4月からの新年度に向けて真剣に進路を考える機会が増してくる季節だ。
そんな中で「こんな選択肢もあるのか」と思ってもらえる情報として、2016年の11月に行われた神田外語学院の卒業プレゼンテーションの様子をお伝えしよう。
IoTと神田外語学院の関係性は? と聞かれてもパッとは想像がつかない読者は多いだろう。
しかし、こちらのページにも紹介されているとおり、今回取材した神田外語学院のグローバルコミュニケーション科は「英語を学ぶ」の一つ先のプロセス「英語で問題解決をする人材を育てる」ことを目標に運営されており、卒業生の方の中には超有名グローバル企業のマーケターを輩出するなど、高い実績を残しているそうだ。
そして、昨年からは卒業プレゼンテーションで新規ビジネスのアイデアをプレゼンテーションしており、今回はその題材が株式会社オリィ研究所の開発した遠隔コミュニケーション用の分身ロボット 「OriHime」と株式会社ブリリアントサービスのジェスチャー認識可能なスマートグラス 「mirama ONE」というデバイスだったというわけだ。
では、神田外語学院の学生達が考えたビジネスアイデアはどのようなものだったのか。イベントの様子とともにご紹介していく。
プレゼンテーション紹介
今回の卒業制作発表は、1学年を6チームに分け、外部から招聘した審査員の前で、日本語、英語の両言語でプレゼンテーションをするというもの。
半年以上の時間をかけて考え、ブラッシュアップしたプレゼンではあるが、なかなかに難易度が高い。
その中で特に目立っていた3チームのアイデアを紹介してみよう。
①日本全国を案内できるメガネ型HMD、mirama ONE
インバウンド向けに開発されたサービス。
駅に設置されたOriHimeや、旅行者向けにmirama ONEを通して神田外語グループの学生が学習もかねてボランティアでガイドをするというもの。
②ひとりぼっちの病室が、お母さんと一緒の絵本の世界に!
長期入院中の児童向けにARグラスmirama ONEと保護者の存在感を伝えるOriHimeを使ったリッチな読み聞かせを行うことで心理的なケアをするサービス。
③mirama ONEとOriHimeの映像配信で農業はエンターテイメントになる!
引退した農家の方を活用したコミュニティを作ることで販売や生産の効率をアップさせるサービス。
農作業時にMiramaを通してアドバイスを受けたり、農作物を販売する際に、OriHimeを通してアドバイザーから料理のレシピや作物についての説明をしてもらうなど。
農業にまつわる難易度を下げ、エンターテイメント性を向上させるというもの。
白熱する質疑
どのプレゼンテーションも、しっかりとした内容だったが、質疑は白熱していた。というのも、今回のプレゼンテーションを審査するのが、製品を提供した2社の代表以外にも錚々たるメンバーだったからだ。
・杉本礼彦氏(株式会社ブリアントサービス 代表取締役)*
・渡邊信彦氏(事業構想大学院特任教授)
・高田麻衣子氏(オクシイ株式会社 代表取締役)
・松永 エリック・匡史氏(PwCコンサルティング合同会社 パートナー)
・番田雄太氏(株式会社オリィ研究所 OriHimeパイロット)
・武田哲也氏(株式会社エイド・ディーシーシー取締役/経営企画担当)
・松本和也氏(株式会社マツモトメソッド代表取締役)
(写真右から)
*役職は2016年11月当時のものです。
それに加えて卒業制作を担当された、神田外語学院のレンフロ 比佐子先生、Herman Bartelen先生、Kieran Julian先生。
これだけのメンバーの面前でプレゼンテーションをする経験がある方は社会人の中でもそうはいないだろう。
しかし、相手がどうあれ学生さんにとっては今年度の全てをかけた真剣勝負だ。
英語での質問に対しても、しっかりした対応を見せ「どうやったらこんな学生が育つのか。」(ブリリアントサービスの杉本氏:写真右)
「このままVCに見せたらシードマネーが入りそうなぐらいしっかりしたアイデアとプレゼンテーション。」(株式会社リコーの澤田氏)
と審査員をうならせていた。
一流コンサルタントのメンタリングによるビジネスアイデアづくり
IoT機器やロボットの開発がにわかに活性化したのはここ1-2年の話だ。その中でもOriHime、mirama ONEは新製品、もしくは開発中の商品。授業が実際に動き始めた半年前の時点では機密情報も多かったはずだ。
しかし、そんな機器を絡めた授業が神田外語学院で行われていた背景には松永 エリック・匡史氏の存在があった。
松永氏は、大手SE、通信会社など幅広い分野での現場経験を活かし、現在ではPwCコンサルティング合同会社でメディア戦略コンサルタントとしてロボティクス分野を担当している。
今回の卒業制作は松永氏が通年で担当し、題材から審査員や講師の招聘まで力を注いだからこそ実現したといえるだろう。
卒業制作発表を終えられた学生さんに話を聞くと、口をそろえて「毎回の授業に怖いぐらいの緊張感があった」という。
その反面、「ビジネス的なエビデンスを求めすぎることで『学生らしい発想の自由さ』が失われないように授業の際にも気を付けていた。」と語っていた松永氏。真摯に向き合いながらも、学生の特性に合わせてマネージメントをしたからこそ、今回のようなクオリティの高い卒業制作作品を引き出すことができたのだろう。
また、今回のようなイベントが神田外語学院という、ビジネスでもエンジニアリングでもない舞台で行われたのも興味深い。
バークリー音学院出身で20代前半はプロミュージシャンだったという松永氏、また、同じような年頃にはハリウッドで特殊メイクのメイクアップアーティストとして活躍したという神田外語学院のレンフロ先生。
共に異色の経歴を持つ二人と、時代に合わせて柔軟な対応ができる専門学校という舞台だからこそ、刺激的な分野の素材を提供できたのだろう。
今回の授業を1年間受けIoT分野に対する確かな視点が身についた神田外語学院の学生たち。卒業後の進路は様々だと思うが、どの分野でも今後確実に進んでいくであろうIoT化に向け、確かな見識が備わったと思う。
IoTのように時代の要請を受け、形を変え続けるような新しい分野にキャッチアップしていくには、先入観を捨て、あらゆる分野の人材からヒントを得る必要性を感じた。
IoTに関して動きを見ていると、製品も興味深いけれど、かかわっている「人」が面白い。
オープンイノベーションに関する活動を始め、様々な場所で活動をすることで、IoTの世界観や価値を、世に問うている。
この発表会でも感じたが、プロフェッショナルだからこそ一般の人の考えを引き出し、真摯に受け止め、前に進む糧にしようとしているのではないだろうか。
今後も「こんなところで、開催していたのか」、と思うようなイベントでも伝えていければと思う。