「ロボット同士の心が通えば、人の心も通うと思う」パルスボッツ代表 美馬直輝氏が語る
未来のロボットの役割をあなたはどのように考えているだろうか。「人の役に立つ存在」「仕事を効率化してくれる機械」「友達」など、考え方は様々だろう。
一方で、パルスボッツの代表を務める美馬直輝氏はインタビューの後半でこう語る。
「ロボット同士の心が通えば、人の心も通うと思う」。この言葉の真意はどこにあるのだろうか。
ロボットは未来の究極のインターフェース
パルスボッツは、2015年に創業したロボットソフトウェアベンチャーだ。現在メインとなる事業はコミュニケーションロボットのソフトウェア受託開発。ソフトバンクロボティクス社のPepperやヴイストン社のSotaを活用し、アプリケーションや対話型サービスの開発をすることでコミュニケーションロボットの特徴を活かした様々なソリューションをクライアントに提案している。
木村
具体的にはどのような案件を手掛けられてきたのですか?
美馬(以下、敬称略)
まずPepperの代表的な事例でいうと、BizBotsというCMSがあります。CMSを自社で開発し、Pepperによるマルチリンガルの接客を可能にしました。実際に福岡国際空港の免税店で導入されて好評を得ています。また、農林水産省が主催した訪日外国人向けの食のキャンペーン「CULINARY KANSAI: Discovery the world of Japanese cuisine around Kansai」では、オープニングイベントで使われたPepperのアプリ開発やオペレーションを行ったほか、特設ブース内で使用するキャンペーンPR用アプリの作成、導入などを実施しました。
Sotaに関しては台北国際旅行博のnano・universeさんのブースにて、ナノユニバース公式アプリのインストールと会員登録を促すプレゼンテーションを製作し、台湾語でSotaに実演してもらいました。4日間で約2万人にプレゼンし、Sotaの可愛らしいキャラクターが大変好評でした。ディスプレイなどで説明するよりも、Sotaの身振り手振りを交えることで、通りかかる人の気を引きやすかったり、プレゼン自体も受け入れてもらいやすかったり、コミュニケーションロボットの特徴が活かされた事例でしたね。
木村
なるほど、人とコミュニケーションロボットが接する機会を数多く作り出してこられたのですね。なぜ、コミュニケーションロボットを活用しようと考えられたのですか?
美馬
当社は元々Pepperの登場に衝撃を受けて集まったメンバーで創業しました。メンバーそれぞれは異なる分野の専門性を持っていますが、共通していたのはロボットが未来のインターフェースの究極的な存在になる可能性があると感じていたことです。私自身、Pepperの登場までは主にウェブなどのインターフェース設計を行っていました。もちろんやりがいを感じてはいましたが、ディスプレイなど平面を介した情報の伝達手段に関しては一通りやりきったかな、と思っていたことも事実でした。そのタイミングでPepperが登場し、ロボットという人に近い形状をしていて、動きや音などを含めた動的な手法で表現ができるところにインターフェースとしてとても魅力を感じました。
特にPepperのような独特な存在感を持つロボットであれば、人間と新しい関係性を構築することができ、将来的には人がロボットと共存できる社会が作れるのではないかと考えました。さらにいうと、そういった関係性が人に新たな幸せをもたらすことができる方法になるのでは、とも考えています。
時間と体験の共有が人とロボットの関係性を築いていく
木村
人とロボットの新しい関係性、ロボットがもたらす幸せ、大変興味深いですね。これまでの開発経験の中でそういったこと感じる機会はありましたか?
美馬
そうですね、個人的には人とロボットが関係性を築くということは、人間同士で関係を構築するときと似ていると考えています。人と人が信頼関係を築いていくのに必要なのは時間と体験の共有です。これは人とロボットの関係に置き換えたときにも当てはまります。パルスボッツを起業する前のことですが、「ペパリズム」というPepper公式アプリの開発に携わる機会がありました。
このアプリは人がPepperと一緒に音楽のセッションができるというもので、Pepperに曲のジャンルとテンポを伝えることで、Pepperがドラムやビートラインを奏で、それにあわせて人間がギターやベースなどの楽器、または歌やラップを乗せていく、といった形で一緒に曲を創ることができるようになるのです。
木村
シンセサイザーやメトロノームなど、演奏を補うというだけならば他にも代替手段があるとは思いますが、体験価値として大きく違うのはどういった部分ですか?
