フランスのロボットアプリ開発会社「Hoomano」が日本進出、勝算は「経験値」と「研究開発」

ロボットのアプリケーションデベロッパーは、日本でのPepper登場以降、急速に数が増え続けている。直近のカオスマップでは、200を超えるロゴを掲載しているが、私たちが調査しきれていないところも含めると300社はあるかもしれない。


ロボスタが半年に一度更新しているロボット業界のカオスマップ。ロボットのアプリ開発会社がここ数年で急増した。

もちろん現時点でロボットのアプリ開発で「とても儲かっている」と答えるところはそんなに数があるわけではないだろう。しかし、今これらの会社は「経験値」を貯めているところだ。ロボットのアプリケーション開発は、スマホアプリ開発と同様に利用者の体験を考える必要があり、そのノウハウはスマホアプリでは培えない類のものである。

だからこそ、この先ロボットが爆発的に広まった未来に、彼らが持つノウハウは優位に働くはずだ。

そんなロボットの体験を、これらの会社より長きに渡って考えてきたのが、今回紹介するフランスの会社「Hoomano(フーマノ)」だ。フランスといえば、「Pepper」や「Nao」を生み出したアルデバラン・ロボティクス(現ソフトバンクロボティクスヨーロッパ)が生まれた国であり、ロボットの研究が盛んな国の一つだ。



「Hoomano」が設立されたのは2014年だが、同社のCEOを務めるザビエ氏は2011年からコミュニケーションロボット「Nao」の開発パートナーとして、ロボットの体験を考え続けてきた人物である。

「Hoomano」は、現在ヨーロッパに500〜600体存在している「Pepper」に向けたアプリケーション開発をしている。ヨーロッパでは現在、Pepperの割賦での購入やレンタルが認められていないため、19,990ユーロ(日本円で約270万円)を支払い一括で購入するしかなく、また購入前のお試し導入すらないそうだ。だからこそ、まだ大手企業しかPepperを導入していない。Hoomanoは、そんな大手企業に対して、Pepperのアプリを販売している会社である。


フランスの家電量販店大手「DARTY」にも、Hoomanoのアプリを載せたPepperが導入されている。(写真提供:Hoomano)

Hoomanoのメンバーは現在25名、うち18名がエンジニアだ。コミュニケーションロボット向けのアプリケーションやインタラクションエンジンを開発する同社は、今年2月に日本法人「Hoomano Japan KK」を立ち上げ、元アルデバラン・ロボティクスのセバスチャン氏が日本法人の代表に就任している。これから日本におけるアプリ販売及び、今後の「ロボットと人のコミュニケーション」を共同研究していく大学を探すのだという。



日本市場における勝算とは?

しかし、前述の通り、日本にはロボットのアプリ開発をする会社は多く、簡単に商売が上手くいくとは思えない。Hoomano創業者兼代表のザビエ氏に「日本市場での勝算」を尋ねてみた。

編集部

日本はアプリ開発会社の競合も多い国です。そんな中で、勝算はどこにあると考えていますか?

ザビエ氏

Hoomano 創業者兼代表 ザビエ・バセット氏

私たちが有利だと考えているポイントは3つあります。

1つ目は、ロボットのインタラクションを研究しているラボと密に連携し、研究結果を開発したアプリに反映するというアジャイルな開発プロセスです。

そして2つ目は、長期な関係を築くコンサルティングサービスです。課題とユースケースを明確にし、導入後に継続して改善を行なっていきます。お客様の問題を解決することを目標に、協力関係を築いていく点が強みだと考えています。

3つ目は、3年もの間フランスの大手企業においてPepper導入・運用を支援してきた経験です。2年間運用し続けてまだ現役で活躍しているPepperもおり、これらはHoomanoが開発したアプリの品質の保証でもあるでしょう。



Hoomanoが自信を見せているのは特に、フランスで蓄積してきた「経験値」だ。フランスの国営鉄道や、県庁、大手家電量販店など、あらゆる大規模施設にPepperを導入してきた。朝から晩まで2年間にわたりロボットを稼働させ、多くのお客の対応をしてきた。そのフィードバックを元に、同社が作るアプリは進化を遂げていくのだという。特にインタラクション、アテンション、識別、セキュリティ、およびコネクティビティなどの蓄積してきた経験から、エンターテイメント性と継続性を実現させているのがポイントだと語った。

また、ザビエ氏は、これに加えて同社の拠点である「リヨン」という都市についても優位性を語った。リヨンはゲームデザイナーなどのクリエイターが集まる地域であり、インタラクションを考える上で必要な人材が豊富に集まっているのだという。リヨンでパートナーを増やしていくことで、より良いインタラクションを提供できるというのも、同社の強みの一つと言えるだろう。



ロボットにおける現在の課題は?

