【中国ロボット市場最前線 vol.09】日本企業が中国でロボットビジネスを展開するには
中国ロボット市場は近年、急速に発展し、世界で最も大きな市場のひとつになっています。
しかし、市場規模がいくら大きくても、この市場が利活用できていなければあまり意味がありません。技術・製品と市場の二つの要素が揃ってから初めてビジネスになります。
当たり前の話ですが、中国市場でロボットビジネスを展開するには、中国の事情に合わせたアプローチが求められています。本稿は、中国でロボットビジネスの展開において知っておきたいことを話したいと思います。産業用ロボットについては、いままで日本企業の中国進出がかなり進んできましたので、今回はあえてこれを割愛して、これから発展していくコミュニケーションロボットにフォーカスしたいと思います。
中国ロボット市場に関する「常識」
中国ロボット市場を見るときは、いくつか重要な「常識」をまず念頭に置いていただきたいと思います。
1.独力よりパートナーシップ
中国進出するには、既に中国でビジネスの拠点やネットワークを持っている会社とパートナーシップを構築したほうが効率的になります。法制度、商習慣、言葉などでは、中国社会に詳しくない場合、ビジネスがうまくいくとは考えづらいです。
いまからビジネスのパイプを自社でゼロから構築するには、かなりの時間がかかり、試行錯誤に対するコストもかかるので、求められるスピードに応えられません。しかし、中国で強力なリソースを持っていて市場に対して迅速にコンタクトできるパートナーと手を組めば、リードタイムを短縮することが可能となります。それに、拠点や要員を持たなくてもビジネスが展開できるメリットがあります。
当然ながら、中国でのパートナーは日本のビジネスカルチャーをある程度知っている企業が望ましいですね。物事に対する共通の認識やコミュニケーション上の阿吽の呼吸などは、無形のものでありながら、協業・協力の成功を根本的に裏付けるものでもあります。
何よりもコミュニケーション
中国ビジネスをうまく進めていくには、ビジネス関係者とのコミュニケーションが大事です。日本の洋服姿式の表敬訪問や公式面談などはよくありますが、お互いに気軽に連絡・相談するスタイルがビジネスの隅々まで浸透しています。チャットツールの普及は更にこのビジネススタイルを進化させています。
例えば、チャットツールWeChatには、ロボット業界の大規模なチャットグループがあり、リアルにロボット業界の情報が共有されています。これらのコミュニティには言葉の壁があります。これを超えなければ、チャットツールは利活用できません。とはいえ、WeChatを利用しなければ、ビジネスOUTと言っても過言ではありません。これらの業界コミュニティ、便利なコミュニケーション手段なくしてはビジネスが成り立たないほど重要性が増してきています。
3.スピード感を持とう
ロボット産業に限らず、中国でのビジネスはスピード感が求められています。
これは、よく耳にするインフラの整備と同じです。道路は、数日ぶりに車で通ると、変わってしまっているかもしれません。ビジネス面もアイデアのビジネス化、意思決定の迅速化、気軽なビジネス交渉、業界情報の共有などスピードが重視されています。ロボット業界も例外ではありません。完璧なものを出すより、早いタイミングでユーザに体験してもらい、市場の反応を見ながら軌道修正・製品改善していくアプローチがより効果的になります。そうしないと、いつか、イメージされているロボットは、他社から出てしまうことになります。いま、市場にどんどん出てくるロボットを見ると、一刻も争う実感が湧いてくるだろうと思います。
4.コスト勝負も忘れず
ロボットにまだ馴染みのない一般ユーザにとって、コストはやっぱり重要な考慮すべき要素になります。製造大国である中国では、ロボットの資材調達から生産まで担当できる工場は簡単に見つけられます。一部のロボット会社は、中国各地域の市場に製品をより速やかに届けること、そして運送途中での破損回避など流通も考慮して自社工場を作っています。
例えば南方の市場に対しては深センの工場から、北方の市場に対して天津の工場から出荷されたりします。そうすることでトータル的にロボットのコストが低減されます。ここで誤解にならないように付け加えると、コスト勝負は品質・サービスレベルを無視するわけではありません。数十年間の発展を遂げている中国は、各方面で競争が激しくなり、品質やサービスレベルに対する期待も高まってきているので、激しい競争の中で勝ち残るにはコストが欠かせない最も重要な要素であることと理解していただければと思います。
中国進出するために知っておきたいこと
上記の「常識」を念頭に置きながら、以下のことについても知っておきたいと思います。
1.ロボットの価格体系について
日本では天気予報などクラウドサービスを利用するコミュニケーションロボットは、本体価格のほか、月額利用料のようなサービス費用がよく設定されています。これに対して、中国では基本的にこのようなクラウドサービスは別途費用がかかりません。クラウドサービスを充実させ、無料で利用してもらうことでロボット本体の販売を促すことが一般的なアプローチになります。言い換えると、ロボット会社が存続する限り、これらのサービスが無料で利用できる仕組みです。もちろん、一部機能追加など別途お金がかかるものもあります。従いまして、ロボット本体のみの価格設定では、クラウドサービスのコストも考慮しなければなりません。
2.ロボットのローカライゼーションについて
