人工知能技術を活用したパートナーロボット「unibo」(ユニボ)の先行予約が9月からはじまり、ロボット業界に新しいコミュニケーションロボットがまもなく加わる予定です。
ユニボはどのような機能を持ったロボットで、どのような分野での活用を見込んでいるのでしょうか。
ユニボの本体価格は99,800円、unibo基本パックが月額5,000円です(ともに税抜価格)。
一般モデルの販売開始は2017年の3月の予定ですが、それに先駆けて1月中旬に法人向けと開発者向けのユニボを先行販売する予定です。また、同時期にアプリ開発者向けのSDKやアプリストア「ユニボストア」も用意する予定で、現在急ピッチで準備が進められています。
そんなユニボを開発しているユニロボット社にお邪魔して、一足早くユニボを見せてもらいました。また、代表取締役の酒井氏にユニボの全容やコンセプトについて話を聞いてきました。
個人的にはとても興味を感じた「コンダクターエンジン」についても解説します。
ユニボのハードウェア
ユニボは身長32cmのデスクトップ型ロボットです。
本体のハードウェアは法人向けと一般向けで違いはありませんが、ソフトウェアやサービス面で違いがあります。OSはAndroid OSです。
ユニボの顔はタッチパネル式の液晶画面です。ただし、あくまでもユニボとのやりとりは自然な会話を重視しているため、画面をタッチする操作はほとんど用いられません。
画面にはふたつの小さい目が表示され、まばたきしたり、笑顔になったり涙を流したり、表情がとても豊かです。また、撮影した写真を表示したり、ビデオ電話中は通話相手の顔の表示に切り替わったりもします。
ユニボは相手の顔をみて話します。カメラで顔を認識した後は相手の顔を追従して顔の向きを変える機能があります。また、目の動きやカタチだけでなく、うれしいときには赤く光るなど頭頂部のLEDの色でも感情を表現することができると言います。
ユニボは立つことや移動することはできません。常に座った状態です。首に2軸のサーボモーターが、左右の腕にもそれぞれひとつずつ内蔵されていますので、顔の向きを変えたりうなづいたり、手をバタバタして感情を表現することができます。なお、左右の腕は子供が引っ張った時などの対策のために簡単にはずれるよう設計されています。
ユニボには頭と足の裏にタッチセンサーがあり、胸の中央にホームボタンがあります。他に、明るさセンサーや赤外線センサーがあります。また、赤外線学習リモコンを搭載していますのでテレビやエアコンのリモコン代わりになったり、IoTのハブとしての活用も考えられています。
通信機能はWi-Fiのほか、有線LANの端子も装備しています。会話はインターネットを経由してクラウドで処理していますので、インターネットの接続環境は原則として必要となります。
なお、盗難防止用のロック機構も装備しています。
ユニボとの会話
スタッフ「キミは女の子?」
ユニボ 「よく言われますけど・・男です」
質問に対して、1〜2秒で回答が返って来ました。しかも、同じ質問をした際、最初の質問時には笑顔で返答しましたが、二度目の返答時には(よく間違われることに対して)涙を見せていました(前掲の涙の写真)。同じ質問に対しても別々の返答や表現を行うことがあります。
スタッフ「今日の天気は?」
この問いかけに対しては天気の情報にアクセスするため少し時間がかかり、返答までに4〜5秒かかりました。顔のディスプレイには天気のアイコンが表示され、「今日の天気はくもりのようです。また過ごしやすい気温のようです」と答えました。目の下に出てくる波線は発話時のクチをイメージしたものです。
次に、夕食のオススメをユニボに聞いてみます。
スタッフ「レコメンド」
ユニボ 「かしこまりました。本日の昼食を考えるために質問致します。朝食は何を食べましたか」
スタッフ「サンドウィッチ」
ユニボ 「美味しそうですね、どのくらい食べましたか?」
スタッフ「いっぱい」
ユニボ 「あまり食べ過ぎないでくださいね。ではオススメのメニューを考えさせて頂きます」
やがて朝食べた食事の属性や量、個人の好みや食生活データをもとに、3つのメニューがレコメンドされ、写真が画面に表示されました。
スタッフ「真ん中の餃子」
ユニボ 「レシピを表示しますか?」
