、フレキシブルな搬送が実現できる。2シリーズ4形式が発売される。
オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー ロボット推進プロジェクト 副本部長の池野栄司氏は、ものづくりの環境変化をニーズ、シーズ、それぞれ3種類の変化でまとめて解説した。
ニーズの変化はものづくりの高度化、グローバル生産の定着、自動化ニーズ増大。シーズ側はICT、ロボティクス、AIそれぞれの進化だ。品質を確保しつつグローバル化するためには標準化やリスク対応が必要になる。先進国での生産人材不足、新興国での人件費高騰、熟練工の不足、ノウハウベースから見える化など、様々な環境変化が起きている。
ロボット活用現場においては、人と機械が協調し、互いに支援しあう環境の実現が求められている。オムロンは2015年10月にアダプトテクノロジを買収。産業用途のロボット事業拡大に力を入れている。市場環境が変化するなかで、ロボットも含めた生産システム、ライン全体の課題に対して顧客価値を創出していくと語った。
これまでのロボットは柵のなかに入っていた。今後は人と協調し、一緒に働くことになる。さらに「新しい協調においては、人とロボットが自律的に一緒に動く」という。ロボットが人の動きを見て最適な動きを実現することで、生産性と柔軟性の向上を目指していく。
今回の搬送ロボットもその一環で、既存設備や機器はそのままで、間をつなぐ部分をこのモバイルロボットで実現したいと述べた。目指すは生産性と柔軟性の向上だ。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!