トヨタやサイバーダインが採用 ロボットやドローンに人工知能を搭載できる開発キット「NVIDIA Jetson」とは
GTC JAPAN 2016では、NVIDIA(エヌビディア)社のAI搭載コンピュータボードを採用したロボットやドローン等が各種展示されていた。
トヨタ自動車の「HSR」やサイバーダインの「クリーンロボット」もそのひとつ。共通しているのは、ロボットやドローンの組み込みに適したAIコンピュータボード「NVIDIA Jetson」シリーズが搭載されていることだ。
JetsonはGPUを搭載して並列処理と行列演算を高速化したプラットフォームで、製品版のほかに開発者キットが比較的廉価で販売されている。これらはディープラーニングを活用したロボットやドローンの開発が飛躍的に短縮できる可能性を持つと同時に、ディープニューラルネットワークを搭載したロボットや機器の開発が身近になったことを強く感じた。
サイズは「NVIDIA JETSON TX1」でクレジットカードサイズ。コンパクトサイズに256基のNVIDIA CUDAコアと、64ビットCPUを搭載、電力効率が良いのが特長だ。ロボットやドローンにおいて、ディープラーニングやコンピュータービジョンの最新技術を導入したい開発者が選択していると言う。
Jetson TX1は組み込み用モジュールで、開発キットとして「JETSON TX1 開発キット」が用意されている。「JETSON TX1 開発キット」は、Jetson TX1モジュール(Tegra X1搭載)とインターフェース引き出し用(カメラ用の子基板を含む)キャリアボードとなる。また、Tegra K1を搭載した開発キット「JETSON TK1 開発キット」も用意されていて、こちらは非モジュール構造だ。
展示会場では「JETSON TX1 開発キット」を7万円で販売していた。
会場では、基調講演で紹介された企業や団体がブースを開き、Jetsonを搭載した各種ロボットやドローン等を展示していた。
今回はその一部を詳しく紹介したい。
トヨタ自動車「HSR」
トヨタ自動車が開発している「HSR」は最小時は身長約100cm、身体と腕を伸ばすと130cmになる生活支援ロボット。
HSRは周囲の状況を見極め、落ちたモノを拾ったり、机上のモノや高い場所に置いてあるモノをとることができる。人間やモノを認識したり、簡単な会話を理解する。このHSRの目としてJetson TK1が既に搭載されている。
会場ではデモモードで決まった動きしかしていなかったが、HSRに搭載したJetsonは、物体や人間の認識が必要とされる際にディープラーニングを含めて機械学習や演算処理などにーでチカラを発揮し、計算効率が良い点を評価していると言う。
現在、HSRは大学や企業などの研究用としても利用されれているほかに、高齢者施設などで実証実験が行われている段階だ。施設内を巡回し、会話をしている。そもそも高齢者にとって違和感なく存在できるか、スタッフの方がHSRを必要と感じるかなどの実験結果を集計している。
サイバーダイン
ロボットスーツ「HAL」などの先進技術で知られているサイバーダインは、トレーニング台、クリーンロボット、搬送ロボットでJetson搭載モデルを展示した。
トレーニング機を利用する人(ロボットスーツを着用したリハビリ含む)がどのような歩容で歩いているのかを前方下部のセンサーで検知する。一歩あたりの幅、速度、脈動等を数値化して解析するが、Jetsonは大量の三次元の点群データを認識して処理する。画像系のセンサーから大量のデータが送られてくるが、それを高速に効率良くリアルタイムで処理するのに役立つと言う。
「クリーンロボット」はいわゆる自動掃除機。
公式ホームページのキャッチコピーは「ひとりでエレベータを乗り降りし、オフィスを掃除する、働き者」。羽田空港などでレンタルで実用化、国際線ターミナル等で活躍している。リハビリ用のトレーニング台とクリーンロボットのアーキテクチュアは速度や精度の違いはあれど、基本となる技術はほぼ同じ。これにも「Jetson」を使用している。
ロボット掃除機の前方には三次元の目としてカメラやセンサーが設置されている。画像の点群やレーダーから大量のデータが入ってくるが、これを処理するスピードが重要となる。ロボット自身が動いているので例えば1秒ごとに処理していたのではロボットは既に場所を移動しているため遅すぎる。そのため、素早くリアルタイム処理するのにJetsonを使い、GPUの並列処理で大量の点群データを演算することが速度アップに有効だと言う。
サイバーダインは同様に搬送用ロボットも開発中で、これにもJetsonを採用している。
採用の理由としては、CUDAをはじめとして開発環境が整っていること、開発のコストパフォーマンスが高いこと(性能がよくて価格が安い)、発熱が少ない、などが上げられる。特に長時間動かすことが前提のロボットでは発熱の有無は大きいと言う。
サイバーダイン クリーンロボット
アクティブリンク
アクティブリンクは、重作業用パワードスーツ パワーローダー「MS-04」に、Jetsonを搭載したバージョンを試作として展示した。
パワーローダーを使っているとき装着者からは足許が見えにくいが、前方のカメラ映像を前方を写すと共に物体検知で、注意を促す技術が追加されている。その部分でJetsonが利用されている。
AI搭載ドローン
エンルートが開発した「Jetson TX1 搭載ドローン」。救急物資の輸送等で活躍を想定している。
ターゲットのGPS座標が解らない状況時に、このドローンが人間やバックパックなどの人工物をカメラ映像からリアルタイムで認知するため、自動的に捜索フライトと探索が可能となる。また、同様に映像を解析することで高精度の着陸ナビゲーションも可能となっている。
ヒューマノイドサッカーロボット
千葉工業大学が展示した小型のヒューマノイドサッカーロボット。
ロボカップの大会ルールの変更により、従来の短色ボールから柄付きのボールに変わったため、ロボットが色でボールを認識することが困難になった。そこでディープラーニングでボールの認識を行うような設計変更がロボットには期待されるが、問題は処理速度。学習の高速化にはGTX 980Tiを用い、認識時間を高速化するためにロボットには「Jetson TX1」を搭載したという。その結果、従来のATOM D525使用時には190msかかっていた処理時間が、Jetsonでは4msに短縮されたという。
また、宇都宮大学ほかが自動運転のロボットを展示して注目を集めていた。いずれもカメラ画像から人間や物体、信号機などを検知したり、センサーからの情報を高速に処理して自動走行するが、その処理にJetsonがひと役買っている。
NVIDIA Jetsonによって、今まで開発が困難だったディープラーニングや、処理速度が遅かった部分が改善されることで、多くのロボットやドローンに広くAIが搭載されるチャンスが生まれてきた。比較的廉価で試作品を開発したり、研究を加速することができるので、うまく活用すれば大きなビジネスチャンスになると、来場者である開発者たちも今後の展開に期待感を膨らませている様子だった。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。