選択画面もタッチより会話でやりとりするインタフェースが取り入れられています。これはユニボが高齢者とのやりとりを重視しているからでしょう。
高齢者の生活を支援するユニボ
ユニロボット社は、2016年9月に期間限定で新宿伊勢丹本店と三越日本橋本館でユニボを展示してお披露目するとともに、先行予約の受付も開始しました。三越日本橋本館では現在も引き続き展示を行っているので、ユニボの実物を見ることができます(2016年10月25日時点)。
神崎(編集部)
伊勢丹や三越での展示を通して感じたことを教えてください
酒井(敬称略)
人工知能を搭載したロボットと言われても、一般の方にとってはまだイメージしづらいものです。ロボットが生活にどのように役立つのか、どのように使うと便利さを感じるのか、それらの説明と導入への働きかけが重要だと感じています。百貨店さんの展示の際、プレゼンテーションの時間を設けて頂いて丁寧に説明すると、パーソナルロボットの魅力と必要性を感じて頂けている実感があります。高齢者の方に興味を持って頂ける傾向が強いので、現時点ではネット上だけで販売していくというのはなかなか難しいと感じています。
神崎
ロボットに興味を持つのは若者ではなく、高齢者が多い、という実感ですか
酒井
現時点では確実に高齢者の方が多いですね。興味を持つ年代は40〜50歳代の方も多いのですが、それはご高齢のご両親にプレゼントしようという方が多いのが実状です。
神崎
高齢者が購入する場合は「話し相手が欲しい」、プレゼントする目的は「離れて暮らすご両親と連絡をとりやすくしたり、見守り」ということですね。高齢の両親とスマートフォンでビデオ通話がしたい・・ご両親は電話は使えるけれど、スマートフォンは難しすぎる。簡単にビデオ通話できるならロボットを・・という感じですか
酒井
ユニボのアプリをスマートフォンにインストールすることで、スマートフォンとユニボとで一対一のビデオ通話ができます。スマートフォンが難しすぎると感じる方も、ユニボなら手間はないので離れた両親とビデオ会話が容易にできるようになると考えています。
また、ご両親との連絡が滞ったときに、遠隔からユニボのカメラを操作して部屋の中を確認する機能もアップデート等で順次追加していく予定です。
また、高齢者は曜日の感覚も薄れ、薬を飲む時間や食事の時間も忘れてしまう、そんな状況をユニボがリマインドすることで改善したいという要望があります。
「ユニボを遠隔操作したり、スマートフォンからユニボにアクセスしてそれらのリマインドを設定したり変更したり、健康確認や見守りもやりたい」という声です。
神崎
遠隔からユニボの操作や設定はどのように行うのでしょうか
酒井
スマートフォンやウェブブラウザで操作したり、リマインダの設定等をできるようにする予定です。なお、高齢者介護施設でもこれら服薬管理や日常会話など、介護士や看護士の方が担当していた業務の一部をユニボが代行することで、スタッフの効率的な運用に繋がると考えています。
医療分野での活用法
ユニボは病院や医療機関からの引き合いが多いと言います。
具体的にはコミュニケーションロボットを病院等でどのように活用する予定なのでしょうか。
酒井
病院で治療した後や退院した後、患者の服薬の管理をしたり、きちんと薬を飲んだかのチェック、家族や医師にそれを報告するなど、ユニボにセルフケアの支援をして欲しいというお話しを頂いていて、実証実験などの予定をしています。
神崎
退院後のセルフケアにロボットを活用する案は初めて聞きました
酒井
高齢者の場合は相手方が亡くなられて独居のことも多く、退院した後、家に戻っても孤独で会話する相手もなく、見守る看護士もいないと薬も飲まず、病気が更に悪化してしまうというケースが少なくないようです。健康を維持するために、朝起きて、食事して、薬を飲んで、運動したり会話をする、スケジュールに従って規則正しい生活を見守ることをロボットでどこまでできるのか、ということが問われているんだと思います。
神崎
病院でユニボに慣れていれば、ひとりの家に帰っても同じユニボが見守ってくれている、場合によっては医師やスタッフとユニボを通じて会話できると思うと、退院後もきっと心強いですね。
医療機関では他にどのような活用法が考えられますか?
