「ハードウェア開発者の不在」という大きな問題を乗り越える中で、初期ユーザーとの強固な絆を築き、試行錯誤の中でZERO UIやFlexinpleなどの設計思想を打ち立てるなど、「災い」の中から「福」をつかみ取ってきたMAMORIO。
しかし、ハードウェアスタートアップでは、ユーザーに価値を提供するために「量産した製品をユーザーに届ける」というハードルが非常に高い。
今でこそAmazon Launchpadで快進撃を続けるMAMORIOだが、そこに至るまでの間にあった、いくつもの転機について MAMORIO株式会社 COOの泉水亮介さんにお話を聞いてみた(第3回)。
様々なステークホルダーとの出会いと、転機
編集部
ハードウェアを作り上げるまでの苦労は相当なものだったと思いますが、そこから販売のフェーズに入りますよね。クラウドファンディングで注目を集めていたとはいえ、苦労があったんじゃないでしょうか?
泉水氏
出してすぐのころは、売れたは売れたんですが、自社サイトだけで販売していたので、そこまで爆発的な売れ行き、ということにはなっていませんでしたね。
「落とし物防止タグ」という製品分野があること自体が知られていなかったのもあるでしょうが、自社サイトでの販売は一日数個、ということもありましたね。
編集部
その状況が変わったのはどんなタイミングだったんでしょうか。
泉水氏
ブレイクするまでに転機は四回あったと思っています。
一つ目はGigazineさんへの掲載です。それでyahooのヘッドラインに載って、リツイートされまくったんです。
一日で当時の三カ月分ぐらいの売り上げがありました。
それで、アーリーアダプターの人たちに「こんな製品がある」ということが認知された。
さらに、Gigazineさんの影響で存在を知った、たびラボさんや、テレビ局などのメディアが露出してくれた。
それが去年の4-6月ぐらいです。それがイノベーター層からアーリーアダプター層に移りはじめたタイミングですかね。売り上げは一気に急上昇しましたからね。
編集部
初期のクラウドファンディング出資者のような先進的なイノベーター層の中にGigazineさんのような拡散力を持つ方がいると、一気にアーリーアダプター層への訴求が広がりますね。
泉水氏
二つ目はKDDI∞LABOの存在です。去年の4月末くらいに採択され、9月まで参加していたんですが、そこで大きくMAMORIOのサービスの質が上がり、可能性が広がったと思っています。
当時、MAMORIOアプリはスマホ側の電池の消費量が非常に激しく、よくユーザーの方からクレームを受けていました。
それがKDDIの研究所やベンダーの方々のアドバイスや、試験端末の貸与などのバックアップをのおかげで、電池消費8割減を達成し、アプリの品質もぐっと上がりました。
編集部
研究所のバックアップまであったんですか。
泉水氏
さらに、大きく取り上げられたJALさんやテレビ朝日さんとの実証実験も∞LABOのパートナー企業になっていたから実現できたといってもよいでしょう。
MAMORIOがこういった場面でも生かせるんだという可能性を示すことができ、それを大手の会社さんに認めてもらえる。それが大きな価値でした。営業に関しても∞LABOに参加しているというだけで信用力があがり、東京メトロさんとの事業でも、それが活きてますね。
本当に∞LABOには僕らは感謝してもしきれません。これほど∞LABOを使い倒している企業は他にはなかったんじゃないかなと思いますよ。
他にも東急さんや相鉄x高島屋さんのアクセラレータープログラムなど、僕らのビジョンに対して 深くコミットし、事業を本気で支援しようという意気込みを感じるプログラムがありました。こういった本気度の高いプログラムがどんどん増えてくれると嬉しいですね。
編集部
東急さんや相鉄さん、東京メトロさんもそうですが、やはり鉄道会社との連携は「なくす」をなくす上でキモになってくるんでしょうか。
泉水氏
非常に重要なポイントですね。なので、鉄道会社との連携ができたのが三つ目の大きな転機になります。
すれ違うユーザー同士がお互いの紛失物の位置情報をクラウドに送信する「みんなで探す」機能はすごく重要です。
しかし、統計データをよく調べてみると、警察に届く年間2600万件に遺失物のうち1000万件、約3割は、鉄道会社の遺失物センターに1回集められ、そこからまとめて警察に届けられているんです。
