コネクテッドロボティクスはタコ焼きから飲食ロボットサービス市場立ち上げを目指す


2017年8月に東京ビッグサイトで行われた「Maker Faire Tokyo 2017」で、ロボットでたこ焼きを焼いているブースがあった。コネクテッドロボティクス株式会社(https://connected-robotics.com/)だ。たこ焼きロボットの名前は「OctChef」。産業用ロボットの技術を持っており、調理業界への参入を検討しているとのことだった。

それ以来、ずっと気になっていた同社が、500 Startups Japan、Draper Nexus、エースタート、複数の個人投資家らを割当先とする増資により総額6,300万円の資金調達を行ったと発表した。第一弾としてたこ焼きロボット「OctoChef」を今春リリースし、飲食業へのロボット投入へ本格的に参入するという。現在、ロボットを活用した飲食店舗をデザインするデザイナーや、ロボットのメカトロエンジニアを募集している。移転したばかりの東京農工大学 小金井キャンパス内にある農工大・多摩小金井ベンチャーポートを訪問した。



独自制御と画像認識でたこ焼きを焼く

たこ焼きロボット「OctoChef」

たこ焼きロボットは新しくなっていた。ユニバーサルロボット社のUR3と市販の自動たこ焼き回転機と組み合わされており、Robotiq社製のハンド部とリストカメラで画像認識を使って道具を扱いながら、たこ焼きを焼く。

ハンドとリストカメラはユニバーサルロボット用のRobotiq社製

普通にロボットアームを動かすと加減速がメーカーによって制限されているため滑らかに動かすことができない。だが同社のコントローラーを使うことで、リアルタイム空間でロボットをコントロールして、滑らかに動かすことができる。振動を気にする半導体製造業界で培われた技術だという。


現在のシステムは具材は人間が投入

たこ焼きの回転がちゃんと行えたかどうかの判定はIBM Watsonによる機械学習による認識システムを利用している。外部APIに問い合わせることになるので時間は若干かかるが、調理であれば工場と違って許容範囲という。


回転の判定はIBM Watsonを利用

キャリブレーションは、ロボット台座の上の赤丸で行なっている。装置のスイッチ類もロボットが画像認識して自分で押す。


赤丸はキャリブレーション用

鉄板自体は180度くらい。本体は40度くらいなので、連続稼働にも支障はない。今後、焼き加減や液量もパラメーター化し、現在のシステムはHISに導入する予定だ。


タブレットで操作する

ところが取材当日はまさかのガス切れで、部分的にしかデモを見ることができなかったので、同社によるダイジェストビデオをご紹介する。

ロボットは大規模になればなるほどメリットがある。既に大手たこ焼きチェーンの社長にもプレゼンテーションしており、食品工場で冷凍用のたこ焼きを焼くシステムも開発予定だ。

たこ焼きだけではない。代表取締役の沢登哲也氏のビジョンはさらに広がっている。「本気で飲食ロボットサービス市場を立ち上げたい」と語る、かなり面白い経歴を持つ沢登氏に話を伺った。



大学ロボコン、飲食業、モバイルサービス、産業用ロボット制御などを経る

コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役 沢登哲也氏

沢登氏は東京大学工学部卒業、京都大学大学院情報学研究科修了という経歴。大学時代にはプログラマーとして大学ロボコンにのめりこみ、2004年のNHKロボコンでは優勝した。それが大きな喜びだったという。大学院ではニューラルネットワークを学んでいた。

2006年には1年間、ロンドンのスタートアップへインターンシップに行った。当時、欧米では既にクラウドソーシングが始まっており、プログラマーのアウトソースなどが行われていた。「たとえばイギリスの会社でシステムを作りたい人がロシアや東欧のエンジニアに発注するわけです。ロンドンにいるプログラマーを派遣したりもしていていました」。

そこでは毎週、「新しいビジネスを考えて発表しろ」というデューティがあった。沢登氏は、それを考えるうちにだんだん起業しようという気になったのだと振り返る。ロボットによるサービスも考えたが、2006年当時は前回のロボットブーム収束期で、まだなかなか難しそうだと考えて、ロボットは断念した。京都の大学生向けSNSサービス「Kepler」をRuby on Railsで開発して立ち上げていたりした。

結局、卒業後も「就職せずに起業しよう」と考えた沢登氏が飛び込んだのは飲食業業界だった。「自分は料理をつくるのが好きで、お店をめぐるのも好き。それとジャズが好きだったんです。そこで面白い店、かっこいい店をやりたい、新しいコンセプトの店をやりたいと考えました」。

沢登氏は飲食業で名の知れた社長たちを訪問して回る。様々な会社を回ったそうだが、沢登氏を拾ったのが「万豚記」や「紅虎餃子房」などで知られる際コーポレーション株式会社の中島武氏だった。沢登氏は際コーポレーションで新規店舗を手がけるなど、しばらく飲食業に携わることになる。2008年のことだった。

だが、「心身共に疲れ果てた」。「あまりにも大変すぎました。休みもほとんどなく、朝早くから終電まで働いていました」。沢登氏は、いったん飲食業から離れることを決意した。