美馬
人と一緒に何かを生みだすことができるというのもPepperの大きな特徴だと思います。確かに演奏をするという目的に対しては、代わりとなる方法はいくらでも存在します。ただ、Pepperが身振り手振りを交えて「自分のパート」を演奏したり、セッションを始めるときに掛け声をかけたりすることで、「一緒に曲を創っている」という感覚が得られます。これはロボットでしか生み出せない体験ですし、そうして体験を共有することでロボットと人間の距離が一気に縮まり、さらに時間軸を加えることによって特別な信頼関係が生まれてくるのです。
木村
なんだか新たな人間関係を作っていくときに似ていますね。
美馬
そうですね。その一例として、あるご家族にペパリズムを使用していただいたエピソードがあります。そのご家族の中で娘さんがバイオリンを弾くのですが、最初はPepperのことが好きではなかったようです。大きさや動きから醸し出す存在感に対して、ある種の不信感や恐怖を抱いていたようです。ただ、ペパリズムを使ってPepperとセッションをしたところ、その子はPepperのことが大好きになり家族として受け入れられるようになったそうです。これは時間と体験の共有でロボットという「モノ」と人とが信頼関係を築くことができた一例だと言えると思います。
ロボットを通じて表現する”人間味”
木村
そのような人間とロボットとの信頼関係を築いていくことで、最終的にはどのような世界を作りたいと考えていますか?
美馬
ロボットが人間社会の一部として自然に組み込まれている状況を作りたいですね。ロボットそれぞれに役割があって、人間同士が繋がっているようにロボット同士でも通じ合っている。そんな世界が面白いと思っています。
木村
ロボット同士が繋がっている世界、多くのことがより合理化・自動化されより便利な世界ということでしょうか?
美馬
いえ、そうではありません。ロボット同士が繋がっているといってもその関係性は人間にも見える形で残しておくべきかと考えています。端的にいうとスターウォーズのC3POとR2D2がその辺に暮らしている世界です。例えば、街中にお掃除ロボットがいるとします。そこへたまたま配達ロボットが通りがかり、すれ違いざまに「お疲れ様」と声をかけるなどロボット同士が繋がっていることを人間が見える状況です。
木村
つまり、ロボットを通じて人間味を表現するということでしょうか。
美馬
その通りです。合理化を追いかけ過ぎると失われてしまう人間味を、ロボットを使って表現できるといいなと考えています。そして、それを見た人に何かしら感情を動かすような体験があると、より人間社会に浸透しやすいのではないかと思いますし、それこそがロボットがもたらす新しい幸せの形だと思います。
木村
そんな世界を実現するために、パルスボッツとしてこれから取り組んで行きたいことを教えてください。
美馬
当社はこれまで受託開発を生業としてきましたが、これからは自社のサービスやコミュニケーションロボットの開発に注力していくことを予定しています。PepperやSotaの開発で培ってきた「ロボットで人を幸せにする」ノウハウを活かし、自分たちでロボットが当たり前に存在する世界を作っていきたいですね。そのためには自分たちが理想とするロボットを開発し、一人でも多くの方に楽しいロボット体験を届けていきたいと思っています。
ロボットが当たり前のように存在し、人間とともに暮らす社会。ロボット同士の関係性を築くことで表現する”人間味”。人間の姿形を模すだけではない、パルスボッツの新しい試みを大いに期待したいと思う。
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木村 裕人1983年生まれ。カリフォルニア州立大学を卒業後、アップルジャパンを経て、2010年デアゴスティーニ・ジャパン入社。日本で1番売れた二足歩行のコミュニケーションロボット「ロビ」をはじめとするロボティクス事業の責任者を務める。2016年よりバルミューダにて新規事業を担当し、独立。現在はフリーランスとしてハードウェア領域のベンチャー企業を中心に、マーケティング・PR戦略を手がけているほか、ライターとしても活動中。