【IoT業界探訪vol.16】ボタン一押しで困りごとが解決! 「MAGOボタン」が目指す未来とは?(後編)
シニアの声を反映して作られたデバイス「MAGOボタン」。これはMIKAWAYA21株式会社が開発した、シニアの困りごとを解決するためのデバイスである。
MAGOボタンの主な機能は、困った時にボタンを押すことで「サポートスタッフが駆けつけてくれる機能」だ。しかし、それ以外にもシニアの生活をサポートする機能が用意されているという。後編では、これらの機能について伺うと共に、今後のサービス展開についても伺ってみた。
ボタンがしゃべる、見守りとコンテンツと存在感の関係性
編集部
前回、シニア向けスマホに必要な要素として、「外と繋がる機能」と「情報を提示する機能」があるとおっしゃっておられました。「外と繋がる機能」として、MAGOボタンは「まごころサポート」のトリガー機能を挙げていただきましたが、「情報を提示する機能」ではどのようなサービスを展開しているのでしょうか。
青木氏
ものすごく高度なサービスがあるわけではありません。基本的には時報のようなものですね。
「12時になりました、お昼ご飯の時間ですね。栄養に良いものを食べましょう。」というような正しい健康習慣や生活習慣を話します。規則正しい生活をシニアに送ってもらうというものです。
シニアの方々は社会とのつながりが薄くなるにつれて、生活が不規則になっていく傾向があります。さらに介護や寝たきりにまで進行してしまうと、ものすごく時間にルーズになってしまう。
食生活に関しても、誰かと食卓を共にする、ということがなくなると、自分ひとりの食べ物なんで菓子パンでいいや、となってしまいがちです。
そこを規則正しく、健康の事を毎日意識してもらいたいなと。
小暮氏
あとは気象や地域にかかわる生活情報ですね。Yahoo!のmyThingsで繋がってるので、天気予報や災害情報をその都度言ってくれる。例えば「32度超えるのでお家の中に居ててもエアコンを付けましょうね」とかですね。災害情報などに関しても、リアルタイムに正しい情報を与えていきたいなと。
編集部
なるほど、便利そうですね。そのような「地域情報」や「生活情報」以外に、個人に最適化されたサービスもあるんでしょうか?
小暮氏
そういったサービスで言うと、服薬確認が一番近いでしょうね。高齢者はやっぱり薬飲むの忘れてしまう事があるので、薬を飲む時間になったらアナウンスします。さらに、服薬したことを介護事業者に連絡するよう、「飲み終わったらボタンを押してください。」といっています。
編集部
そういった「お願い」もするんですね。効果はどうですか?
小暮氏
シニアの方々はアナウンスを聞いて服薬もしてくれますし、意外と素直にボタンも押してくれますね。介護事業者の方は、今までは全件に電話で服薬確認していたので、その確認件数が減るだけでも非常にありがたいと言われています。
編集部
好評そうですね。この「ボタンがしゃべる」という機能についてシニアからの評判はどうでしたか?
青木氏
やはり、一人暮らしの方からすると声掛けされるだけで「生活に張りがでる」といわれる方が多いですね。あるお婆ちゃんは、1週間だけの貸出だったのに、最後ホームセンターに行ってボタンを置く台まで買いに行って、キッチンの所に置きたいって言ってました。なので、また新しいのを1台送ってあげるんですよ。
編集部
そこまで愛着を持ってもらえる、というのは、アナウンスが肉声なことも要因の一つかもしれませんね。声に関してのこだわりを教えていただけますか。
小暮氏
「MAGOボタン」というだけあって子供の甲高い声も考えたんですが、今のところは、しっかりとした声の女性にお話していただいています。
シニアの方の聴力を考慮し、現状は聞き取り易さを第一に考えていますね。
編集部
システム的にはどのような形になっているのでしょうか。
小暮氏
サーバー側の処理に関しては、非常にシンプルです。音声ファイルを条件に合わせて出し分けをしていると言う仕組みになっているだけなんです。ただ、バリエーションは多い。今だと800種類ぐらい入っています。「飽きない」ということに気を使わないと、聞かなくなってしまいますから。
編集部
800種類ですか。それはすごいですね。日常で使い続けることを考えると「面白い」とか「エキサイティング」であることよりも「飽きないこと」が一番大事なのかもしれませんね。
MAGOボタンの目指す未来とは
編集部
では、今後の展開として、搭載する機能は、どのように考えているのかをおしえてください。
小暮氏
いくつかの機能は実証実験を始めています。例えばLINEなどの、他サービスとの連携を通じた見守りです。「シニアがMAGOボタンを押したら、子供のLINEに「ボタン押したよ」って言う様なメッセージが飛ぶような機能。ポンポンとボタンを押してるだけなんですけどね。シニアの監視でも、子供世代への甘えでもない、適切な距離感でライトな安否確認ができる物をつくっています。
編集部
なるほど、そこの距離感は、シニアの生の声に接しているMIKAWAYA21さんならではですね。
小暮氏
もう一つは、よりパーソナルな使い勝手を考えた、スケジュールの管理です。MAGOボタンのメインユーザーの方はカレンダーに手書きをするようなスケジュール管理がメインですが、通院やデイケアなど、事業者さんとつながるスケジュールの通知は実際に非常に強いニーズを感じています。さらに発展させて、ご友人と会う用事などに関してもMAGOボタンから通知してあげられると社会とのつながりを強く保つことができると思いますね。
編集部
近頃ではスマートスピーカーが話題ですが対話機能の導入などは検討されていますか?