中国にロボットを輸出するには、ほとんどローカライゼーションが必要となります。特にコミュニケーションロボットは、人間と会話をしたり、クラウドサービスを利用したりするので、言語対応、音声識別・処理・合成などの中国語化作業が発生するのです。このほか、ロボットに関するドキュメンテーションの中国語化も必ず伴う作業になります。たまには、ペッパーのように、ロボットOSそのものをアリババのYunOSに変換することもあり得ます。
しかし、音声対応はコミュニケーションロボットにとって命でもあり、高度な技術力と豊富な実績が求められています。クラウドサービスもユーザに付加価値を提供するうえで極めて重要なもので、自らの構築はハードルが高いと言わざるを得ません。
3.ロボットの輸出について
日本で生産したロボットを中国に輸出する際、ロボットの種類・規格などによっては検疫・通関手続きが異なります。特に、中国強制製品認証制度(China Compulsory Certification、よく3C制度と略称する)に該当するかどうかは、手続きが大きく変わってきます。
3C制度は、中国国内において国民の安全確保・環境保全を目的として、中国向けの自動車関係、電気製品、玩具等の指定製品に対し、中国国家標準の適合性を評価する制度です。3Cマークが無い製品は、日本からの輸出、中国国内での流通ができません。
3Cに該当するかどうか、該当した場合の手続きはやや煩雑なものもあり、自社で調べるより、パートナーや専門機構に頼んだほうが良いと思われます。
4.アフターサービスについて
商品販売後のアフターサービスは、会社の信用、ブランド、ビジネス拡大につながるもので、利用者数の多寡にも関わらず、体制として整備する必要があります。お問い合わせ対応、返品、部品交換、修理などが考えられます。ユーザの信頼・期待を裏切ることにならないようにしっかり整備することが望ましいです。お客様対応センターやアフターサービスセンターを整えているパートナーの利活用が得策ではないかと思います。
優遇政策の利活用方法
近年、中国政府によりロボット産業を発展させるための奨励政策が多く打ち出されています。主に「製造大国」から「製造強国」へシフトするための『中国製造2025』計画を支えるもので、産業用ロボットへの支援がほとんどですが、コミュニケーションロボットのような知能ロボットの技術研究や技術応用にも多くの優遇政策が支援金や補助金の形で実施されています。
詳細は、本シリーズの文章「【中国ロボット市場最前線 vol.01】加速する中国ロボット産業の最新事情〜国家政策と優遇措置」をご参照ください。
では、外国企業として、どのようにしてこれらの優遇政策を享受するか、というと、以下のことが考えられると思います。
1.ロボット産業園区への拠点設立
基本的に指定されたロボット産業園区にエリア本部と研究開発センターを設立した場合、投資総額に応じて一定の比率で補助してもらえます。オフィスレンタル費用のうち一定の比率が補助の対象となります。補助額や申請手続きは、地域・産業園区によっては異なりますので、ケースバイケースで考える必要があると思います。
2.ハイテクノロジーの認定申請
ロボット本体、部品、OS、アプリ、インダストリーソリューションなどは、公共機関に新技術・新製品(サービス)として認定された場合は、売上高に応じて一定の比率で補助してもらえます。公共機関は国家レベルか、省・直轄市レベルか、レベルによっては異なります。ある意味で投資の事後補助の形になりますが、長期的に中国市場を狙う場合は、これらの支援金・補助金でビジネス拡大につながるのではないかと思います。
3.共通プラットフォームの建設
ロボットの技術研究開発、検査・試験、研究成果産業化、工業設計、知財サービス、展示交流、市場応用などの面で、共通的な技術プラットフォーム及び産業促進プラットフォームを建設する場合、投資額に応じて一定の比率で補助してもらえます。国際的に影響力のあるロボット関連の創新創業コンテスト、技術&産業フォーラム、ロボット展示会などの交流活動の主催も奨励の対象になります。海外企業としては、中国企業と手を組んでロボット産業の国際交流を進めることは、魅力的なものになるかもしれません。
4.産業研究や人材育成
ロボット技術の発展が遅れている中国だからこそ、ロボット産業の研究及び人材育成は、重要視されています。中国内外有名大学はロボット及び知能装備産業技術研究院を建設したり、教育機関と共同でロボット産業の人材を育成したりすることで、投資額や実績に応じて補助してもらえます。技術研究院、実践訓練基地、教育機構などの形が考えられます。
以上、すこし大雑把な話しでしたが、中国でロボットビジネスを展開するには、現地の事情に合わせたトップデザインが必要だとご理解いただきましたでしょうか。技術の優位性、ロボットの競争力、現地事情の理解度、拠点・パートナーの有無などによっては、進出シナリオが変わってくるので、それぞれの具体的な状況に基づきケースバイケースのフィジビリティ検証とビジネスデザインが望ましいかと思います。
分かりづらいこと、または更なる説明をご希望される場合は、お気軽にご連絡いただければと思います。
よろしくお願いします。
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Dequan Tangイーパオディング株式会社代表取締役社長、北京璞華機器人(ロボット)情報技術有限公司CEO。東京・北京にてITシステム化、日中間ビジネス、グローバルビジネスコンサルティング業務に十数年間携わり、いま中国でロボットのメディア、展示、販売、研究開発を行うロボット事業、及び「個客」ビジネスの「自由自在」を支援するグローバルリサーチ、コンサルティング、インターネットサービス事業に従事。IT関連の講演・著書多数。 Email:tang_dequan@epaoding.com 微信(Wechat) ID:tomotogether