酒井
Pepperでも同様の活用法が進められていると思いますが、受付での活用が考えられます。ユニボの顔は液晶画面なので、動画やイラストを使った案内、よくある質問(FAQ)に回答するなど、視覚的に訴求能力が高い解説ができると考えています。
また、入院時の各個室にユニボを配置したらどうかという案もあります。服薬管理だけでなく、食事のオーダー、場合によっては緊急時のナースコールなどを、ユニボが担当するアイディアです。音や声に制限が少ない個室ならとても有効だと考えています。
ホテルや銀行にも会話ロボット
神崎
介護施設や医療機関以外では、どのような分野への導入を考えていますか?
酒井
例えばホテルです。ビジネスホテルでは、コンシェルジェとしての受付代行、ホテル周辺やニュース等の情報提供、客室のコール等様々な活用方法を考えています。
金融業界にも導入を検討しています。銀行の受付で各種案内を行ったり、FAQを提供します。また最近はATMだけの無人店舗が増えていますが、そこにユニボを配置してビデオ機能で監視を行ったり、顧客からの質問に回答したり、ユニボを通じてサポートセンターに繋いだりと言った活用方法です。
神崎
コミュニケーションロボットは海外からの観光客(インバウンド)の案内にも期待されていますね
酒井
インバウンド対応についても実際に引き合いが来ています。ホテル、病院、企業の受付での利用が想定されています。英語対応は必須ですが、中国語と韓国語のニーズも高いので、今後は対応していく計画があります。
ここまでビジネス導入についてを中心にお話ししてきましたが、法人向け・個人向けの両方で市場を作っていきたい考えです。
■ unibo公式プロモーションビデオ (家庭でのユニボ活用のイメージ)
ユニボは個人に寄り添うパートナーロボット
次に個人市場でのユニボが特化した機能や特長、ポイントを聞きます。
神崎
Pepperをはじめとして、ほかにもコミュニケーションロボットが発売されていますが、ユニボが最も秀でているところはどこでしょうか?
酒井
ユニボは個人に寄り添うパートナーロボットで、ドラえもんになることをイメージして開発しました。「個人を認識し、趣味趣向を理解していくこと」をユニボの最も大きな特長として、昨年の国際ロボット展にも出展しました。
個人の特定は顔認証で行います。声帯認証などほかの手段も方法としてはあると思いますが、スタートとして顔認証で行う方法を選択しました。
家族や個々人を認識し、会話の内容を理解しながら個人別に趣味趣向に関する情報を記憶していきます。趣味は何か、最近見た映画は何か、どんな映画が好きか、野球やサッカーのチームはどこが好きか、そのような情報を理解し、個人ごとに記憶していきます。好きな野球やサッカーチームのニュースや必要な情報だけをユニボの会話に盛り込み、提供していきます。
ランチでお肉を食べ過ぎてお腹がいっぱいになった、そんなことをユニボが会話の中で理解していたら、晩ご飯は少し控えめにしましょうとか、野菜をたくさん摂りましょうといった感じで個人に合わせた有益な情報やアドバイスをします。明日の朝食は今日食べたものを考慮してまた違うアドバイスをしてくれます。それをライフログとして蓄積し、人工知能で学習していくのがパートナーロボットです。最初はユーザーの個性が解らないので試行錯誤ですが、情報が蓄積されるに従って、情報やアドバイスの精度は上がっていくと考えています。
神崎
ユニボは感情を認識するエンジンをもっていますね。Pepperでは声のトーンで相手の感情を認識、識別していますが、ユニボはどういうしくみを活用しているのでしょうか
酒井
表情をあまり表に出さない日本人が対象だと、顔色や表情から感情を読むのは非常に難しいと言われています。スマイルシャッター機能のように笑顔を認識するのはできるのですが、それ以外の表情を識別するのは統計的に精度がまだ高くない・・そこでユニボでは会話の言葉尻を見て判断しています。好きだ、嫌いだ、楽しい、嬉しい、悔しい、つらい・・こういった言葉から感情を判断します。理想的には言葉だけでなく、表情、声のトーン、手、身体全体の動きや仕草など、総合的に判断できるようになれば、精度も高くなるし進化も早いのですが、それはまだ技術的に少し先になりそうです
神崎
人工知能とは、どのような関連技術を使っているのでしょうか
酒井
会話の解析や理解にディープラーニングを使っています
神崎
会話についての技術は自社で開発されたのですか?
