毎年1月初めに米国ラスベガスで開催されるCES。ロボスタでも今年の模様は報告されており、自動車の紹介がいくつかあった。コンシューマー・エレクトロニクス・ショーの名称で分かるように、本来は家電見本市という位置付けなのに、年々クルマが目立つようになっている。
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CESに自動車が姿を見せるきっかけは、今から10年ほど前にあった。2007年、すでにCESの主役的存在だったマイクロソフトが、フォード向けのコネクテッドシステム「シンク(Sync)」を発表。すると翌年はフォードのライバルGM(ゼネラルモーターズ)のリック・ワゴナー会長兼CEOが自動車メーカーのトップとして初めて基調講演に登壇し、会場の駐車場では自動運転実験車のデモ走行も披露した。
CESに進出した9つのクルマメーカー
米国では2004年から、国防高等研究計画局(DARPA)による自動運転車のレースが始まっており、2007年には初めて舗装路で行われた。ここで優勝したGMの自動運転車が翌年のCESで披露されたのだ。
つまり自動車メーカーとIT企業の双方が、自動運転車とコネクテッドカーという共通の目標に向けて歩み始めたのが10年前であり、それ以降CESはこの分野の最先端を見せるイベントとして注目されるようになったのだ。
では今年はどうだったか。自前のブースを用意した自動車メーカーはトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業(ホンダ)、FCA(フィアット・クライスラー)、フォード、BMW、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、ヒュンダイと9つを数えた。
「クルマとのコミュニケーション」を進める日本企業
この中で世界初公開のコンセプトカーを出店したのはFCA、トヨタ、ホンダ、BMWだった。ただしBMWはインテリアのみのコンセプトであり、スタイリングやメカニズムを含めたコンセプトカーは3台だった。興味深かったのはすべてが、コネクテッド性能をアピールしていたことだ。
トヨタの「Concept-愛i(コンセプト・アイ)とホンダの「NeuV(ニューヴィー)」は偶然にも、ドライバーの感情などを安全や楽しさに役立てるためにAIを活用している点が共通している。パートナーロボットにタイヤを付けたような内容だ。
具体的には、ドライバーの表情や声、動作などをデータ化し、疲労やストレスを感じた時には自動運転モードに移行したり、その人の嗜好に合ったルート案内を行ったりするものだ。コネクテッドカーのことを「つながるクルマ」と呼ぶことがあるが、ここまでくると「考えるクルマ」かもしれない。
一方地元FCAが発表したクライスラー・ブランドのコンセプトカー「ポータル」は、ドアの開口部に仕込まれたカメラを使って乗員をチェック。認識するとその人が選んだ色で開口部が光って迎える。インパネにもカメラがあり、その人に合った音楽や空調を設定してくれる。
注目はホンダNeuVに搭載したAI技術「感情エンジンHANA(ホンダ・オートメーテッド・ネットワーク・アシスタント)」が、ソフトバンクグループ傘下のcocoro SBとの共同開発によるものであり、クライスラー・ポータルのコネクテッド領域はパナソニックが関わっていることだ。
つまり3台のコンセプトカーにはすべて日本が絡んでおり、トヨタ以外は自動車メーカー以外とのジョイントにより生まれていることになる。パートナーロボットの分野で世界をリードする日本が、その技術を応用してコネクテッドカーでも主役を取ることができるかもしれない。
もうひとつのトレンドである自動運転車のほうは、今年は一段落という印象を受けた。どんなに技術競争をしても、現状のルールでは公道を普通に走ることができないことに、メーカーもユーザーも気付いたのかもしれない。
ただ前回のコラムで紹介した自動運転の程度を示す指標では、多くの自動車メーカーが実験中なのは非常時などに人間が対応するレベル3であり、人間がまったく関与しない完全自動のレベル4はこれからという状況だ。そんな未来へ向けて、今年のCESでは提携話がいくつか生まれた。
「殿様」だった自動車メーカーは、IT企業と対等の存在へ
BMWは昨年夏に提携を結んでいたインテルおよび画像処理を得意とするモービルアイと共同で自動運転車の公道テストを今年実施すると発表し、日産はDeNAと組んでやはり今年中に無人運転による交通サービス検証のための実証実験を日本で始めるとアナウンスした。メルセデス・ベンツやスマートを擁するダイムラーはGPUの第一人者NVIDIA(エヌビディア)と手を結び、NVIDIAのAI技術を搭載した車両を今年中に市販するという。
コネクテッドカー領域の話題を含めて、CESで次々に出た異業種との提携のニュースを耳にしながら感じたのは、自動車メーカーとIT企業の立場が対等になっているということだ。
メーカーによってはIT企業との提携を逆にアピールしているような感じすら受ける。
自動車業界は典型的なピラミッド構造だ。メーカーが頂点にいて、その下にサプライヤーがいくつも層を成しているという産業構造である。エレクトロニクスの分野では第一人者の企業であっても、このピラミッドの中ではサプライヤーという立場に甘んじていた。
しかしそれが21世紀を迎えて急速に変わりつつある。電気自動車や自動運転車、コネクテッドカーなど、クルマの根幹となる部分にエレクトロニクスが関わるようになってきたからだ。しかもグーグルのように自ら実験車両を作るIT企業まで出てきた。
自動車メーカーが持っている技術だけでは、今後の激動の時代を乗り越えることは難しい。対するIT企業は、自分たちの技術が未来の自動車に重要であることは知っている。クルマが上、エレクトロニクスが下という従来のポジショニングが通用しなくなってきているのだ。
それを立証していたのが今年のCESであり、ホンダとソフトバンク、日産とDeNA、FCAとパナソニック、BMWとインテル、ダイムラーとNVIDIAといった対等の提携話が続々と流れることになった。
今後この2つの分野が対等にやっていけるのか、それとも覇権争いを繰り広げるのか。来年以降のCESで明らかになっていくことだろう。自動車業界にとって、このイベントの重要性はさらに増しつつある。
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森口 将之1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業。自動車専門誌編集部を経て独立。自動運転からクラシックカーまで幅広いジャンルを担当。新聞、雑誌、インターネット、ラジオ、テレビなどで活動中。自動車以外の交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「これでいいのか東京の交通」(モビリシティ)など。