2009年、沢登氏はFA用モーションコントローラー、工作加工機械のCNC(コンピュータ数値制御)のソフトウェアを手がけていたソフトサーボシステムズ株式会社(http://www.softservo.co.jp)にエンジニアとして入る。同社はもともとはマサチューセッツ工科大学(MIT)の浅田春比古(Harry Asada)氏らの「ソフトモーション」技術を事業化するために設立された会社。沢登氏は、ものづくりをできそうな会社を探していて、当時、ハーモニック・ドライブ・システムズ社(https://www.hds.co.jp)から資金調達していた同社を見つけて入社したと振り返る。

同社で沢登氏が手がけたのが産業用ロボットのコントローラーだった。日本国内では産業用ロボットは専用コントローラーとセットで、ロボットメーカー以外のコントローラーを使うことはほとんどない。だが、中国や韓国ではまだコントローラを開発できる技術が今でも不足している。そこでパソコンを使ってコントローラにしようというニーズが、特に大手メーカーにあった。「私が責任者になって、最初から一人で開発してました。大手のフォックスコンやサムスンの自社設備や製造ラインに対して試験をしていました。スマホの削り出しをロボットでやるような作業です」。

産業用ロボットにはとっつきにくいが、NCの軸位置や座標設定を行うGコードはわかるという人は多い。Gコードで扱えるならロボットも使えるのに、というわけだ。そこで産業用ロボットをCNCのGコードで動かそうという動きが、その頃から始まっていた。これには結構引き合いがあったという。

だが「一介のエンジニアとして終わるのではなく、やっぱり起業したい」という気持ちが沢登氏のなかでは強くなってきた。沢登氏は、ずっと「ロボットを工場の外、身近なところで動かしたい」と思っていた。辞めるのであれば、起業して辞めようと最初から決めていたのだという。

そこで、2011年10月に一度やめて株式会社ポロックとして起業する。だが、ほぼそのままソフトサーボの事業を行なっていた。そのほか受託で忙殺されていたという。本当に「自分のビジネス」を始めたのは2014年2月、astero株式会社を設立したときだったという。「そのときは良い仲間がいて、かつがれたんです。それまでは一人で試行錯誤していました」。同社ではモバイル用の通知アプリを手がけていた。メディアで紹介されたり出資を受けたりもしていたが、同社は2015年にサービスを終了する。

この頃(2015年)、沢登氏が起業について「浜松Ruby会議」で語った講演がYouTubeに上がっている。スタートアップを立ち上げようとしている人には参考になるかもしれない。

それからはまたソフトサーボの仕事を行なっていたそうだ。特にロボットアームのコントローラーについては沢登氏が一人で行っていたので、他の人への引き継ぎが難しいという面もあったという。



コネクテッドロボティクス起業へ

コネクテッドロボティクス起業へ

2017年3月、沢登氏は再び決心する。「もうこれ以上、深センの工場に缶詰になるのは嫌だと思ったんです。中国は昔の日本以上に働いていて、もうしんどすぎる。自分のビジネスでスケールしようと。それで、辞めさせてくださいとお願いしました」。

たこ焼きロボットのアイデアを思いついたのは、「3月に辞めよう」と決めた半年前ごろだったそうだ。「たこパーをしたんです。子供たちを集めて、2、3時間焼き続けたんですね。最初は面白いけど、疲れる(笑)。自動化できないかなと思いました」。

そこで、中国製のDobot Robotic Armを使って、簡単なデモシステムを作った。そして4月14日(金)〜16日(日)にサイボウズ東京オフィスで行われた「Startup Weekend Tokyo Robotics」でデモを行い、子供たちを大喜びさせて優勝した。当時の記事が本誌にある(https://robotstart.info/2017/04/24/startup-weekend-tokyo-robotics.html)。


当時使ったDobot Robotic Arm

そこで現在の同社メンバーの北村智美氏や、筑波大学でロボットアームの研究をしている学生とも知り合った。「これでやろう」と思ったが、「まだ自信がなかった」。

自信をつけたのが2017年夏のMaker Faireだった。実は沢登氏は出展する気持ちはなかったが、Startup Weekend TokyoのオーガナイザーがMaker Faire主催のオライリーとつながりがあり、出展が決まったのだという。だが時間がなかった。やる気はあっても見通しが立たない。だがどうせやるなら本格的なロボットを使ってやりたい。

そこで、ユニバーサルロボットの協働ロボットUR3を使うことにした。協働ロボットのレンタル事業「RoboRen(http://www.orixrentec.jp/roboren/index.html)」を手がけるオリックスレンテック株式会社からレンタルできたことも大きかった。「買ったら300万円ですが、100万円ですみました」。

Maker Faireでの展示も、子供たちに大受けした。「これでいくしかない」。振り切った、という。その後、コネクテッドロボティクスは、株式会社ゼロワンブースターとキリンホールディングス株式会社が共同で運営する『KIRINアクセラレーター2017(KAP2017プログラム)』、日本IBMのインキュベーション・プログラム「IBM
BlueHub(ブルーハブ)」、両方に採用される。さらにドレイパーネクサスからの投資もすぐに決まった。その後、他のVCもめぐって、6,300万円の資金を調達し、農工大・多摩小金井ベンチャーポートに移転した。