つまり、効率的に落し物を探すためのカバレッジを増やすには駅の遺失物センターでMAMORIOを検知してクラウドに送信する「MAMORIO Spot」を置かせてもらうのが一番なんです。
それに気づいて鉄道会社さんとのリレーションを作るのが非常に大変だったんですけれども、その第一号として、東急さんに協力していただいて実現したという感じですね。
やはり、鉄道会社さんはインフラ系の大手ですし、落とし物のイメージも強いんでしょう。各社さんとの連携が発表されるたびに大きなニュースになりますね。
編集部
なるほど、では最後の転機はAmazon Launchpadでしょうか。
泉水氏
そうです。具体的にいうと、Amazon Launchpadとそれに前後した商流の変化ですね。実はAmazon Launchpadが始まったのは今年の1月18日の話なんですが、実はそれまでは全て自社サイトで販売していたんです。
編集部
今までの転機で売り上げが跳ね上がっていた印象があったんで、意外に聞こえますね。それはどういった理由なんでしょうか。
泉水氏
理由は三つあります。
一つは、顧客とのリレーションを保ちたいというもの。
直販していると、要望やクレームなどがストレートに届きますからね。そういった声を先ほどの週1回のミーティングで拾い上げてハイスピードで改善していくサイクルを回すことで品質を上げていました。また、それ以外にも、全国に広がっていくユーザーの輪、「みんなで探す機能」のカバー率なども、共有することでユーザーも一緒にプラットフォームを育てている感覚を共有してもらっていたんです。
編集部
なるほど、機能的に不出来な部分があっても、改善していく過程が見えたり、プラットフォームが成長していく姿がわかれば、それを楽しみにしてくれる人たちも多そうですね。
泉水氏
もう一つはレビューの問題ですね。Amazonは、商品にレビューがついて回ります。たとえ要望を受けて改善したとしても、初期のマイナス評価が記録として残り続けてしまう、というのは非常に怖かった。
編集部
まだまだ日本ではレビューの文化がきちんと育ってないのもあるんでしょうけれども、「要望を込めて星1を付けましたユーザー」とか、「星1か5か、両極端な評価しかつけないユーザー」がいますからね。スタートアップがその評判を怖がるのはわかります。
泉水氏
三つ目の理由は、自社の販売サイトをきちんと育てたかった。というものです。
まず、当然ですが、自社サイトは利益率が高いです。
それ以外に販売アプローチなども完全に自社のコントロール下にあるというのが大きい。
自社の販売チャネルが育つ前に外部の販売サイトや家電量販店、百貨店さんに販売を頼るようになってしまうと、外部の販売チャネルの要求や、販売計画に左右されてしまう。
しかし現状では、自社サイトも商品も育ってきているので、MAMORIOの要求や世界観を伝えたうえで販売していただくような関係性を持てるようになりました。
編集部
スタートアップの商品が販売現場のコントロール下に置かれることで消耗していくことは非常にありそうなシナリオですね。
泉水氏
でも、おかげさまで、ヨドバシカメラさんでは利用シーンに即した展示をしていただいたり、横浜高島屋さんでは、スマホアクセサリー売り場ではなく「財布」などのMAMORIOを付けるような「大切なもの」の売り場で販売していただくことができました。
Amazon Launchpadに関してはスタートアップのためのサイトをつくる、という企画でお話をいただいたので、これは乗るしかない。とおもいましたね。Amazon Launchpadの記者会見ではワールドビジネスサテライトや翌日の新聞などで大きく取り上げていただき、販売も大幅に伸びました。
Amazon Launchpadのランキングでは1位をずっと取り続け、上半期1位を飾らせていただきました。
編集部
お話を聞いていると、それぞれの転機で、連携するべき相手や、訴求すべきユーザーときちんとマッチしていたのが印象的ですね。
いまでこそ、Amazon Launchpadで好調な販売を続けているが、それまでの間、少ない販売状況に耐えながら力を蓄える時期があったというMAMORIO。
しかし、その雌伏の時を経て、いくつもの転機でことごとく正解をつかみ取り、成長していく姿にスタートアップの真髄を感じた。
次回はその成長の果てに目指すサービスについて語ってもらおう。
MAMORIO株式会社