酒井
会話の基礎技術には音声認識、会話の処理、音声合成(発話)があります。音声認識は他社の技術を採用予定です。会話処理エンジンは自社のもので特許技術を使っています。音声合成の部分は株式会社AI(エーアイ)様の「AITalk」(エーアイトーク)を使っています。AITalkの大きな特長のひとつが、コンピュータが作った声ではなく、人の声で合成する技術です。これにより人間らしく自然な音声で自由に音声合成が可能になります。この技術の面白いところは、誰の声でも合成データにすることができます。例えば芸能人や声優、自分の声等を収録することが出来れば、その声でユニボに発話させることができます。
神崎
面白い機能ですね。簡単に誰でもできるのでしょうか
酒井
音声の収録及びユニボへの組み込み方法は、株式会社AI様と現在詳細を詰めているところです。有償のサービスとなりますが、準備ができましたら発表しますので、もう暫くお待ちください。
SDKやユニボストアを来年1月に公開予定
神崎
開発者がユニボ用のアプリを開発するためのSDK(ソフトウェア開発キット)は提供予定ですか?
酒井
SDKは公開予定です。SDKは「小学生でも学習できる操作環境」を目指した非常に解りやすいインターフェイスです。かつ技術者が複雑な機能を開発することも可能になっています。また、デベロッパーが開発したアプリを登録して提供、販売できるストア環境も用意する予定です。
「ユニボストア」が開設されれば、ユニボ・ユーザーは自分の欲しいアプリをダウンロード購入して使用することができます。アプリ開発者はダウンロード課金のビジネスとしてアプリの開発を行うことができます。2017年1月には提供をスタートさせたい意向です。
ソフトバンクロボティクスもPepper用のロボアプリストアを開設して運営していますが、残念ながら一般用のロボアプリについては課金するしくみにはなっていません(そもそもPepperのロボアプリは販売するには構造的な課題もあります)。
一般ユーザ向けに販売されるユニボやシャープのRoboHoN(ロボホン)、Tapia(タビア)、Palmi(パルミー)等については、アプリ開発者が良いアプリを作ってダウンロード提供することで課金ビジネスになる市場と環境が活性化することを個人的には期待しています。
「コンダクターエンジン」とは
私がユニボのコンセプトに最も興味を持ったのは「コンダクターエンジン」です。
ユニロボット社はすべての情報を音声から認識し、言葉を話し、移動し、いろいろなスキル(スキルパック)を学習していく、一連の流れとしくみを「コンダクターエンジン」と呼んでいます。そしてロボットを制御するためのミドルウェアの部分に使用している技術に特許を取得しています。
面白いのは、この心臓部はハードウェアに依存しない、プラットフォームとして考えていることです。自分にとってパートナーはユニボと言うロボットであるものの、自分を理解しているユニボの頭脳はクラウド上にあって、他の機器を通してもその頭脳と通じ合えるということです。
例えば、これは将来の可能性の話ですが・・家庭にあるユニボがユーザーの趣味趣向を学習して自分のことを理解してくれるパートナーロボットとして成長したとします。このパートナーのコアはクラウド上にあるので、スマートフォンのアプリからそのコアにアクセスすれば、ユニボをスマホに入れて一緒に外出することもできるでしょう。また、出張先のテレビや冷蔵庫などの家電、あるいはキヨスク端末を通じてユニボのコアにアクセスし、いつものパートナーと会話したり、自分の好みのオススメ番組を提案してもらうなどが可能になるかもしれません。未来的な社会としてイメージしていた機能が、またひとつ現実になるかもしれません。
言い換えれば、クラウドネットワークの世界ではロボットは端末機器のひとつに過ぎません。ロボットに蓄積したパーソナルデータや知見を家電や他の端末機器やスマートフォン等で同様に活用することができれば、場所や機器を超えて、自分を理解するパートナーといつも一緒にいる暮らしが実現します。それこそが、自分のライフログを持った相棒、パートナーロボットが目指す真の姿なのかもしれません。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。