ちなみにそれまでは武蔵小金井駅近くの狭いアパートを作業スペースとしていた。そこはロボット用の机二個を置いてしまうと歩くスペースがほとんどなく、まさに「たこ焼き屋」のような場所だったと笑う。



外部の人たちから自信をつけられた

日々、たこ焼きを食べているそうだ

6,300万円という資金は目標金額以上だった。「たこ焼きなんかでVCから資金調達できるのか不安でした。ですがロボットに対する期待感はすごく感じました。ロボットを使うベンチャーはあまりないんです」。

実際にたこ焼きロボットを作る前は、「ロボットで飲食は無理だろうと思っていた」という。「プロからどう言われるか、心配していました。ですが最近は『気にしなくていい』と思うようになりました」。ロボットでできることは少ない。だが、アプリケーションを選べばいけるなと思っていたという。以前に比べれば、ロボットは進化しているのだ。

先に触れた、冷凍用たこ焼き作りにロボットを導入できないかと考えている大手たこ焼きチェーンの社長からは「感動した」と言われたそうだ。「思いもしなかったと。むしろ外部から自信をつけられて、これはいけるなと思いました」。



ロボットを諦めない

「OctoChef」。左端は沢登氏、右横が北村智美氏、右端はジャック・スネラーソン氏。

「ロボットをやってると、工場でも失敗だらけなんですよ。本当にしんどいんです。だけど、どうにかするとできてくる。ロボコンのときもそうでした。前日まで『無理だ』と思っていたのが、やってみたらできちゃうこともがある」。

ある種の『信念』みたいなものが大事だという。沢登氏は「ロボットへの愛かもしれません」と苦笑する。「見捨てたくなることがあるんですよ。『使えないな』と。でも、信じて付き合っていった先には、できあがってくるものがあって、それを見た人は感動するし、自分たちも嬉しいんですよね。人を『おおっ』と言わせるのが。ロボットがうまく動くと、自分の子供じゃないけど、『よくやったぞ!』という気になるんですよね。うまくいかないときは本当に嫌になりますが、そこで投げやりにならずに、諦めずに続けることが重要だと思います」

ロボットは本番直前で故障したり、現場で故障したりすることがある。そういう時には見捨てたくなることがあるが、そこで踏ん張る、そのために信念が大事というわけだ。



本気のロボット導入で感動させたい

現在新型も開発中

2018年2月1日現在、コネクテッドロボティクスの社員数は7名。ビジネスモデルとして狙っているのは「150~200万円ぐらいでレンタルで導入してもらい、月額で15~20万程度を払ってもらってアップデートし続けるRaaS(Robot as as Service)的なビジネス」だ。

沢登氏としては、BtoBtoC、つまり、軒先でロボットが調理をしている姿を一般の人に見せたいと語る。「一般の人にロボットを楽しんでもらって、身近に感じてもらいたい」からだ。

「FAから離れたのも、それが理由の一つなんです。見る人の感動を味わいたい。工場に納めると、うまくいってもそれが当たり前で、動かなかったら怒られるだけ(笑)。うまく動いたときの感動を味わってほしい。それを見たいんです。ロボットで感動させたい。そこまでいくのは根気が必要だと思いますけど、時間をかけてもやりたい」。

かたちとしては、一つのパッケージとして納めていくことを目指す。まずは「変なレストラン」などで積極的にロボット活用を実施しているH.I.S.に2018年春に納める。価格は700万円。そこで最初の実績を積み、さらに量産を目指す。

沢登氏は、専用機にするのではなく、あくまで汎用のアームをソフトウェアで使って賢く動かすことにこだわりたいと考えている。「最終的には1本2本の腕で動かす。そこはハードウェアに甘えない。ソフトウェア重視でやっていこうと思っています」。

たこ焼き以外も考えている。「牛丼、寿司、カレーですね」。いずれは海外に進出したいと考えており、日本独特のレシピがあるので、日本独特の食品のほうが、特に最初の進出においては、有利ではないかと考えている。まずはたこ焼きの人気が出始めているシンガポールを手始めに、東南アジア進出を考えている。

ロボットに関してはレンタルなどを活用しつつ、デンソーウェーブの「COBOTTA」やライフロボティクスのアームなども検討していく。

さらに将来は、自動調理だけでなく、自動配達も視野に入れる。海外では自宅で調理する習慣がなくキッチンがないアパートも多い。「自分の家でも料理しなくても、ロボットが作ってロボットが届ける世界もあり得る」という。

沢登氏は飲食へのロボット導入のカギは選ぶアプリケーションと、つまるところ「本気度かなと思う」と語る。「運んだり切ったり載せたり、まだまだ自動化できてないところは多い。そういったところも含めて、お金と時間があればできるんです。ロボット屋さんの数も不足しています。将来的にパートナーがどんどん必要となるので、IT分野からも参加してもらいたいと思っています。新しい仕事を作っていきたいです」。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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