小暮氏
現状スマートスピーカーのような対話機能については「そこまで高機能なものは必要ない」と考えています。
高齢者の方からしゃべりかけることも少ないと思いますし、地方の方だと方言が混じってしまって聞き取れない可能性が高いですから。
編集部
たしかに、困りごとがあれば、「まごころサポート」で地域の方が電話で聞いてくれるわけですから、そのほうがユーザーの満足度が高そうですね。
青木氏
ビジネス面で言うと、僕たちはこれをお一人暮らしのシニア700万人にどう配布するか、を常に考えています。「シニアのお家には必ず1台あるよね。」という状態にするためにはどうすればいいか。
編集部
なかなか難しいですよね。家庭の中にもとからあるわけではないですし、IoT機器は単価が割高なだけでなく、月ごとのプランになりがちです。シニアの方に価値を感じてもらうためにも料金設定は重要だと思いますが、どのようにお考えでしょうか。
青木氏
現在は端末代金42,000円を60回5年間のリースで分割して、月々700円で使っていただくプランにしていますが、通知内容に広告を織り交ぜることでこの価格を安くすることはできそうでよね。例えば午前中は「スーパーに是非お買い物に行きましょう」とか、昼は「キューピーの3分クッキングを見てみませんか?」とか。ナショナルブランドとか地元のローカルブランドをおりまぜて広告を流すことで、シニアの方の役に立つ情報を伝えつつ、負担する金額をさげたり、「まごころサポート」サービスを展開するパートナーさんを増やすことができないかと模索しています。
編集部
MAGOボタンのサービスは『まごころサポート』の、実態を伴ったネットワークが根本になってますよね。そのネットワークをいかに負担なく展開することができるか、参加してくれるパートナーのメリットをいかに考えるのか、が重要そうですね。
青木氏
現状の全国400の拠点と言っても、まだまだ粗いメッシュなので、そこに細かく新聞販売店以外の皆さんも取りこんでいきたいですね。例えばUberEATSのように、地元の学生が、近所で困っているお婆ちゃんがいるので是非サポートに行くような、地域版シェアリングエコノミーなど、シニアを支える仕組みが地域の中で出来ていけば良いなと思っています。
編集部
そのアイデアが実現出来れば一気にメッシュが広がりそうですね。現在ネットワークに参加してくれているパートナーの方々にはどのような形でモチベーションを喚起しているのでしょうか。
青木氏
「サザエさんのサブちゃん」のように、ご家庭のお勝手口から声を掛けられる関係性を作るきっかけはなかなか得難いものです。新聞販売店やスーパーマーケットなどの本業を持っている方も多いので、そういった関係性をシニアの方々と築いていけるように、サービスクォリティと関係性についてよくお話しています。
編集部
お話を伺っていると、サービス開発の際に、シニアの方を第一に、パートナーとなる事業者さんと一緒にサービスを考えていっておられますよね。
青木氏
そうですね。僕たちは「まごころサポート」に協力してくれる事業者さんたちと年に2回、サミットを開催して情報交換をしていますし、その場の交流が活発になるようにfacebook等でもシニアにとって役立つ情報やサービスについての意見を出し合えるようなコミュニティを作っています。その意見をすくいあげて「まごころサポート」ネットワークを広げるためのアイデアや、新しいサービスを考えています。このコミュニティが僕らのサービスの源泉ですね。
編集部
実態サービスを展開するための起点としてのIoT機器なわけですから、サービス事業者さんのコミュニティの活発化は必須といえますね。そこから新たなサービスや機能のアイデアが生まれていくことを楽しみにしております。今回はありがとうございました。
まとめ
今回紹介したMAGOボタンは、「まごころサポート」というサービスの見える化が基点となっている。サービスのトリガーとしてのIoT機器なので、システムやハードはあくまでシンプル。コンテンツの提供も、サービスを使い続けてもらうために存在感を主張することが主な目的だ。そこで伝えられる生活情報はまごころサポートを通じてシニアの生の声を多く吸い上げていることを活かし、少ないコストでシニアの生活に高い満足度を実現している。
そして、今後のサービスについても、フィジカルなサービスを展開するパートナーのコミュニティから意見を吸い上げ、継続性の高いサービスを展開する予定だ。どれも、いかに「顧客の声を吸い上げ」「継続性の高いサービスを展開する」か、という「あきない」の基本に沿っている。
MAGOボタンに使われている「さくらのIoT Platform」など、様々なツールの発達によりIoTサービスの開発コストが低下しているが、サービスの展開や維持など、まだみぬ不安から、IoT業界への参入に踏み切れないフィジカルなサービス事業者も多いのではないだろうか。
しかし、先ほどあげたMAGOボタンの例にあるように、ツールは新しくても、商売の本質に突飛な部分はないようにおもう。ぜひ面白いIoTサービスの展開にむけ、開発をスタートしてほしい。