2017年11月21日と22日に行われた「ソフトバンクロボットワールド2017」の2日目には、「ロボットと人が共存できる社会に向けて」と題して、アスラテック株式会社(https://www.asratec.co.jp)取締役でチーフロボットクリエイターの吉崎航氏による講演も行われた。吉崎氏は内閣府の「ロボット革命実現会議」の委員で、「ロボット革命イニシアティブ協議会」参与でもある。
吉崎氏は「ロボットの最新ニュースから分かること、分からないこと」、「ロボットは仕事を減らすのか増やすのか」、「本当のところロボットの定義はなんなのか」、「ロボットとはそもそも何か」といったテーマについて講演した。
ロボットを作らないロボット企業・アスラテックと「V-Sido」
吉崎氏は、ロボットの開発フローは研究ベースとそれ以外のやり方の二つがあると話を始めた。まず研究ベースのやり方だと性能は高いが、価格や法令に合わないものになってしまう。そこでアスラテックでは専門機器メーカーにアイデア出しをしてもらい、そこにアスラテックからロボティクス技術を提供して製品化していくというフローで開発を行なっている。アスラテック自体は「ロボットを作らない企業」で「ロボットを動かす仕事をしている」と自らを定義しているという。
アスラテックのコア技術が、吉崎氏の開発した制御ソフトウェア「V-Sido(ブシドー)」である。ハードウェアを直接制御するのではなく、駆動部を抽象化することでロボットの違いを吸収して、ロボットの専門家以外でもロボットを動かせるようにするためのソフトウェアだ。
「V-Sido」はリアルタイムに必要な情報を自動補完してロボットの動きを生成できる。そのためユーザーは、ロボットに細かな指示をすることなく大まかな指示を出すだけでロボットを動かせる。アスラテックでは「V-Sido」をコアとして、ロボット関連の企画・製造・運用までを実施していると紹介した。
ロボットは常に未来を提案する。だが、あまり変わらない
吉崎氏は「ロボット開発には落とし穴が多い」と述べた。ロボットの最新ニュースからは分かること、分からないことがあるという。ニュースは日々、わくわくさせてくれるロボットの動画や情報にあふれている。「ロボットは常に未来を提案する」ものだからだ。ただし、10年前も似たような未来を提案していたのがロボットでもある。
「不整地を歩ける」とか、「介護ロボットが云々」といった話も、10年前にもだいたい同じことが言われていた。最新ニュースからわかるのは「こんなプロジェクトが始まったと」いうことだけで、1年後、それが消えているのか大成功しているのかはわからない。
いっぽう、10年以上も前にも同じようなニュースが出ていたということは、結果もある程度わかるということでもある。吉崎氏はロボットブームの変遷を示し「実際に市場で活躍したものは少ない」と指摘し、だがそれらがビジネスにならなかった理由は参考になると語った。
ロボットにおいて「私もやろうと思っていた」は無意味
そもそもコンセプチュアルなところでいえば、ロボットに託される願望は、紀元前まで遡ることができる。これはつまり、ロボットに託される夢は、人間の基本的な需要を現しているということでもある。たとえば人造人間に労働力を託したいという願望は神話の時代から存在する。
つまり、人がやりたいこと、需要は紀元前から変わっていないのである。よって、ロボットにおいて「私もやろうと思っていた」は禁句だと吉崎氏は述べた。「思っている」だけなら100年以上前から多くの人が思っているし、9割方は15年以上前に似たアプローチがあるからだ。吉崎氏は「やりたいこと」から一歩進んだ基礎研究や、ビジネス成立を目指す人のアプローチにこそ意味があると強調した。
もちろん、「新しいロボット考えたよ!」「でも、そのロボットは十数年前に◯◯さんが販売して失敗してますね」というような話であっても、新しい時代に再び売ってみると、成功することもある。大事なことは、なぜ失敗したのか、何が変わったのかということに自覚的であることだ。
ロボットは最適解が見つかるまでの過渡的な存在
また、ロボットは効率的だと思われがちだが、実際には専用機のほうが効率自体は高いことが多い。産業用ロボットと専用機械の地位争いはずっと続いている。また、ロボット自体にも寿命がある。技術的寿命(性能)、流行的寿命(シェア)、互換性の寿命(サポート)だ。「このロボットの寿命は何年なのか」と考えると、できることは限られている。ロボットも機械なので、その用途にしっかり最適化することが重要だ。
では、なぜロボットを使うのか。「なんでもできる」ロボットはハードウェア的には冗長だ。極限まで効率化すると特化した機械には勝てない。
