「AIよりバカでもいいじゃん、幸せなら」スプツニ子!さんが人工知能と幸せを語る【THE AI 2018】

「未来ではなく、今のAIを話そう。」がテーマのビジネスカンファレンス「THE AI 2018」が1月31日六本木アカデミーヒルズで開催された。主催は、AIメディア「ledge.ai」を運営する株式会社レッジ。



AIをどのように活用していくかというビジネス的な内容から、ディープラーニングの技術的な話まで魅力的なセッションが並んだ本イベント。その最後のセッションとなった、スプツニ子!さんとレッジの中村さんによるセッション「クリエイティブ領域における技術革新とAI」の模様をレポートしていく。

いつの間にか「AI」の話ではなく「人間の幸せ」の話になっていったこのセッション。AIと人間と幸せの関係とは?



AIは新たなゴッホは生み出せない

株式会社レッジ CMO 中村健太さん(左)、アーティスト/東京大学特任准教授 スプツニ子!さん(右)

一つ目のテーマは「テクノロジー × クリエイティブの現在と未来について」。

AI導入のコンサルティングなども行なっている株式会社レッジでCMOを務める中村健太さん。中村さんは、「コンサルティングを行う中で、クリエイティブ領域においてAIを使えないかという依頼がきますが、それはまだ遠い未来なのかなというのが実情」と語り、セッションの口火を切った。



「AIの活用法としては、面倒なところを効率化したり、考えなくても良いようにしたりするケースがほとんどです。そちらも伸びていて面白い領域だと思っていますが、テクノロジーとクリエイティブの未来でいうと、もう少し面白い形があるんじゃないかなと思っています」と中村さん。



それに対して東京大学特任准教授でありアーティストとしても活躍するスプツニ子!さんは、「人工知能はこれまでの価値観に合わせてベストな回答を出すことはできますが、新しい価値観を生み出すことはまだまだできていません。ここが人工知能がクリエイティブになるかどうかというポイントだと思います。ゴッホとかレンブラントの絵に見えるものは描けるかもしれないけど、新たなゴッホやレンブラントを生み出せるかというのは別問題だなと思います」と話した。

またスプツニ子!さんは、「可愛い人工知能とか、憎めない人工知能とか、キャラ性を追求したAIが生まれて良い気がするんですよ。例えば、ピカソの作品はピカソの人生とキャラクター込みで評価をされます。最近中国共産党を批判する人工知能キャラが禁止されてしまいましたが、AIにもキャラ性が出て来ると、その個性だからこそ生まれるものがあると思います。作家がどういう経緯で作ったか、というバックグラウンドが作品に効いて来るんですよね」と続けた。



情報をつなぎ合わせイノベーションを起こすのが人間


続いて中村さんは、AIメディア『ledge.ai』を運営する中でAI関連の記事をたくさん読む機会があると話し、「人工知能に仕事が奪われるといった文脈の記事は『人間が思考すべきことが何かを考えていかないといけないですね』という締め方が多いんです。でもこの”思考すべきことは何か”をきちんと書いている記事はほとんど見かけません。人は何を思考すべきでしょうか」と次のテーマを切り出した。

スプツニ子!さんは、人間とAIを分けることに疑問を呈し、「MITメディアラボにいた時に同僚達とよく話していたのが、AIを『Artificial Intelligence』と呼ぶのをやめて『Extended Intelligence(拡張知能)』と呼ぼう、ということです。AIを人間と別ものでなく、自分の一部として扱うと捉えた方が良いのではないかと思います」と述べた。

また「何を思考すべきか」という問いに対しては「情報のキュレーションができたり、複数の物事を組み合わせて新しい価値を作る発想ができるようになるべきだ」と答え、自身が読書をする際に同時並行で15冊の本を読んでいることを明かした。

これには中村さんや会場からも驚きの声があがったが、スプツニ子!さん曰く、現代人はWEBで同時並行読みに慣れているはずだという。「情報を読んで、気になった情報を調べるために次のサイトをひらいてということに慣れています。パラレルに情報を取得する動物になっているわけですね。それをつなぎ合わせて、新しい研究やイノベーションを起こしていくのが人間であり、クリエイティビティだと思っています」。



AIよりバカでもいいじゃん、幸せならいいんだよ

そしてスプツニ子!さんはAIの進化について話した。

スプツニ子!さん

AIの方が『人が求めているものがわかる』っていう話があるじゃないですか。『AIの方が人気が出る作品を作れるんじゃないか』っていう議論もありますが、アーティストってポピュラーになりたいが為に作品を作っているわけではないですよね。だから、AIがどれだけ人間に「売れるもの」を作ったとしても人間は作品を作り続けることをやめません。好きだから、思いついちゃったから、やっているだけ。好きだから創作をやっている。

これまで人間は他の動物よりも頭が良いことを鼻にかけてきましたよね(笑) この先人間よりも頭が良いAIが出てきたときにプライドがへし折られるかもしれないけど、勝つことより幸せになることが生きる意味だったんじゃないかということに気づくのが次の100年なんじゃないかと思っています。



資本主義が人間社会のベースではなくなると、必ずしも競争に勝つことが良いとはならなくなる。『そもそも勝つために生まれてきたんだっけ?』『幸せになるために生まれてきたんじゃないんだっけ?』幸せになろうよというのが次の100年。AIよりバカでもいいじゃん、幸せならいいんだよAIより。



中村さんもその意見に同意し、「ビジネスで見ると、AIは『どう勝つか』に寄っていってしまいます。AIを活用して仕事を効率化していくことでビジネス的に優位になります。ただ、幸せというところに価値を置くことが、今後のビジネスにおいては重要だと感じました」と話した。

スプツニ子!さんは、人間の環境の変化について触れこう語った。

スプツニ子!さん


サピエンス全史でもありますが、人はひもじい思いをしたくなかったから農業を始め、そしたら苦しい労働が始まりました。現代人は便利になりたいからAIを作り始めましたが、それが農業の時のように新しい苦しみを創出するのか、それとも人は幸せになれるのか、考えるべき時です。

スーパーのレジ打ちやアイロンがけとか、AIやロボットができるじゃんってなるけど、アイロンかけるのって結構心が落ち着いたりする作業ですよね。心が落ち着く作業なのに、なぜ効率的だからってAIにやらせなきゃいけないんだろう。実は私たちは無駄の中に幸せを見出していたりするんです。人間の本質的な幸せって、かなりの部分が無駄の中にあるんです。

徹底的に無駄を省くと不幸になります。茶道とアートにはヒントがあります。茶道なんて、ある意味無駄なことしかしていません。美しい無駄、というか。

そしてアートは無駄の集大成です。世界の膿です(笑) でも無駄こそ人間。AIで無駄をどんどん省いても幸せにはなりません。多分次の100年は人間が「価値ある無駄」の重要さを認識するんじゃないかと思うんですけどね。



AIの進化というと、つい人間の仕事や生活を効率的にする存在だと思ってしまう。だからこそ「仕事を奪う」という話になるのだろう。しかしスプツニ子!さんが言うように、AIは人間を幸せに導くための存在だと捉えた時に、AIビジネスのあり方が変わってくるだろう。同セッション後半では、「好奇心と想像力」「学校教育」などにも話が及んだが、本記事では割愛させて頂く。

AIではなく、人間について考える、示唆に富んだセッションだった。

関連サイト
THE AI 2018 | Ledge.ai

ABOUT THE AUTHOR / 

望月 亮輔

1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。

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