ITに注力することで近年業績を大幅に伸ばしている不動産開発会社、株式会社インベスターズクラウド。「RE Tech(Real Estate Tech : 不動産とITとの融合)」企業としての次の一手はIoT機器の開発だった。
前回はインベスターズクラウドが彼らの戦略の中でどのようにスマートハウスコントローラー「TATERU kit」を開発していったのかを紹介した。
今回は、彼らの戦略の中でのIoT機器の位置づけやマネタイズについて株式会社インベスターズクラウドの子会社である株式会社iApartmentの代表取締役の吉村直也氏にお話を伺った。
「買ってもらう事」「使い続けてもらう事」からマネタイズにつなげる
ロボスタ編集部
前回お話を聞いた「IoT機器に合わせて住宅側を設計してしまう」というお話が目から鱗でした。
そのような形での導入が主となると、販売に関する考え方はかなり従来の製品と異なっているのではないですか?
吉村氏
そうですね。
弊社の製品は一般のIoT機器に比べて価格は高くはない。とはいえ非IoT機器に比べて安いわけではありません。
サービスを運用できるようなパッケージとなると数万円から数十万円。
まず、これを『一般の方』に購入していただくには非常に敷居が高いです。
さらに、いったん購入して終わり、というわけではなく、その後もサービスを運営し続けてられる費用をいただいていかなくてはいけない。
ロボスタ編集部
たしかに、価格の面は非常に気になりますね。
この時代「ちょっと便利そうだな」というだけで数万円高価な製品を購入してもらう、というのは難しい。
吉村氏
ただ、我々の業態であればアパートの建設時に導入してもらうので、そのハードルが非常に下がるんですね。
導入時に関してはアパート建設時にはオーナーさんは一戸当たり数百万円の費用をかけられます。
そのため、その中でIoT機器の購入、設置費用が仮に十万円かかったとしても「高価だな」という印象は薄れます。
ロボスタ編集部
先ほどおっしゃっていたサービスの継続性に関してはどうですか?。
先日IoT機器に関するカオスマップを作ったんですが、クラウド側のサービスや、スマホ側のバージョンアップ対応の終了が怖かったので、発売時期が古い商品に関しては便利そうでも掲載するのを諦めた物が結構あったんですよね。
購入した後に利用できる期間の長さを考え、発売時期が古い商品は掲載を見合わせたケースもあった。
吉村氏
サービス運用時に継続的にかかるコストに関しては家賃や共益費からいただいています。
「セキュリティが高い家だから」「便利だから」という理由で1,000円ほど家賃や共益費が高かったとしても、入居時からわかっている条件なので支払い続ける抵抗は弱い。
そのため、一般的なIoT機器を使ったサービスに比べると継続性は高いと思いますね。
ロボスタ編集部
IoT機器のサービスはスマホアプリなどと比較されがちですが、どうしても「電話」+「ネット接続」というキラーサービスを持つスマホに比べるとインパクトが弱くなってしまいます。
一般の方が生活必需品でないものに対してそこまでお金を払うことはまずない。
その点、「家賃」や「建設費」という回収スキームを握っているというのは大きな強みですね。
吉村氏
そうですね。
ドアホンや集中型のリモコンなどは「あれば使う」物なので、生活の中で機器の価値、ひいては物件の価値を実感してもらうことができるわけです。
先ほども紹介したように、インベスターズクラウドではアパートを建てるにあたって、オーナー様や土地に合わせてオリジナルな物件をデザインしています。
そこを魅力に感じていただけているのか、入居率が非常に高いのですが、継続して住み続けていただくためにさらに価値を向上するための手段を模索し続けているんです。
ロボスタ編集部
なるほど。
一般の方に価値を感じてもらいやすいような普遍的な機器であれば、驚くような便利さではなくても使い続けてもらえますし、その中で感じた利便性は物件の価値向上につながりますからね。
初期導入時にコストを負担するオーナーさんを説得する材料としても「継続してお支払いいただけるような価値が増す」といえば納得していただきやすそうですね。
それ以外に利用用途の拡大やサービスの展開は考えられていますか?
吉村氏
一般居住者向け以外のサービスとしては民泊での利用も考えています。
民泊向けの管理の中でもっとも手間になるのが、鍵の受け渡しや宿泊者の確認など、「物件まで人間が行かなければいけない」サービスなんです。
ただ、これはネットでの登録時の情報とスマートドアホン、スマートロックを連携させれば一挙に解決できますよね。
ロボスタ編集部
たしかにそうですね。
スマートロックを開発するQrioさんに伺ったときにもお聞きしましたが、入居希望者向けの内見時に発生するコストを下げることもできそうですね。
この辺りはビジネス向けでは普遍的な要望のようですね。
吉村氏
また、弊社が開発しているサービスは「一般の人に使ってもらう事」を強く意識しているので、機器を初めて見た宿泊者にとっても価値を感じてもらいやすいでしょうね。
ロボスタ編集部
確かにそうですね。
別子会社の民泊利用者向けにコンシェルジュ機能やイベント情報の掲載、タクシーの配車サービスなどの展開をしているTATERU Phoneを見ると、宿泊者にとって頼りがいがあるだけでなく、リアルな世界の商店街などもエコシステムに取り込んだIoTサービスプラットホームにできそうですね。
今後の展開について
ロボスタ編集部
今後の展開については具体的に何か考えられていることはありますか?
吉村氏
そうですね。
まずは自社物件1000件にTATERU kitを導入しようと思っています。
ロボスタ編集部
凄いスピード感と規模ですね。
ただ、インベスターズクラウドさんが建築を予定しているアパート1棟を単位としたら、そこまで無理な数字でもないのかもしれませんね。
吉村氏
まずはその自社物件でどのようなサービスを提供できるのかを試してみます。
その中で継続的に価値を提供できるサービスの仕組みを固めた後で、他の事業者さんや一般の方々へと事業を拡大していこうと考えています。
ロボスタ編集部
手ごたえ十分という感じですね。
吉村氏
そうですね。
実証実験で使っていただいた方々の反応も上々でしたし、事業社さま向けでは特に民泊用途の反応が好感触でした。
今後もアプリやIoTなどのITソリューションを使うことで、今まで不動産業者が手を出していなかった分野でユーザーを獲得していくことができればと思っています。
ロボスタ編集部
それは楽しみですね。
私のように不動産の知識が無かったり、まとまった資産がない層からすると不動産業界はどうしても、縁遠く見えてしまいますからね。
アプリやIoTを使ってより身近に、使いやすくなるとしたら嬉しいです。
なにより「IoTのマネタイズ」という面では、わかりやすいモデルだと思うので、業界のモデルケースとして皆さんの参考になると思いますしね。
今後の情報もキャッチアップしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
今日はありがとうございました。
IoTカオスマップを作ってみて強く感じたのが「継続的な価値の提供」と「マネタイズ」の難しさでした。
IoT機器を
・便利さを実感できるレベルまで買いそろえる
・自分がメリットを感じられるようなシステムを構築する
といった前段階のハードルはとても高い。
さらにその先には「継続して利用してもらい」、「その対価を徴収する」という壁があります。
もともと持っていたサービスとの相性が良かったとはいえ、かなり難しいこの壁をずいぶん鮮やかに攻略したなあ。というのが今回の取材の感想です。
こういうビジネスサイドのお話は、IoTと切っても切り離せない分野だと思うので、今後もお話を聞いていきたいですね。(優等生感)