編集部

ロボットを扱う中で感じている課題はありますか?

ザビエ氏

ロボットの課題は継続性にあります。当初は、ロボットを導入するだけで人は集まりますが、月日の経過とともに興味は減衰していきます。そこがロボットの課題だと感じています。


ザビエ氏(左)と、Hoomano Japan KKの代表を務めるセバスチャン氏(右)。

編集部

興味の減衰にはどのように対処すべきでしょうか?

ザビエ氏

私たちはCMSをより使いやすく、よりスピーディな更新が可能にすることでコンテンツを増やし、興味を継続させる仕組みを作っています。Pepperには多言語機能があるので、フランスで開発してきたアプリを簡単に日本向けにカスタマイズすることができます。また、フランスで、Buddy、Nao、Zenbo、iJiniの開発経験もあります。 私たちは、日本の顧客に、より多くの視点と異なるロボットソリューションを提供することができると信じています。




国際ロボット展で初公開したインタラクションエンジン

そんな同社は、11月29日から12月2日にかけて開催された「2017国際ロボット展」にて、インタラクションエンジンを初披露した。このインタラクションエンジンは、Pepperなどのコミュニケーションロボットやコミュニケーションデバイスに導入することで、より自然で親しみあるやり取りを行うことができるようにするものである。



Pepperが見ている映像を解析し、目の前の人が自分と話したがっているのかを判断する。それに応じたアウトプットを返していく。

今のコミュニケーションロボットの課題は、ロボットとのやり取りの「不自然さ」にある。例えば、Pepperの目の前で人同士が全く違う会話をしていても、Pepperは自分に話しかけられたと判断して会話を続けてしまう。しかし、このインタラクションエンジンを導入することで、目の前の人が、自分(ロボット)と会話したいと思っているのかを理解した上で行動することができる。もし会話したいと思っていなければ、頷くだけなどの相応の対応ができる。その上でもし興味を持ってもらいたいければ、突然会話を始めるのではなく、まずは自分(ロボット)に興味を持ってもらうような言葉を投げかければいい。

今回展示されたインタラクションエンジンは画像解析によるものだったが、人と会話をするために必要なインタラクションを同社はこれからも研究開発していくという。このインタラクションエンジンを、様々なロボットやアプリに導入していくことを目指している。



研究結果を、体験に反映する仕組み

冒頭でも少し触れたとおり、Hoomanoは日本国内で共に研究をしてくれる会社を探しているという。同社が進めている研究組織はどのような立ち位置なのだろうか。

ザビエ氏

HoomanoのR&Dチームは、「Hoomano AI Lab」という独自の研究組織を持ち、人間とロボットのインタラクション改善するために取り組んでいます。主な目標は、人工知能による言語や非言語によるインタラクションを改善することです。



さらに、Hoomano AI ラボはLiris University Laboratory (フランスの大学の研究機関)からの人工知能専門家が主導で当社で研究及び開発を行っています。

Hoomanoでは、経験豊富な開発者とコンサルタントが構成したチームが、そのHoomano AI ラボと連携し、アジャイルの開発メソッドに取り組んでいます。また、Hoomano AIラボの拠点をリヨンの本社に置いていることで、「インタラクション」に関するHoomanoの独自な研究結果を、直接お客様に提供するアプリケーションに反映することができるのです。



フランスからやってきた、ロボットアプリの開発会社「Hoomano」。継続性というロボットの現在の課題は万国共通であり、それをフランスで克服してきた経験値はきっと日本でも強みとなるだろう。研究を進めながら、ロボットとのインタラクションをさらに進化させる存在となってくれることに期待したい。


元ソフトバンクロボティクスの楊茲雅氏(右)がHoomanoのアドバイザーとして参画している。

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望月 亮輔

1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。

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