また、そもそもロボットの定義は、よく、1)センシング、2)自律的な判断能力、3)外界に影響を与える駆動力の3要素があることとされている。だがこの3要素は今では家電のほとんどが満たしている。言い方によっては電子レンジや洗濯機もロボットになってしまう。では専用機械とロボットの違いは何だろうか。
吉崎氏は「ロボットとは基本、やり方は丸投げの概念」だと述べた。つまり、「やってほしいことはある、だが何を使って実現するのかは分からない」ときに、人間がやってる「何かの作業」の名前を取ってきてくっつけたものがロボットの名前であり、何をどうやってやるのかは丸投げ。どんな仕組みでやるのか、やり方はわからないけど、動物はできているような作業をやらせる。そういうアプローチこそがロボットではないかという。つまり「やり方が確定し、世間に認知されるとロボットを卒業できる」のだという。
目的をもって「なんちゃらロボット」と呼ばれるようになったものは、やがて最適解を得て、みんなに認知されるとロボットを卒業するのであり、「やり方がわかる前の時代だけ、ロボットという名前になる」のだという。吉崎氏は「ロボットという言葉には最適解が見つかるまでの賞味期限がある」と述べ、「やり方をまだ誰も知らないところに立ち向かうのがかっこいい」のだと語った。
ロボットは人の仕事を「奪うに決まっている」
ロボットは人の仕事を奪うのか、増やすのか。その問いについては吉崎氏は「『奪うに決まっている』が答えだ」と述べた。そうでなければ、そもそもロボットを開発する意味がない。問題は、どの仕事を奪うのかだ。高齢化による人手不足や、人がそもそもやりたくないことなど多くの課題がある。どこの分野を選ぶのかだ。
それ以上に重要なのは、どんな分野の仕事を増やすのかだ。もちろんそれはビジネスのタネでもある。メーカーによる生産、ソフトウェアサービスは言うまでもなく、自動運転などでは必須になる保険、専門業者による保守、ある程度の相互互換性が前提になるが車にもよくあるカスタマイズ、外で動かすためには必須の第三者機関による車検的なものなどだ。
将来はロボットの自己進化も
中にはロボットはやがて進化して人を超えてしまうのではないかと懸念する人もいる。それについても「むしろ、なぜ超えないと思ったのか」と吉崎氏は述べた。人間と違って無限に拡張できる機械が人の能力を超えないと思う理由は何かということのほうが大事だという。
ただし、ロボットのアップデートは人間が行うものであり、勝手に強くなるわけではない。「シンギュラリティ(技術的特異点)」については色々な話題があるが、自分で自分より優れたものを作れる瞬間というのが大方の意見の一致するところだ。ではロボットが自分で稼いだお金を使って必要な部材を買って腕を長くしたりするようなことがあるのか。吉崎氏は、ロボットが自分で自分を改造するというのは、ロボットが人を雇って自分自身をもっと強くするようなかたちになるのではないかと述べた。ロボットにとって人はサービス、パーツの一つということになる。
またそもそも、AIより人間のほうがクリエイティブとは限らない。ロボットが自己進化するためには、ロボットが自分自身に対して保険をかけたり、そのための法人格が認められるかといったところのほうがポイントで、ロボットがどんどん進化していくのは十分ありえると述べた。ただ、機能的には業務フローの改善にAIを使うのと大差なく、人間を超えるというと立場状の上下を感じさせるが、むしろ適材適所になるだろうと語った。
ロボットに内在する「かっこよさ」のワケ
最後に吉崎氏は「なんちゃら用ロボット」は、需要が先行した概念で単にやってほしいことを言っているだけであり、何かクリエイティブなことは勝手にやってほしい、具体的な解決方法はわからないという意味なのだと再度強調した。「◯◯ロボット」という言い方にはそもそも期待が込められている。これはロボット特有で、「まだやり方がわからない部分に挑戦しているよ」という意味でもある。「だからかっこいい」し、未来的でもある。
また「これほど歴史に学ぶべき分野はない」と強調した。昔のロボットを見て、過去に誰も作ろうとしなかったロボットを考える人、また最高の要素技術を組み合わせて最高のロボットを作ろうとする人は多い。だが「なぜこうしなかったのか」と考え、需要をもう一度見直すことが重要だと語った。そのロボットは、なぜ市場に出なかったのか。そうすると次にアプローチするべきところは何なのかがわかるかもしれない。そうすると、今度はうまくいくかもしれない。
ロボットの歴史は「欲望と失敗の歴史」でもある。ロボットは最初に安直な欲求がある。どんな欲求にこたえるべきかを学ぶためには、現実のロボットだけを見る必要はないと述べ、「ロボットとは効率的な解が確立されていない課題を、冗長な仕様で強引に解決しようとするアプローチ」であり、「それはとてもかっこいいこと」なのだ、と講演を締めくくった。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!